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大切な物に順番をつけたなら  作者: 天カスおうどんさん
3/6

3話-暗い夕暮れ-

 今日はやけに運が良かった。

 歌音が朝食用カップラーメンを切らしていたらしく久しぶりに朝食が目玉焼きという普通の物だったり、優宇が今日は用事があって一緒に帰れないからお詫びに、と言って俺の集めているヤダモンシールをくれた、しかも超レア物だった。

 だからだろう俺はやけにテンションが高く、いつの間にか俺の家とは程遠いこの前優宇と見た火事現場の近くまで来てしまっていた。

 今からダッシュで家に帰ったとしても歌音はもうペヤソグのお湯を沸かして夜食の準備をしている頃だろう、そこまで準備をしてペヤソグを楽しみにしている歌音に「今日の夜食はペヤソグ却下」なんて酷な事は言えないだろう。

 どうせ間に合わないならせっかくここまで来たのだしあの火事現場でも見ていくか、そこで何か優宇の喜びそうなものを見つけて教えてやればもしかしたらお礼にヤダモンシールをくれるかもしれないしな。


×××


 目的の場所に着いてみると周りには人っ子一人いなかった。

「まぁあの火事から日が経ってるしな、今更こんな所に来る奴もいないか…。」

 独り言を言いながらその家の周りを一周して見たが優宇の喜びそうな物はなかった。わかったことはこの家がただの燃えて黒くなった家だってことぐらいだ。

「はぁ…。無駄足だったか…まあでも『何も変わったことはなかった』というのも立派な情報だろう。報酬をくれてもおかしくないな。」

 用が済んだので帰ろうとしたその時、焼け焦げた家の2階の方で何か動く人影のようなものを見た。

 いつもの俺なら無視して帰っていたが今日の俺は運が良い。今見た人影がこの家の人を殺害した犯人で俺がそいつを逮捕なんて事もあるかもしれない。

 俺は昔空手をやっていてある程度体力には自信がある。強面のプロレスラーなどが犯人ではない限りそう易々と負けはしないだろう。

 俺は《お手柄高校生!殺人犯逮捕!》と明日の朝刊に載ってみたいばかりにその家に侵入することにした。

 さっき家の周りを確認した時に家の裏側が焼け崩れていて簡単に入れることはわかっていた。《立ち入り禁止》のテープが張られてはいたが、侵入自体は簡単なことだった。


×××


「これは……。」

 裏側から侵入した後、リビングに入った俺が見たものは“人が殺された場所”だった。

 キッチンの方の壁に大量の血痕が張り付いている。その後その人は必死に逃げたのだろう、点々とした血の跡が玄関に出るドアの所まで続いていた。

 他にもテレビの前に一つ、そのすぐ近くにもう一つ大量の血痕があった。

 割れた窓から夕陽がさし、その光景は一層おぞましいものに見えた…。

 優宇からここの家は父母と小学生の双子の男の子という4人家族だったと聴いている。多分キッチンの方の大量の血痕は母親、テレビの近くにある二つの血痕はその男の子達のものだろう。

 父親は事件のあった時は仕事で留守にしていて助かったが、事件のあった次の日に首を吊って自殺したらしい。

 人が人によって殺された場所、それを目の当たりにして俺は急にここに居る事が怖くなり一歩後ずさった。

 この場所から離れよう…。俺は自分の家に帰って歌音と一緒に夕食を食べて、明日からいつもの様に学校に行くんだ。俺はまた一歩後ずさる。

 これは俺とは関係ないんだ。さっき見た人影もきっと俺の見間違いだ。

 そう自分に言い聞かせ逃げようとしたその瞬間、俺は焦って足を滑らせドシン!と大きな音を立てながら転んでしまった。

「誰かいるのか!!」

 2階の方で声がした。あの人影は見間違いなどではなくやはり人だったようだ。

『犯人は犯行現場に戻ってくるっていうしね』脳裏に優宇の言葉が浮かぶ…。

 早く逃げなければ、そう思い立ち上がろうとするが足に力が入らない。恐怖で足がすくんでしまったらしい。

 立てない、それはこの状況では死を意味した。

 これは俺の足ではないのかもしれない、そう思うほどに俺の足は動かなくなっていた。もう俺には“足”という感覚がなかった。

 不安と焦りがどんどん募っていく…。

「なんでだよ!?動けよ!動けよ!!!」

 泣きそうになりながら自分の足を何度も殴るが足には一向に力が入らない。

 その間にもゆっくりと階段から誰かが降りてくる音が聴こえる。

「くそ!!俺はまだ死ねないんだ…家で歌音が待ってる!!あいつを一人にさせる訳には!!」

 俺はもう立つことを諦め這うようにして動こうとした瞬間…ガチャッとリビングのドアが開く音がした。

 俺は必死に逃げようとしたが相手は歩き、相手の足音はどんどん近くなる…。

 俺は逃げることを諦め、どうせ死ぬのなら俺を殺す奴の顔は見てやろうとそいつが近づいてくる方向に顔を向けた。

 振り向くとそこにいたのは腹部、肩などから大量の血を流していてる男だった。

「……け…た…。」

 とても小さな声で何かを言った後、男は力尽きたのか、その場で倒れた…。


×××


「いやぁありがとうね君、君がいなかったら多分僕は死んでいたよ」

 笑いながら冗談気にその男は言ってきた。

 この男が何者かはわからないが目の前で倒れている人を放っておくという事は出来ず、スマホで《傷口 応急処置》と調べ、そこに書いてあることに従いながらこの家にあったガーゼなどを拝借しこの男の手当てをした。

 思ったより傷は深くなく、小さな傷口が複数あり、そこから出血している感じだった。

 とりあえず喋れるところを見ると命に別状はないのかも知れない、素人判断だから自信はないが…。

「これは指何本あると思います?」

 俺は右手をチョキの形にし、その上に左手をグーの形で置きその男に質問した。

「うーん、2本かな?」

「不正解です、この手はカタツムリを表していました、カタツムリに指はありません。よって正解は0本です。」

 こんな保育園問題がわからんとは…ダメだこいつ…早くなんとかしないと…。

「……ぷっ!あはははカタツムリって…くくっ…何そのひっかけ問題、君中々面白い人だね。」

 その男はヤバイ折れた肋骨が痛いとか言いながらそのあと20分ほど笑っていた。


×××


「いや〜久しぶりに面白かったよ。」

「何が面白いのかは良くわかりませんが元気になったみたいで良かったです。」

「そういえばまだ名乗ってなかったね、僕の名前は雪村 続-つづき-、続でいいよ。君は?」

「俺は佐藤 アーダルベルト・K・歩って言います。」

 俺は知らない人に名前を教えてはいけないという防衛本能から咄嗟に隣の席の佐藤くんの名前を言ってしまった…ごめんよ佐藤くん。

「随分と長いね…歩くん、でいいよね?」

 偽名を使ったのに結局本名と変わらない呼ばれ方になってしまった。まぁいいか、苗字は違うんだし。

 俺はそれで良いと伝え、自己紹介も終わったことだし気になっている事を聞くことにした。

「続さんはなんでこんな所で血まみれの状態でいたんですか?」

「あぁそのことか。少し長くなるがいいかい?」

 時計をみると19時、この時間じゃペヤソグはもう冷めてるだろうし問題はないか。

「いいですよ、ではではよろしくお願いします。」

 俺がそう言うと続さんは語り始めた……。

佐藤くんがたまに歩に話しかけてくれる理由は名前が一緒だからです。

本当はこの後の話も入れて3話って感じだったのですが7000字になっちゃったので分割することにしました。4話はすぐ出せると思います。

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