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思い出すことは

「ふああぁ・・・あれ・・寝てた?」

 腕がジンジンする。腕にのっていた頭を少しだけ上げて、腕をだらんと机からのけて下に垂らした。それから顔をそのまま机の上に乗せる。


 確か今日は、この教会でこの世界ーーラクシアーーの成り立ちについてと神聖魔法ーーキズをいやしたりする魔法ーーについての勉強があったの。ただ聞くだけでも大変なのに、魔法の練習までやったからとっても疲れちゃった。なんせ魔法を使うのに自分のエネルギーのマナを使っちゃうんだもん。そりゃ疲れちゃうよ。


「なんだぁ?眠そうな餅みたいだな」

 そう言って部屋に入ってきたのはクロウ。私のお兄ちゃんみたいな人で、たまに・・というかしょっちゅうな気もするけど、こんな風に私のことをからかってくるの。ちょっとひどいでしょ?そりゃ机にほっぺつけてたら、むにってなるに決まってるじゃない。


「おもちじゃなくてただのヴァルキリーですぅー」

「ただのヴァルキリーって言い方、何か変に聞こえるのは俺だけか?あとほっぺ膨らませて下から睨んできても全然怖くねーし。つーか他の奴らもう帰ってんのに帰る準備してまだ出来てねーのかよ」

「むーっ!うるさいうるさい!私ちょっと寝てただけだもん!魔法で使ったマナを回復してただけだもん!」

 そう、魔法を使う時にいるマナは寝ると回復できるの。


「それで3時間も寝てたのかよ」

 呆れた声で言われたから、やっぱりにらみ続けてやる。

「だってそれより短いと全然回復しないじゃない」

 なんでかわからないけど、3時間より短いとほんと全然疲れとれないの。なんて不便。


「まぁ・・そうだな」

 そう言ってクロウは私の頭をぽんぽんしてきた。ちょっとイジワルで優しいお兄ちゃん、いたらこんな感じなのかな?ってクロウと一緒にいるとたまに思う。少しだけゆるんだ顔と撫でてくれる手が温かくてほっとする。だから、なんだかんだでクロウのことが好き。


「・・ほら、ニヤけてないで帰るぞ」

 クロウはテキパキと私の荷物をまとめ出した。だかられに甘えてもう少しもちでいることに決めたの。そしたら途中、軽くデコピンされちゃった。いたい。


「あんま遅いとウィルが心配すんだろーが」

「むぅ・・は〜ぁい」

 しぶしぶ顔を机から離して、クロウがまとめてくれた荷物を受けとる。ウィルって言う子は最近知り合ったんだけど、ワケありであんま外に出れないの。ほんとは一緒に勉強とかしたいんだけどな。きっとそっちの方が楽しいもん。



 ・・・でも





「やめとけ。あいつナイトメアだから下手に外出してもらっちゃ困る」

「なんで?!それどういう意味?!」

 私はクロウに噛み付くように言った。クロウが酷いことを言ってると思ったの。でも違った。


「あいつがナイトメアってばれたら、酷いと殺される」

「へ?!!ど、どうして・・?」

 びっくりして声がひっくり返ってたような気がする。それに比べてクロウの声はすごく落ち着いていて、なんとなく当たり前のことを言ってるんだなと感じたの。


「あの頭の角を見ただろう?ナイトメアっていうのは、あんな風に小さい数センチの角が生えてるわけだが、異貌状態だとあの角が肥大化するんだ。まぁ20〜30センチかね。」

「それが・・どう関係するの?」

 当たり前なんだろうな、って感じたけど、どこかで違うよって言いたい自分がいたの。何がどう違うのかうまく言えないけど、とにかく違うって言いたかった。


「ナイトメアについてよく知らない奴がそれ見たら、蛮族と勘違いする可能性があるな」

「で、でも、それってちゃんと説明すれば大丈夫じゃない!」

 なんてひどい。勝手な思い込みでそんなことまでできちゃうなんて、それこそ悪いことじゃない!たったそんなことで!!私はひたすらにムキになってた。


「それについてだけだったらそう【かも】しれないな」

「・・・他に何があるの?」

 背中がゾクゾクして気持ち悪かった。どうしてウィルがこんなひどいことに・,ううんあんなひどい目に合わなきゃいけないの?あんなひどい怪我しなくたってきっと良かった。あの時、もし私が神聖魔法で回復できなかったら、もしかしたらウィルはもういなかったかもしれない。そう思うと背中のゾクゾクがひどくなった。


「ナイトメアっていうのは俺らと同じ人族でありながら、蛮族やアンデッドと同じ【穢れ】を持ってる。そしてその【穢れ】というものに対し、嫌悪感を抱いている奴だっている。まぁナイトメアの穢れなんて小さいもんだし、死んだ奴が蘇生魔法受けて生き返っても【穢れ】はできるんだけどな」

「じゃあ別に・・」

「良い訳ねーだろ?おれら人族が信仰している神の大半は穢れを忌避してんだからな。だからやり残したことがある冒険者とかでもなけりゃ、蘇生を望む奴なんてそういねーよ。それに何度も蘇生を受けてみろ。アンデッドになんだぞ?」


 そう。私たちの信じる神様は、違いはあるけれど穢れを嫌ってて、蘇生魔法を何度も受けて穢れがたまりにたまると、その人はもう人じゃない。アンデッドになってしまうの。そして、人はアンデッドになってしまうと、たとえ大切な人だったとしてもおそってしまったりする。だからアンデッドは倒さなくちゃいけないし、【いむべきもの】になってるの。


「でもウィルはアンデッドじゃない!ウィルは私たちと同じ人族なんだよ!?」

 私はクロウに必死に言った。それは、まるでナイトメアのウィルを嫌う人たちに向かって言ってるみたいな気持ちだった。クロウはウィルのこと嫌ってないし、意味のないことなのに私はとにかく必死だったの。


「そうだな」

「それにウィルは人のこと傷つけたりしないよ!」

「・・・」

「だって・・そうでしょ?」

 クロウが急に黙ったのがなんか怖くなって、私はおそるおそるクロウにいったの。さっきみたいに【そうだな】って返事がほしくて。


「クロウ・・?」

 クロウの哀しげな顔がなぜかとても怖かった。ひどく嫌な予感がしたの。何か話してほしいのに、なんか聞きたくない。怖い。話して欲しいのに聞きたくない。自分でもなにがなんだかさっぱりわからなかった。


「安心しろ。アンジェ、おまえが思ってることとは違う」

 おまえが思ってることと【は】違う・・?じゃあなんなの・・?


「ウィルの話じゃない」

 私はわけがわかんなくて首をかしげた。するとクロウがそっと頭を撫でてくれた。そういえばクロウの顔、口の辺りから下が歪んで見えるな。あったかい手。なのにその時の私は落ち着かなかったの。


「ナイトメアの話だ」

 それってウィルのことじゃないの?私はまた首をかしげる。


「ナイトメアはな。異貌状態で生まれてくるんだ。」

 異貌って確か、頭の角がおっきくなることだったよね?・・角がおっきいまんま生まれる・・?私は何か考えようとしたんだけど、頭の時間だけが止まったみたいに動かない。何かがひどくうるさい。そう思ったら自分の心臓の音だった。首の辺りから聞こえてくるなんてびっくりだったな。


「そして赤ん坊のナイトメアは異貌をコントロールできない。要は角を小さくできない。だからナイトメア達はな、母親の腹を突き破って生まれてくるんだ。そしたらその母親はどうなる?」



 あ・・・



 クロウの言ったことがわかったし、私が不安に思ってたこととも確かに違ったけど、ただ【違うだけ】だった。


「癒し手としての能力のある神官がいるならまだ良い。生き残れる可能性がでてくるからな。でもいなかったら・・おそらく死ぬだろうな。もちろんその子の意思とは関係なく」

 最後の一言はきっと私のことを気にかけてくれてたんだと思う。でもその時の私はそんなことにすら気付けなかったの。クロウの顔もすっかり滲んでぼやけてた。風が吹き込んでくるたんびに、ほっぺが冷たく感じた。



「母親の死とともに生まれる。それがナイトメアだ」

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