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睡魔、悪魔、通り魔。

こんな生き方をして結構たった。

自分が思っていることとは全く別のことが口に出る。

思春期の時、オレはそれに戸惑った。

しかし今は特に何も感じない。

寧ろ便利な能力と思っている。

何せ、口からカラメルのように甘くて暖かい言葉が出る。

理想だ、信じる気持ちだ、願いだの。

そんな物はあり得ない、と心の中は冷めきっているが自分の口からは暖かいそれが出る。

それを自分で聞いて、モヤモヤと胸焼けした気分になることも多い。

職業というか生きていく上で、これは仕方ないもので便利な物の使う際のデメリットと割り切っている。

人を騙して利益を得るための言葉。

これがメリットならば、その自分自身の言葉が腑に落ちずモヤモヤするのがデメリットだ。


他人と自分を比べるまでもなく、世の中の奴らのほうが立派だ。

ただ、こんな生き方じゃないと過ごしていけない奴も少数だがいるはず。

自分はその少数に選ばれてしまったのか、

自分がその少数を選んだのか。


そんな一生をかけても答えが導き出されない哲学に似た問いをなんとなく頭の中で考えながら、国道沿いを歩く。

季節は春になったばかりだ。

冷たい風が時折吹くがそれは冬の名残で。

今は暖かい陽気がこの街を包んでいる。

休日の昼下がり、この暖かさ。

訳の分からない考えが頭に廻るのも頷ける。

何かアイデアが浮かぶかも知れないと思いつつ家を出たが、頭には残らない風景がいつの間にか流れ行くだけ。

気分転換の散歩は睡魔を呼んだだけで終わりそうだ。


睡魔より悪魔の様な頭脳が欲しい。

効率的に人を騙せるような新しいアイデア、手口。

人間らしい感情なんてのは二の次だ。

儲ければ良い。

そのためなら自分が誰かに悪魔と呼ばれても別に構わない。

実際、過去に言われたこともある。

その誰かを作る手口が欲しい。


今は、昔のように個人相手を騙して利益を得るという事が減った。

昔はお互い顔を合わせて話して自分を信用させる。

長い時間を使って、入念に標的を探して。

偶然を装うために、標的の行動を把握して。

建前だらけの言葉で相手を歓喜させ、楽しませる。

悲劇の主人公を演じ、相手に偽りの悲しみを共感させる。

相手が深く共感してくれたら後は流れ作業だ。

この共感は、そいつの偽善なのかそれとも自己満足なのかはどうでも良い。

人の感情ほど、上辺は分かっても底が分からないものはないのだから。

どちらも根本に「こいつのために出来ることなら何かしてやりたい。してやろう」という親身な考えがある。

後は、その出来る何かをこちらから期待するだけ。

あなたにしか頼れない…なんて言葉を吐きながら。

そして、取れるものを取れたら後は無視だ。

こういった事をして自分は生きてきた。

多くの人は詐欺だ、騙しだ、とか言うだろう。

だが、当の本人は気付いてないことが多い。


「あの人はそんな事をする人じゃない」


「自分はあの人を信じている」


素晴らしい考えをお持ちだ。

世の中こういった人ばかりになれば良い。

詐欺による被害件数が0になるだろう。


しかし、そんな人ばかりではない。

一通り取られた後に騙されたと気づく人もいる。


「信じていたのに騙された」


「あれだけの金をだしたのに…」


こんなことを言って、こちらを糾弾する。

自分からすれば、そんなもの逆怨みに等しい。

こちらは吐きそうになりそうな言葉を吐いて、金が取れる。

あんたは「困っている人を助ける自分優しい」と、自己満足できる。

win-winな関係ではないか?

何が不満なのか?

そして、相手は被害者を演じてこちらを叩く。

奴らは決して被害者ではない。

そっちのほうが詐欺じゃないか?

自分の考え方が間違っているのだろうか?

大多数の人からすれば、おそらく間違っているのだろう。


よくこういった話は「騙された奴が悪い」といわれる。

違う。

どちらも悪くない。

相手を満足させて金を貰った。

相手は満足して金を払った。

この後はどうなろうがすべて終わったことだ。

誰も騙していないし、騙されていない。

自分は期待したことをすべてして貰った。

それで終わりだ。

損失を与えたわけではなく、自己満足させた報酬として金を貰った。

詐欺じゃない。

オレがそんなつもりはなかったと公の場で言えば、それで終わり。

疑わしきは罰せず。

人の倫理的に…道徳上では…と声を上げられても、

オレには関係ないんだよ。

返報性の原理はすべての人にあてはまるわけじゃねぇ。


そして被害者を演じる役者は逆怨みも完璧に演じる。

舞台は警察、裁判所、消費者センター、何処でも主演だ。

自分は犯人役らしい。

被害者にボロクソに罵倒される役。

時には殺されかけたこともある。まるで演技とは思えない迫真の演技だった。

場所が崖や埠頭だったら、2時間のサスペンスになっていただろう。

昔はそんなリスクを負って、人から金を巻き上げて…

もとい、援助して貰いながら生きてきた。

今でもオレを勝手に怨んでいる奴はいる。


さっきから一定の距離をあけてオレをつけている奴がそうだろう。

尾行されている。

熱烈なファンなら大歓迎だが。

散歩中に睡魔と悪魔、そして通り魔か…

そう考えると世の中もファンタジーに溢れているな。


まあ、オレの勘違いだと良いが…

仕方ない。

こうしよう…


2000文字を一話と考えています。

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