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偶数日の覚醒

  日本では21世紀末から22世紀初頭かけて科学技術が大きく躍進した。それにより産み出された新たな兵器が改造人間アウトロー

  改造人間アウトローと言っても見た目は普通の人間。だがその者が持つ力は常人の何倍、何十倍にも達する。

  最初は極一部の人間が手術で手に入れていた力であるが今では民間人でも注射器一本で改造人間アウトローの力を得ることが出来るようになるまで進歩し、日本国民のほとんどが改造人間アウトローという世間に変わってしまった。

  その力は体内のDNA内の物質と結合して見出されるものなので個人個人で大きな差が開く場合も少なからずあった。

  そしてこの力を用いた戦い、力の差によって殺傷事件が多発し、日本は世界でもトップクラスで治安の悪い国となっていった。


「おい佐竹ぇ、1万でいんだよ。貸してくれるよなぁ?」

「でも僕だってそんなに金は持ってないし……」

「あぁ?俺の力を知ってその口利いとんのか」

  彼、藤原は改造によって大きな力を得たいわゆる【勝ち組】である。そして僕、佐竹京一は改造によって力を得るどころか唯一劣化してしまった超が付くほどの【負け組】である。

  文科省が実施する改造人間アウトローの力量測定では受診者7000万人中堂々の最下位であった。

  そんな【負け組】が【勝ち組】に勝てるわけもなく、結局何発か腹を殴られ財布から札を抜き取られてから解放された。

  このような境遇は僕だけじゃない。

 街に出れば【勝ち組】による犯罪行為、国会も【勝ち組】によって編成されこの世の中はすべて力を持つものによって構築されている。

  僕たち【負け組】は【勝ち組】に屈して只々この改造人間アウトローのシステムを恨むだけしかできなかった。


  帰宅して安堵のひと時に浸っていると観ていたバラエティが中断され臨時ニュースへと移り変わった。

  テロップには【新衛星誕生!ジャックと命名】と表示されていた。何やら小惑星が衝突を繰り返して誕生したらしく、今日が5月の11日だからジャックと命名されたらしい。

  確かに珍しい事ではあるが折角の至福の時間を割かれたことに腹を立てて臨時ニュースの終了をただ待っていた。


  布団に着いてもなかなか寝られず、時計を見てみると11時55分。

  毎日のように藤原のような輩に絡まれて、幼少期より続けていた野球も改造人間アウトローになって弱体化してスタメンから外され、とりわけ優れているものもない。


  なんのために生きているのか?


  ふとこの言葉が脳裏に浮かんだ。今の僕ではこの問いに答えることが出来ない。

  生きる理由を見つける為に生きているという答えは所詮逃げに過ぎないと思う。

  時計の長針と短針が重なった。


「…………?」


  体に違和感を感じた。殴られた腹の痛みではない。

  なんだか体全体が奇妙な感覚に囚われた。この感覚を言い表す的確な言葉が見当たらない。そんなような感じだ。

  結局違和感を感じつつそのまま眠りについた。


  朝になって体から違和感が消えることがなかった。もしかしたら何かの病気かもしれないな。学校から帰ったら病院に行ってみるか。日めくりカレンダーの11日を切り取りながらそんなことを考えた。

  それより朝御飯の支度をしなければならない。

  父親は仕事の出張、母親は海外に旅行しに行くと言ってからもう一年音信不通。旅行先でのトラブルか、治安の悪い日本と家族を捨てたのかは正確には分からないけど連絡が一切こないことを考えるとおそらく後者だろう。という理由で今は家に一人しかいないわけだ。もう何日かすれば父親が帰ってくるまでだが、それまでの一人暮らしの間家を守れるかすら不安だ。

 トーストに目玉焼きを乗せテレビのニュースを見ながら食べる。

  テレビでは昨日の新衛星ジャックの話一色になっている。画面の奥の専門家がジャックが放つ放射線の透過性が強いだとか、副作用があるだとか、公転周期が極端に短いだとか言っている。なかなか迷惑な衛星さんが誕生してくれたなと思いながらトーストを食らった。


  登校途中一番会いたくない顔を見つけてしまった。奴も僕に気付いたらしく不敵な笑みを浮かべて此方へ近づき正面で立ち止まっている。

「あ、あのぅ何か用かな?藤原くん」

「ちょうど良かった佐竹。実は昨日のお前がくれた金を落としちまってよ。もっかい貸してくれるよなぁ?」

 そう言うと勝手に僕の鞄から財布を取り出そうとしてくる。

  金を渡したくないし、そもそも落としたというのも虚言だろう。どうせこれからも金を取るんだろうからいちいち面倒な嘘をつかなくていいのに。

  とりあえずここは学校まで逃げるのが得策だろう。鞄をあさる藤原をか弱い力で振り払った。

  刹那、騒音と共に目の前にいたはずの藤原の姿がなくなっていた。辺りを見回すと此処から30メートル以上離れた場所で傷だらけの彼が意識を失って倒れている姿が目に留まった。


「………………ぇ、え?」








 

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