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物の見事に物の見方。

強大なる鏡台の前に立ち塞がった真っ白な白装束を身につけたその大男は、さながらホワイトハウスの様に凜と仁王立ちしていた――、鏡という物は自分の姿を確認する時に使われる事が多い。それをシャットアウトするように鏡台を背後にし、悠然とした表情で漠然とした表情の私を見据える。


私の姿など確認させまいと、俺の姿だけを見ていろと言うようなどっしり構えた姿が、私の心を鷲づかみにするのは容易い事であった。


彼が一体どれ程の意志を持ち、鏡台の前に立ちはだかるのか、一体どのような覚悟で、鏡台の前に逞しく立ち塞がるのか。それは私に分かるはずも無い事だった。しかし、唯一言えることがある――


―――それは、一目瞭然であった―いや、この表現はいささか正しくない、こちらからでは大男が死角となり、一目瞭然と表現しようとした対象の彼の背後は見えないのだから、だがしかし、敢えてここは一目瞭然という表現を使わせて頂きたい。

本来見えるはずはないが、見えるかのように錯覚させる彼の鷹揚な立ち姿に――鳳凰を思わせるその雄大さに、称賛を込めて。一目瞭然な彼の巨大な背中の力に平伏す。


――鏡台にある巨大な鏡に映っていたのは、弁慶を思わせる巨大な背中、それはこの男の雄弁さを物語っていた。惜しみない称賛を送りたい程に広く、そして傷一つ無いその背中を、鏡も捉えていた。今この瞬間に、この場所にある物全てが彼を向き、精力を奪われて無気力になり、自分を今一度見つめ直し、自分という人間の本質を再確認させられただろう。しかしながらその瞬間もその眼は確実にその大男の方を向いていたであろう。


――あらかじめマンションの屋上から垂らしておいたロープをつたい、壁をよじ登り、鍵の開いた窓を見つけ、進入し、金目の物だけを盗み、逃げようとしたが鏡台の前で私と目が会い、気まずい雰囲気になり、どうすれば良いのか分からずただその場に立ち尽くしていた彼を誰が責められようか。そのコソ泥は、確かに姑息な手を使おうとしたが、その雄弁さ、雄大さ、鷹揚さ、そしてその全てを顕した彼の背中に、我々は生きるという事の意味を再認識させられたのだから。

とどのつまりこの一件は110番をして、一件落着といこう。

そう思った矢先、大男はその重量感たっぷりのずっしりとした身体で一歩ずつ踏み出して窓に手をかけた。

続けざまに両足をガムテープで貼ったかのようにくっつけあわせ、地面を蹴った。空中で横へ向けた両足を地面と水平な角度で保ちつつ、前傾姿勢になる。窓にかけた手の指先にぐっと力を入れ、窓から出かかった身体を一押し、彼の身体は完全にマンションから離れ、宙に浮く。必死で手を伸ばし、何度か空を切ったが見事公園などにあるはん登棒をずり落ちるかのようにロープにしがみつき、ぐんぐんと降りていき、綺麗に着地した、見事。

――ああ成る程。


――これは本当に、文字通りの『一件落着』なのですね。

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