道
それは道である。そこでは誰もがたったひとつの目的のためにまるで大名行列のごとく一心不乱に歩いていた。老若男女、しかもそれぞれ学生服だったり、背広だったり、警察の制服だったりとバラバラだ。
「ーーどうしてならんでいるの?」
それを見た少年が問うた。
だが、並ぶ人々は一堂に――
「理想郷へ行くためさ」
そういってはぐらかし本当の意味を教えてはくれない。だから、少年は気になってこっそりとついて行ってみた。
十分、二十分、はたまた一時間だろうか? 無限とも思える時間の後、少年の番がやってきた。
「おや?」
そして、少年の前に立った車掌のような服を着た男は不思議そうに少年を見た。
「君はまだ切符を持っていないね」
「切符?」
「そう、切符さ。それを持っていないとあっちへは連れて行ってあげられないんだ」
「どうして?」
「どうしてもさ。ほら、お帰り。ここはまだ、君の来るところではないんだから」
そう車掌は優しげに微笑み、少年を追い帰す。
そして、次に少年が見たのは白い病院の天井だった。身を起してみると目に涙を浮かべた母親が彼に抱き付いてきた。彼は自動車事故に巻き込まれ、意識不明であったのだと次いで来た医者は語る。
「――そっか」
うなずいてあの車掌の言っていたことが分かった。あそこがどういうところなのかも。あそこは彼岸。生と死の狭間であったのだ。
あの道は死者の道。理想郷とはーー
「天国か」
そう、世にも奇妙な体験に、少年はどこか楽しげに笑うのだった。