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縁談話の裏に潜む本音のようなモノ

「ここか」


 クロスフィードは現在、とある邸の前に立っていた。


 王都からほど近い町にあるその邸は、貴族の邸と比較しても見劣りしないほどに立派な邸だった。おそらく邸の中は伯爵家よりも立派な事だろう。


 この町は先日訪れた町でもあり、クロスフィードもこの邸の事は知っていた。


「さすがスヴェレラ商会会長の本邸。噂通りの立派な邸宅だな」


 目の前の邸は、クロスフィードに縁談の申し込みを送って来た商家の本邸だった。


 スヴェレラ商会は国内でも名の知れた商会だ。

 物資の流通を主に行っており、他にも幅広く事業を展開している商会で、スヴェレラ商会に頼めば手に入らないモノはないとまで言わしめている程、その信頼と実績は確かだ。

 国内だけでなく、国外にも独自の仕入れルートをいくつも持っているらしく、商業国家として名高いナヤル国の商家とも取引を行っているとか。


 一代でここまで商会を大きくした邸の当主の手腕は驚嘆に値するが、当主は残念な事に平民でしかないのだ。

 貴族でもない者がここまでの実績を積み上げる事は容易ではなかっただろう。そのため、次に欲するものが『爵位』であるという事には納得できる。


 本来なら、スヴェレラ商会はその事業展開で国にとっても大きな利益をもたらしているため、国から爵位を賜る事も可能なくらいには功績を上げている。しかし現在、国から爵位を賜る事は出来ない。それはアイリスフィアがまだ王子であり、国王の地位には代理の者が就いているからだ。

 爵位を与える事ができるのは王のみだ。たとえ王子であっても爵位を与える事は出来ないし、まして国王代理である公爵にはその権限すらない。現状ではできてしまうのかもしれないが、それを『守護者』が許すわけがないだろう。


 そんな事情もあり、当主は爵位を得るために伯爵家に縁談話を申し込んでくるのだろうとクロスフィードは考えていた。


「伯爵家としてもお近づきになりたいんだがな……」


 クロスフィードは商家の娘と婚姻を結ぶ事などできないため断る事が前提になる訳だが、少しばかり下心も残っていた。

 伯爵家にしつこいくらいに縁談の申し込みを送ってくる背景にイグルマティウス侯爵からの縁談話があるというのなら、この縁談話はさっさと断ってしまった方が賢明だ。しかしその辺りの解決に手を貸せばお近づきになれるかもしれないという打算的な考えが浮かんでしまうのもまた事実だった。


 エミルディランには早く断れと言われたためとりあえず断りの手紙を送りはしたが、おそらくまた縁談の申し込みは届けられるだろうとクロスフィードは思っていた。そのため今後のために少しばかり情報を集めてみようと考えたのだ。


「金物屋の店主にでも話を訊きに行ってみるか」


 そんな事を呟きながら、クロスフィードは邸の前から離れた。






◆◆◆◆◆






 この町はスヴェレラ商会の本拠地であるため、いろんな店が軒を連ねている。その全てがスヴェレラ商会の傘下にある店ではないが、それでも商会と懇意にしている店が多い事は言うまでもない。

 伯爵家が懇意にしている金物屋の店主はどうなのだろうかと少しばかり考えながら通りを歩いていると、不意に声をかけられた。


「また会ったな」


 やる気のなさそうなその声に振り向くと、そこには先日会った騎士がいた。

 目の前に立っているエダンマキナは、前にあった時と同じように騎士服を着崩しており、やる気のなさそうな雰囲気でそこにいた。


「こんにちは」

「こんにちは」


 挨拶をすると、同じ言葉が返ってくる。声をかけてくれたのだから何かしらの話題を振ってくれるだろうと思いながら続く言葉を待っていると、目の前の騎士は何も言わずにそこに立っているだけだった。


「あの」

「何だ?」

「今日はいい天気ですね」

「そうだな」


 そして再び会話が終了した。

 クロスフィードは、先日会った時はアレクヴァンディがいたから会話が成立していたのだと瞬時に察した。


 万能の話題である天気の話すらもする気がないなら声をかけて来なければいいのにと思わずにはいられない。

 しかし声をかけてくれたということ自体はクロスフィードにとっては嬉しい事だったため、とりあえず話題を振ってみる。


「エダンさんは巡回中ですか?」

「いいや、サボり」

「……そこは嘘でも頷いておいて欲しかったです」


 悪びれることなく堂々とそんな事を言わないでくれと思いながら、クロスフィードは思わずため息を吐いた。


「貴方も騎士なんですから、もう少しやる気を出してくださいよ……」

「別に意気込んでやるような仕事ではないからな、騎士は」

「そうですか?」

「そうだ」


 そう言われても、クロスフィードはやはり納得がいかないとばかりに首を傾げた。


 やはり騎士というモノは、皆の手本となるような振舞いをして欲しいと思う。


「私には騎士になりたいと思っていた時期もあるので、今でも騎士にはそれなりに憧れがあるんです。それを崩さないでください……」

「そうか。それは悪かったな」


 全く悪いなどとは思っていないようなその声音に、クロスフィードは自分が諦める事にした。


「まあ、いいんですけどね……」


 騎士という職業にはそれなりに理想と憧れがあるが、現実は違う事くらいクロスフィードだって知っている。

 先の近衛騎士団内の粛正の件でもそうだったが、騎士の中にはその心得すら持ち得ない者がいるのだ。そういった者たちが騎士をしている現状がある以上、騎士だからといって誠実な者ばかりかと訊かれれば、そうではないとクロスフィードだって答えるだろう。


「アンタも騎士になりたかったのか?」

「子供の頃の話です」


 騎士の問いかけに、クロスフィードは苦笑を返す。


 クロスフィードは昔から騎士と接する機会が多かった。それは父親が元近衛騎士であり、その友人二人が今では両騎士団の団長を務めているからでもあった。そのため、クロスフィードは幼い頃から騎士に憧れを持っており、いつか騎士になりたいと思っていた時期もあったのだ。しかしクロスフィードは伯爵家の跡取りで、しかも女という事もあり、騎士にはなれない事を知った。


 そんな訳で騎士になる夢は諦める事になったが、未だに憧れる気持ちはあるのだ。


「どう頑張っても、私は騎士になれませんからね」

「アンタは跡取り息子だもんな」


 そんな言葉を返してくるエダンマキナに、クロスフィードは小さな笑みだけを返した。


「騎士になりたい奴はなれないのに、なりたくない奴が騎士になっちまうんだもんな。世の中ってのは上手くいかない事の方が多いんだと、お前たちを見ていると思う」

「お前たち?」

「アンタとアレクの事だ」


 思わぬところで知っている騎士の名前を聞いたクロスフィードは、少々目を瞠った。


 エダンマキナの言葉から察するに、アレクヴァンディは騎士になりたくなかったという事だ。


「アレクは騎士になりたくてなった訳ではないんですか?」

「何だ、アイツから聞いてなかったのか? まあ、アンディの事も話してないみたいだし、聞いてないのも当然か」


 一人で納得してしいるエダンマキナが、悪いな、と断りを入れてくる。


「アレクの事は本人に訊いてくれ。俺が話したって知ったら、アイツ絶対俺に仕返ししに来るだろうから。そんな事になったら面倒だし、俺からは話さない」

「それだけ聞くと何となく事情を察してしまえるので訊き難いです……」


 クロスフィードはアレクヴァンディからそういった話を聞いた事がないため、ただ話題に上らないから話さないだけなのか、それとも知られたくないから話さないのか分からない。しかし今の話で後者であると判断した。


 他人がそれを話してアレクヴァンディが怒ってしまうというのなら、本人に聞くのも憚られる。


「本人がいないところでそれを訊こうとは思っていないので、彼が話してくれるまで待ちますよ」

「そうしてくれ」


 思えばアレクヴァンディは自分の事を滅多に話さない。

 アレクヴァンディの方は噂もあって伯爵家の事情は知っていたが、クロスフィードの方は彼が騎士だという事くらいしか知らないのだ。最近少しばかり見えはじめるアレクヴァンディに関しての事柄は、本人からではなく他人から情報が入ってくるものばかりだった。それくらいアレクヴァンディ自身から身の上を聞いていないのだという事ではあるが、そこに食い込んだ話題を振る事に関して、クロスフィードは躊躇いを持っていた。

 過去の事件を調べていると知った時のアレクヴァンディの様子を思い出すと、食い込んだ話を振ってもただ困らせてしまうだけなのではという思いが先に立ってしまうのだ。


「悪かったな、足止めして。じゃあ俺は行くから」


 そう言ってあっさり立ち去ろうとしているエダンマキナに、クロスフィードは慌てて声をかける。


「あの、ちょっと待ってください」

「ん? どうした?」


 エダンマキナはこの町の駐在騎士なので、スヴェレラ商会の事に関して何か情報を持っていないだろうかとクロスフィードは考えた。


 足を止めて振り返ってくるエダンマキナに笑みを返しながら、クロスフィードはとりあえず窺いをた立てみる。


「少し訊きたい事があるのですが、もう少しだけいいですか?」

「アレクの話ならしないぞ?」

「それは本人に聞くので貴方には訊きません。訊きたいのはスヴェレラ商会の事です」

「スヴェレラ商会?」


 イグルマティウスの事も聞きたいところではあるが、貴族の事は貴族に聞いた方が早いだろうと思い、今はとりあえずスヴェレラ商会の情報を仕入れる事にする。


「何でまたそんな事を聞くんだ?」


 少々眉根を寄せているエダンマキナの反応を認めながら、クロスフィードは無難な答えを返す。


「我が家の領地では農家が盛んで、できれば新しい出荷ルートの開拓などをしたいなあと思っておりまして……」

「そう言えば、伯爵家の領地では農業が盛んだっていう話だったな。しかしそういう話は直接当主と話せばいいだろう? アンタんとこに娘の縁談話がいってる訳だし」


 その言葉にクロスフィードは目を瞠った。しかしすぐにハッと我に帰ると、エダンマキナの腕を引いて路地裏に入る。


「何で貴方がその事知っているんですか!?」

「ちょっと小耳にはさんだだけだが……、事実だったのか。面白いこと聞いたな」


 人気がないところまで足を進めたクロスフィードがそこでようやく話の続きを口にすると、エダンマキナが面白そうに言葉を返してくる。それを目の当たりにしたクロスフィードは、噂になるはずがないその話を一体何処で仕入れたのだろうかと少々眉根を寄せた。


「あの、この話はあまり人には話さないでくださいね。スヴェレラ商会の方にも迷惑がかかりますし」

「そうだろうな。縁談が纏まったってんならまだしも、まだ会ってもいないうちからそんな話が出ちまったら、破談になった時の打撃が大きすぎるだろうし」


 スヴェレラ商会の当主は伯爵家がどういう事情を抱えているのかは既に承知している事だろう。そのため、当主の娘の縁談の申し込みは、いつもかなり回りくどいやり方で届けられている。縁談が纏まるまでは公にしたくないという意志が窺えるこの行動には、伯爵家としてもそれに従って断りを入れている状態だった。

 しかしどれだけ断ってもめげない当主の執念には爵位への執着を感じるが、当主は破断が公になった時の商会への打撃もちゃんと考えているような冷静な人物である事もまた窺えるのだ。


 スヴェレラ商会は貴族たちとの取引も多く行っているため、貴族たちから冷遇されている伯爵家に縁談を断られたとあっては、商会自体が今後軽んじられてしまう事は想像に難くない。貴族たちから冷遇されている貴族家に縁談を蹴られる事は、どれだけ信頼と実績を備えていようと所詮当主は平民である、という認識を強めてしまう事にもなりかねないのだ。

 そういった事も考えて、当主は娘の縁談話を内密に進めたいと思っている事だろう。 イグルマティウスからの縁談話があるというのが事実なら、尚の事、伯爵家との縁談話は隠しておきたいと思うのは当然の事だ。

 イグルマティウスにこの事が知られれば、スヴェレラ商会にとっても伯爵家にとってもいい事など一つも起きないのだから。


「で、アンタは断ってる訳か?」

「答え難い質問しないでください……」


 そう言いながらため息を吐くと、エダンマキナから、そうか、とだけ言葉が返って来た。


「断って正解だと思うぞ? どうせ上手くいかないだろうし」

「それはどういう意味で、ですか?」

「家が喰われるという意味で、だ」


 さらりと言われたその言葉に、クロスフィードはため息しか出なかった。


 確かに伯爵家は貴族たちから冷遇されており、背負った罪は消える事はない。しかしその伯爵家が商家と縁戚関係になる事で商家の方に吸収されてしまったとしたら、少しばかり事情が変わってくる。

 娘を嫁がせてその爵位を利用するだけでは、今まで通り伯爵家は貴族たちから爪弾きにされ、商家もそれに巻き込まれてしまうだろう。しかし伯爵家が商家に取り込まれ、商家自体が伯爵家にとって代われば、クロスフィードが守るべき伯爵家は潰える事となる。


 要は罪を犯した伯爵家がなくなり、新しい伯爵家が誕生するという訳だ。


 現状、国から爵位を賜る事ができない以上、商家の当主がこれを狙っているというのは想像に難くない。


 商家の方には周りからの十分な信頼がある。縁談がまとまった当初は多少敬遠されてしまうだろうが、それでも積み上げてきたもの全てが壊れる訳ではない。伯爵家を取り込み、その爵位を手に入れる事ができれば、スヴェレラ商会はより多くの事業展開を望めるようになる。


 とは言うものの、実際そうなるとは限らないし、ましてクロスフィードが娘との縁談話を受ける事など出来はしないので、この話はあくまで仮定の話でしかない。


「そういった事は私も予想してますけどね……。私は当主にお会いした事がないので何とも言えませんが、エダンさんから見てもそう思われますか……?」

「そうだな。あの当主ならやりかねないな」

「そうですか……」


 一代でこれほどまでの財を築いた人物でもあるため、一筋縄ではいかない事くらい百も承知である。

 しかし現状、婚姻のための情報を集めている訳ではないので、その話題は一端横に退けておく。


「そう言えば娘さんがいる事は知っていますが、他に兄弟はいないんですか?」

「確か兄貴が一人いたはずだ」

「お兄さんがいるんですか……」


 クロスフィードは跡取りとなる人物がいた事にますます伯爵家の乗っ取り計画が有力となった事実を思い知った気がした。

 しかしながら、クロスフィードとしてもスヴェレラ商会と懇意になりたいという思いがあるために、兄の方で手を打てないかと少しばかり考えてしまった。


「アンタがもう少し面白い情報くれるってんなら、こっちももう少し情報をやってもいいぞ」


 ニヤリと口元を歪めるエダンマキナを目の当たりにしたクロスフィードは、相手もまた何かしらの情報を欲している事を知る。


「何が聞きたいのですか? 言っておきますが、大した情報は持っていないので期待しないでくださいね」


 知りたい事を教えてもらわなければ情報を提供する事も出来ないため、一応聞いてみる。

 しかしクロスフィードは聞いてしまった事を物凄く後悔した。


「具体的な金の流れを知りたい。監査官長と知り合いなら是非紹介してくれ」

「……すみません。聞かなかった事にしてもいいですか?」


 知ってはいけない何かを垣間見てしまった気がして、クロスフィードは嫌な汗をかいた。


 監査官とは国庫の管理を任されている人たちの事で、国の財政を取り仕切っている人たちでもある。

 クロスフィードはその長となる人物が誰かという事は知っているが、残念ながらその人物とは話をする事すらできない。


「申し訳ないのですが、無理です」

「無理なのか? おかしいな……」


 何がおかしいのかはこの際無視する事にする。


「あの、一つ言っておきますが、もし監査官長殿に会ったとしても私の名前は出さない方がいいですよ?」

「どうしてだ?」

「あの方は伯爵家をすこぶる嫌っておられるので、私の名前など出してしまった日には話すら聞いてもらえなくなりますよ……」

「そうなのか? 聞いてた話と随分違うな……」


 一体どんな話を誰から聞いたかは知らないが、随分違うという事は誤情報も甚だしいものだったに違いない。


 そんな事を考えながらため息を吐いているクロスフィードを余所に、話を聞いたエダンマキナは、うーん、としばし唸った後、まあいいか、と持ち前の諦めの速さでこの話を完結させた。


「まあ、それも一つの情報だからな。有り難く貰っておこう」

「こんな情報でよければいくらでもありますから持っていってください……」


 伯爵家が嫌われている情報など掃いて捨てるほどある。悲しい事に。


「じゃあ約束通り、俺からも情報をやろう」


 そう言ってニヤリと笑みを浮かべる目の前の騎士に、クロスフィードはその話があまりいい情報ではない事を悟る。


「あの娘、恋人いるぞ」

「え……、ええ!?」


 一瞬誰の事だと首を傾げそうになったが、瞬時にそれを察し、クロスフィードは目を見開いて驚愕した。


「もう乗っ取り確実じゃないですか!?」

「そうかもな。アンタも大変だな」


 まるで他人事だというような言葉を返してくる目の前の騎士に少々怨みがましい視線を送っておく。


 商家の娘の方に恋人がいるというのなら、伯爵家を乗っ取ったあかつきにはその恋人と一緒になるのだろう事は容易に想像できる。

 一時の辛抱だと言ってクロスフィードに嫁ぎ、完全に伯爵家を手中に入た後、その恋人と添い遂げる。そういった計画があるのだとすれば、クロスフィードとは仮面夫婦を演じつつ、その恋人との間にできた子供を伯爵家の跡取りに据える。そうする事で伯爵家を完全に乗っ取る事が可能となるという訳だ。


 これは極端な話ではあるが、大方そういった事になるだろう可能性は十分すぎるほどに見える。


「で、ですが、会長の娘さんには イグルマティウス侯爵からも縁談話が来ていると聞きましたが……。まさか……」

「何だ、その話は知ってたのか。だが相手は侯爵じゃないぞ。侯爵からの縁談なんぞ当主が一蹴してるって話だしな。その縁談話が纏まる訳がない」

「そうなんですか……」


 イグルマティウス侯爵からの縁談は事実で、伯爵家にしつこいくらいに縁談の申し込みを送っているというのに、娘には恋人がいる。


 何となく話がややこしくなっているような気がしてならない。


 この件は深入りしない方が賢明だとクロスフィードは判断し、スヴェレラ商会お近づき計画はスッパリと諦める事にした。


「……その情報は有り難く頂いておきます。ありがとうございます」

「また面白い情報が手に入ったら教えてくれ。そしたら俺もそれ相応に情報をやろう」

「何と言うか、エダンさんっていろんな情報持っていそうですね……」

「まあ、それなりにはな」


 商家の娘の縁談話から監査官長についての情報|(誤情報だったが)を持っているという事は、下手な情報屋より多くの情報を持っていそうである。

 しかしながら、情報を提供すれば相応の情報を貰えるというなら、それを利用しない手はないだろうとクロスフィードは考えた。


「情報が欲しくなったら、エダンさんの所に行きますね」

「俺結構アンタの事は気に入ってるし、いつでも来てくれて構わないからな」


 どの辺りを気に入られたのかはよく分からないが、嫌われている訳ではないというのならそれに越した事はない。

 クロスフィードはまた機会があれば尋ねてみようと秘かに思った。


「お時間を取らせてしまってすみませんでした」

「いや、構わない。サボっている最中だからな」

「……そうでしたね」


 クロスフィードは忘れていた事実を思い出し、目の前の騎士に生温かい視線を向けた。




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