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作戦に嵌る愚か者、囮になった憐れ者

 今回の作戦は、勝者に王子直属の騎士になれる権利が与えられる可能性があると言う噂を流し、選手になっている近衛騎士たちがその噂に惑わされて、相手選手を闇討ちするように仕向けるというものだった。そのため対戦相手となっている一般騎士団の選手たちにはその囮となってもらい、その情報を元に証拠を集め、近衛騎士団内の粛正を行おうというのが、エミルディランの狙いだった。


 親善試合の対戦相手は事前に両騎士団の団長たちが決めるのだが、それは当日まで公開される事はない。しかしエミルディランはその対戦表をわざと盗まれる事で、事態の同行を見守った。


 その目論見通り、近衛騎士団側の選手たちは面白いほどにその策に嵌っていった。闇討ちはもとより、事故に見せかけた奇襲、異性を使っての誘惑、金を積んでの買収。家の権力を使いありとあらゆる不正を行う騎士たちに、近衛騎士団長並びに補佐官は呆れてものが言えなかったという。


 そんな訳で、粛正のための罠だとも知らずに不正をしまくった騎士たちは、『王子直属の騎士になれる権利』を得るために親善試合当日を迎える事となった。


 試合後、処罰されるとも知らずに――。






◆◆◆◆◆






 親善試合は午後からという事なので、クロスフィードはその少し前に王宮へとやってきた。いつものように裏門から詰所へと入ったクロスフィードは、一直線にとある場所へと向う。


「アレク!」

「おう、来たか」


 王宮の西の端に在る小屋の前で待っていたアレクヴァンディに、クロスフィードは思わず駆け寄った。

 そしてその無事な姿にホッと息を吐く。


 この五日間、クロスフィードは計画の邪魔になってしまうといけないと思い、王宮には来ていなかった。アイリスフィアはエミルディランの計画の手伝いをしていたし、アレクヴァンディは相手選手の企みを回避するためいろいろ動いていた。そんな訳で、結局のところ誰に会える訳でもなかったので、クロスフィードは大人しく家で父親の仕事の手伝いをしながら今日を迎えた。


「元気そうでよかったよ」

「元気に決まってんだろ? まあ少しばかり危ない時もあったが、先輩方に助けてもらったりしたからな。こっちの選手はみーんな無事だ」


 対戦表を流す事で、選手に選ばれた詰所の騎士たちは皆一様に身の危険に晒される事となった。しかしそれは事前の根回しにより、詰所の騎士たちが一丸となって選手たちを護り抜いたのだ。こういった団結力は、今の近衛騎士団にはないものだった。


 クロスフィードはアレクヴァンディからこの五日間の状況を聞きながら、その不正の叩き売り状態に呆れてものが言えなかった。


「まあ選抜選手の先輩たちの話だと、昨日はみんな刺客と一戦交えたそうだ。試合には出られるけどまともに戦えない、くらいにはしておこう思ったのかねえ」

「全く笑えないね、それ……」


 そこまでするか、と呆れながらも、神聖な親善試合の場を何だと思っているのだろうかと怒りが込み上げてくる。


「こっちの騎士団の選手は、俺を除けばみんな精鋭揃いだ。今年の親善試合は見物だぞ」


 いろいろとな、と含みのある言い方をするアレクヴァンディに、それが何を意味しているのかを正確に把握したクロスフィードは、そうだな、と苦笑を返した。


 今回の親善試合は、おそらく詰所の騎士団の圧勝で終わる事だろう。


「そう言えばエミルからの手紙に書いてあったけど、この五日間アイリスが剣の稽古に励んでたっていうのは本当か?」

「ああ、それか?」


 アレクヴァンディは笑いを堪えるような仕草を取ると、面白かったと言わんばかりに状況を教えてくれる。


「アイツ、クロスの前で恥ずかしいところは見せられないとか何とか言って、わざわざ詰所の方に来て鍛錬してたぞ?」

「そうなのか? というか私はアイリスが剣を扱えた事のほうが驚きなんだが……」

「んあ? お前アイリスの騎士姿が見たいって言ってなかったっけ?」


 少しばかり首を傾げながら聞いてくるアレクヴァンディに、クロスフィードは、そうだ、と言葉を返す。


「今日のアイリスは式典用の騎士服を着るだろう? その姿が見たいと言ったつもりだったんだが……」

「ええ!? そういう事だったのか!?」

「当り前だろう? アイリスは体が弱いんだから、試合なんて出来る訳ないと思っていたし」


 まさかアイリスフィアが剣を扱えたとは思ってもみなかったクロスフィードは、剣を振るう姿を見られる驚きより、試合に出て大丈夫だろうかという心配の方が勝っていた。しかしアイリスフィアが努力したという事が何とも微笑ましく思えて、クロスフィードはその姿を想像して思わず笑みが浮かんだ。


「まあ何と言うか、アイツ結構頑張ってたんだ。だからちゃんと観てやってくれ」

「もちろんだ! 今からとても楽しみだよ」


 クロスフィードにとっては初めての親善試合観戦であるため、本当に彼らの試合を楽しみにしていた。


「試合前にこんなところで待っていてもらってすまなかった。てっきりエミルが待っていると思っていたんだけど。やっぱり彼は忙しいみたいだね」

「アイツは実行委員長だからな。やる事がたくさんあって逃げたい、って言ってたよ。アイリスは事前準備で忙しいのか、俺も今日はまだ会ってないんだ」

「そうか。皆大変そうだな」

「まあな。だから一番暇な俺がここで待ってた訳だ」

「君だって試合があるんだから暇ではないだろう? 私だけが暇で申し訳ないよ」


 そう言って苦笑しながら肩を竦めて見せると、アレクヴァンディも笑みを返してきた。


「じゃあそろそろ行くか」


 その声に促され、クロスフィードはアレクヴァンディと共に足を進め、林の先へと向かう。

 そうして歩きながらも、クロスフィードはアレクヴァンディに声をかける。


「そう言えば、アレクは何試合目に出るんだ?」

「俺か? 俺は初戦だ」

「じゃあ前座で戦うアイリスの次の試合か。連続で観られる訳だな。楽しみだな」

「ちゃんと観てろよ。お前に酷い事言ったあのバカ野郎をボッコボコにしてやるからな」

「期待している」


 そんな会話をしながら林の先の庭に出ると、そのまま詰所の方に在る闘技場を目指して歩き出す。

 そうして歩きながらも他愛ない話で盛り上がり、詰所まで目前というところまで来た時、並び立つ植え込みの陰に潜んでいた不穏な人影が突然飛びかかって来た。しかし話に夢中になっていたクロスフィード達はそれに気付くのが一瞬遅れてしまう。


 クロスフィードが視界の隅に鈍い光を捉えた時には、既に相手は剣を振り下ろす直前だった。


「アレク!」

「な……っ!?」


 咄嗟の事で頭が回らず、クロスフィードは気付いたらアレクを庇い、左肩に刺客の刃を受けていた。


「直前まで来るのかよ……っ!」


 そんな事を吐き捨てながらも、アレクヴァンディは自身の剣を素早く鞘から抜き、刺客に応戦していた。

 その剣捌きは荒いながらも圧倒的な早さと強さを持っており、あっという間に刺客をその場に沈めてしまった。


「おお! アレクは強いな」

「何を呑気な……っ。悪かった、油断してた」


 見せてみろ、とアレクヴァンディに肩を掴まれ、クロスフィードは痛みに顔を歪めた。それに気付いたアレクヴァンディはすぐにその手を離す。


「ああ、悪い。傷は浅いが早く手当てしたほうがいいな。詰所の医務室に……どうした?」


 アレクヴァンディが話している最中に、クロスフィードはその場にペタンと座り込んでしまった。

 体がおかしい事に気付いたクロスフィードは思わず自分の手に視線を落とすと、その手が不自然に震えていた。


「おいおい。まさか剣に毒塗ってやがったのか……っ」


 クロスフィードの異常に気付いたアレクヴァンディから怒りのこもった声が聞こえてくる。しかしクロスフィードはそんな彼に冷静に返す。


「おそらく神経麻痺の毒だろうね。体が思うように動かない」

「何でそんな冷静に……っ」

「相手だって殺そうとは思っていないと思う。おそらくこの毒は体が痺れるだけのものだと思うよ。これだけの即効性を考えると、たぶん効き目は短時間だろう。アレクの試合は初戦だろう? だったら効果も初戦が終わる頃には消えていると思うよ」


 そう告げながら、クロスフィードは座っている事すら出来なくなり体がぐらついた。しかしそんな体をアレクヴァンディが支えてくれる。


「不戦勝を得ようとしたって事か? そこまで相手はバカなのか!?」


 あり得ないだろうというように吐き捨てるアレクヴァンディに、クロスフィードは不戦勝を得ようと考えた訳ではないだろうと確信していた。

 『王子直属の騎士になれる権利』が餌としてある以上、戦って勝たなければその権利を得られないという事は相手だって分かっているだろう。だからこそこの五日間いろいろな不正が横行していたのだ。当日になって襲うという事は、より有利に試合を進める為の準備にすぎないはずだと、クロスフィードは考えていた。


「本来なら体に痺れが残るくらいの効果なんだと思う。相手がアレクだったらね」


 そう告げると、アレクヴァンディは途端に苦虫を噛み潰したような表情になった。クロスフィードはそんなアレクヴァンディに、そんな顔をするな、と声をかける。


「私は君より体が小さい。だからアレクの体格に合わせた毒も私には効き過ぎてしまうのは仕方がない」

「すまん……っ」

「アレクが悪いわけじゃない。それに私はアレクを庇えて満足しているから、謝らないでくれ」


 腕さえをもう持ち上げる事が出来なくなり、完全にクロスフィードはアレクヴァンディに寄りかかる。


「ちょ、おい!」

「大丈夫だ。体が動かないだけだから。頭はちゃんとはっきりして――」

「何をやってるの?」


 震え上がる程冷たい声音がアレクヴァンディの背後から聞こえてきたが、クロスフィードがその人物の姿を確認する事は出来なかった。しかしその声は知った人物の声だったため、クロスフィードは然程驚くこともなかった。


「クロス」


 アレクヴァンディの正面に回り込んできたその人物は、クロスフィードの予想通りエミルディランだった。エミルディランはクロスフィードのすぐ近くに膝をつき、その症状を確認するように顔を覗き込んだ。それにクロスフィードは笑みを返す。


「大丈夫。体が痺れているだけだから」

「他には」

「他は何ともない。頭もはっきりしている」

「そう」


 いつもなら、僕のクロスに、とか何とか開口一番に告げてくるエミルディランだが、すぐ傍で伸びている刺客の男と、悔しそうな表情のアレクヴァンディを前にしては、冗談もその口からは出て来なかった。


「油断したの?」

「悪い」


 そんな短い会話の後、エミルディランは立ち上がる。


「そこで伸びてる奴は僕が引きとる。君は早くクロスを」

「分かった」


 承諾を返すアレクヴァンディの声が耳に届くと、次の瞬間にはふわりと体が浮き上がる。それはアレクヴァンディに抱え上げられたからなのだが、クロスフィードは少々恥ずかしいと思いながらも、体が動かないため抵抗など出来なかった。


「後で覚えとけよ」


 そんな冷ややかな言葉をアレクヴァンディにかけるエミルディランに、クロスフィードは後で弁解しなければと胸の内で思った。






 詰所の医務室に連れて来てもらったクロスフィードは、そのまま窓際の寝台へと寝かされた。

 するとアレクヴァンディが少し寝台を離れ、すぐに消毒薬や包帯を手に戻って来る。


「とりあえず傷の手当だけでもしとかないとな」


 そう言って当然のように服に手をかけようとするアレクヴァンディに、クロスフィードはギョッとした。


「ちょ、待っ、待った!」


 慌ててその動きに制止をかけると、どうした、とアレクヴァンディから声がかけられた。しかし、女なので服を脱がさないで欲しいとは言えないクロスフィードは、体がマヒして動かない状態であるため、自分で手当てするという言い訳が通用しない事を泣きたい程に悟っていた。


「ほ、ほら! 時間も迫っているし。アレクは早く闘技場に」

「だらだら血ぃ流してるお前を放って行ける訳ないだろう!」


 少しばかり声を荒げるアレクヴァンディは、すまん、と詫びを入れながらも、その手はクロスフィードの服に伸びてくる。


「い、いいから! 本当に大丈夫だから!」

「何言ってんだ。俺のせいで怪我したんだから、傷の手当てくらいさせろ」


 気持ちは大変にありがたいが、クロスフィードにとってはその優しさが究極の止めになる事をアレクヴァンディは知らない。

 クロスフィードの焦りとは裏腹に、アレクヴァンディは手早く服のボタンを外していく。その断崖絶壁から突き落とされる直前のような恐ろしい時間は、あっという間に終わってしまった。


「――ッ!?」


 シャツのボタンを全て外され、その先にあったサラシを目の当たりにすると、アレクヴァンディはその手を止めて固まっていた。


 どうやらアレクヴァンディはサラシの時点で気付いてくれたようだった。

 アイリスフィアは気付かなかったが。


「ちょ、え、あ、何!? お前女!?」

「あー……」


 シャツの前を全開にされた状態では、クロスフィードも弁解の余地がなかった。

 開いたシャツの裾を持ったまま、胸元と顔を交互に見つめてくるアレクヴァンディの視線に、クロスフィードは羞恥心で顔が赤くなる。


「その、恥ずかしいんだが……」

「うおっと!? すまん!? ちょっと待て!」


 慌てて言葉を告げるアレクヴァンディに体を起こされ、そのままアレクヴァンディの胸へと体を倒される。まるで抱きしめられているようなその体制に、何故この体制なんだと思いながら、クロスフィードはその恥ずかしさに体まで熱くなる。


「これなら見えない……前は」


 そんな事を言いながら、アレクヴァンディはクロスフィードの体を支えながら左肩に受けた傷の手当てをしていく。

 クロスフィードが刺客の剣を受けたのは背中側だったため、体が痺れて座る事さえ儘ならない者を手当てするならこの格好が手当てし易いというのは理解できるが、寝台にうつ伏せでもいいではないかと思わずにはいられなかった。しかし包帯を巻く際はまた体を起こさなければならないのだから、この体制が一番理に適っているのだろう事は分かっている。そのため、クロスフィードは恥ずかしいと思いながらも、そのまま大人しく傷を手当てしてもらった。


「すまない……この傷、残らないといいが……」


 そんな事を呟きながら手当てをしていくアレクヴァンディの気遣いに、クロスフィードは彼の肩に頭を預けながら思わす笑みが浮かんだ。


「気にしなくていい」

「いやいや。気にするだろう、普通。女の体に傷が残ったら嫁の貰い手が……」


 そこまで言って、アレクヴァンディは口を閉ざしてしまった。そんなアレクヴァンディの様子に、クロスフィードは何てことはないというように言葉を告げる。


「傷が残ったってどうという事はない。私は何処にも嫁がないから」

「それでも……っ」


 少しばかり手を止めて、アレクヴァンディが言葉を続ける。


「それでも、女の体に傷が残るのはよくないだろう」

「アレク……」


 一度長いため息を吐いたアレクヴァンディに手早く左肩に包帯を巻かれたクロスフィードは、寝台に横にされると彼に服を着せてもらった。

 若干顔を赤くし、直視しないように視線を彷徨わせながら服のボタンをかけてくれるアレクヴァンディの様子に、クロスフィードは思わず笑ってしまった。


「重ね重ね、申し訳ありませんでした!」


 寝台脇の椅子に腰かけたアレクヴァンディは、そう言って深々と頭を下げていた。それを目の当たりにして、クロスフィードは苦笑交じりに言葉を返す。


「不可抗力だった訳だし、もう気にしないでくれ。手当てしてくれてありがとう」


 そう告げると、ようやくアレクヴァンディが顔を上げてくれた。


「あのさ」

「何だ?」

「もしかしなくても、アイリスとエミルはお前が女だって知ってんのか?」

「アイリスにはこの前知られた。エミルは知らない、はず」

「エミルの奴は知らなくてアレなのかよ。恐ろしい奴だな、オイ……」


 エミルディランの言動を思い出しているのか、アレクヴァンディは顔を引き攣らせていた。


「そうか、アイリスは知ってたのか……だからアイツ、あんなに――」

「ん? アイリスがどうしたんだ?」

「あ、いや、何でもな……っと、待て待て待て」


 何かに気付いたように声を上げるアレクヴァンディは、途端に焦り出す。


「クロスが女だったって事は、『花の君』は本物!?」

「そうなるね」


 クロスフィードが男であったなら、『花の君』という存在は架空の人物にできたが、クロスフィードは女であるため、その存在は架空のモノには出来ない可能性があった。実際にアイリスフィアと公爵邸の夜会に参加してしまったために、そこに参加していた多くの貴族たちにその姿を晒してしまっている。万が一、クロスフィードが『花の君』だと知られてしまえば、クロスフィードが実は女である事も知られてしまうかもしれないのだ。


「お前は『本物』の意味が分かってないと思うが、それは非常に不味くないか?」

「非常に不味いよ。だから私が女である事は誰にも言わないでくれ」

「それはもちろんだが……」


 そう言って、アレクヴァンディは少しばかり視線を落としていた。


「お前が女だったなんて……」


 そう呟くアレクヴァンディの表情にはどこか申し訳ないというようなモノが滲んでいた。クロスフィードは傷の事をそこまで気にしているのかと思い、努めて明るく声をかける。


「私は大丈夫だからもう気にしないでくれ。ほら、早く闘技場に行かないと試合が始まってしまうよ」

「お前を置いて行けないだろう。相手は不戦勝にでもなれば――」

「馬鹿を言うな!」


 この場に留まろうとするアレクヴァンディの発言に、クロスフィードは体が動かないながらも懸命に視線だけは彼の方に向けていた。


「私の悔しさを晴らしてくれるんだろう? あの騎士を私の代わりにボッコボコにしてくれるんだろう? 頼むから、相手に不戦勝をくれてやろうなんて事はしないでくれ」

「クロス……」


 クロスフィードの勢いに少々目を瞠っているアレクヴァンディは、そのまま口を閉ざしてしまった。


「行ってくれ、アレク。私は観戦できないけど、きっとアレクが勝つと信じているから」


 そう言って微笑みを向けると、アレクヴァンディは一度きつく目を閉じ、何かを吐き出すように長く息を吐いていた。


「任せとけ。一瞬で完膚なきまでにボッコボコにして、すぐに戻って来るから」

「ああ、頑張れよ」


 そうして立ち上がるアレクヴァンディを視線で追いながら、クロスフィードは一度振り返ったアレクヴァンディに笑みを向けた。


「負けたら承知しないからな」

「負けねえよ」


 そう言い残してアレクヴァンディは医務室を出て行った。それを見送ったクロスフィードは、ふうと息を吐いて、動かせない体から力を抜いた。


「観たかったな、アイリスとアレクの試合……」


 クロスフィードは残念そうにそんな事を呟いて、その後遠くに聞こえる開会式の音に耳を傾けていた。


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