或る伝説
或る伝説の話を始めよう。
荒ぶる神のように強く、運命の神のように非情だと語られた
一人の剣士の物語を。
それは聖女の微笑みのように悲しくて、一滴の涙のように幸福な物語。
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花の都、フェルジアベルナ。
平和な国として近隣諸国に名を馳せるこの国であるが
数年前、ある反乱が起こった。
内乱と呼ぶにはあまりに短時間で終わったそれ。
しかし王城が反乱軍に占拠されてしまった状況は
国に緊張を走らせるに十分だった。
王は隠し部屋へとその身を潜ませていたが見つかるのは時間の問題だと思われた。
王と、実質人質とされてしまった王城の住民達を、どうやって助け出すか。
最善策を絞りかねて頭を抱える軍部。
彼らが平和に胡坐をかいていたという事実を痛感していた折に届いたのは
全てが終結したという報せ。
その謀反を一夜で収束させたのは一人の剣士。
どうやって内部に潜り込んだのか どんな方法を使ったのか
真相はついに公表されることはなかった。
しかし、こぼれた水が乾いた布に染みこむように
その剣士の存在の噂は広がった。
目を疑うほどの比類なき剣技を誇り
その瞳は視線を向けられただけで震えるほどに、冷たい光を宿すという。
鬼神のように強いその人物。
瞬く間に伝説となったその者は
氷の鬼神
と、そう呼ばれた。