『三つの願い』と『住む世界』の選択を迫られたので
おかしな空間で目が覚めた。
辺り一面、真っ白なようだと思えば限りなく白く見えるし、あれ、真っ暗かな、と思ってみると、どこまでも深い闇が広がっているような気がする。
何もないような、ごちゃごちゃとあらゆる物があるような、森の中のような、海の中のような。
そんな、不可思議な世界。
夢だな、と確信した。
しかも目の前には、光っているような、どんよりしているような、男のような女のような、はたまた何らかの塊のような、えも言われぬ何かが、鎮座しましている。
これはあれだ。
きっとよくあるファンタジー物のお約束、神様とか創造主とかその類だ。
物の怪とか悪魔かもしれないけど。
男の声か、女の声か、いっそ心に直接語りかけてきているのかわからない何かが、私に静かに問いかけた。
―――何を望む?
さて、何を望んでみようか。
「そうですね、じゃぁ、生活スキルチートとかでしょうか?」
古今東西、昨今流行の異世界トリップとか異世界転生とか言う物語では、だいたい戦闘能力とか強大な魔力とかそういうのが付与されるもんだけど、主人公に共通してるのはこいつだと思うんだよね。
「私が今まで読んできた物語の登場人物が持つ、美しさとか対人能力とか言語翻訳能力とかそういうの含む、サバイバルだったり料理だったり裁縫だったり、ダンスだったり馬術だったりするそういう生活するための能力と、それを扱う経験とセンス!それらが全部欲しいです!!」
これならば、たとえ体が弱くても、生まれが貴族でも貧民でも、とりあえずは生き抜いていけるじゃないですか!
ちなみに美しさ、ってのも立派な生活スキルだと思う。
相手に与える印象とか、あと「ニコポ」的な意味で。
胸を張ってドヤ顔をする私に、再び声がかかった。
―――何を望む?
あれ、一個じゃないのか!?
それじゃぁ次はやっぱり憧れのこれでしょう!
「魔力と魔法かな!私の読んできた物語の登場人物の、魔法とか魔力とか経験とかセンス!それらが全部欲しいです!!平均とか最大値じゃなく、合計で全部!!!」
古くは卓上で対話しながら遊ぶあのゲームのアレコレや指輪をどうこうする物語、アニメで無敵を誇る破壊者やら宇宙猿、似非忍者やら死神やら練金の兄弟やら、ゲームでは終わらない物語やら竜を攻略したりやら、はたまたwebの世界で大活躍の無敵チートを支える物語の紡ぎ手たちのオリジナルやら!
打ち消したり増やしたり創ったり、やっぱり魔法はロマンだよね!!
全部が使ってみたいじゃないですか!!制限なしで!!!
―――何を望む?
おぉ、これはあれか。
三つの願い、とか、そういうフラグなのか!!ラッキーだな!!
「では、戦闘能力を。今まで読んできた物語の中で描かれた、すべての戦闘能力、技能、経験、センス。それに必要な武器や装備、身体能力も、それらをひっくるめて全部! 全部欲しいです!!」
ははは、これで究極最強チートの出来上がりだね!!
これでなんにも怖くないね!!
―――では最後に どんな世界を望む?
世界。世界ね。
「チートでも迫害されず、よけいなお荷物を背負わされず、優しく平和な、普通の世界を。」
チートだからってさ。
私、人を殺すの、やなんだよね。
これだけの能力を持ってしまって、なおかつ殺すことに慣れてしまったら。
ただでさえ、美しさ、なんて言う、元の私じゃなくなる要素も、欲しがったわけで。
力を得たからって私が私でなくなったら、意味ないんだよね。
―――扉は開かれた
かくして送り込まれた新しい世界。
私は、降り立った土地でまずはじめに、とある能力を解き放った。
<<異界渡り>>
結局私は、私が生まれ育った平和で普通の当たり前の現代日本で。
時々異世界旅行をしながら、穏やかに過ごしている。
違う土地で何をしろって言われたわけじゃないんだもの。
何でもできちゃうと、何にもしなくなっちゃうもんなんだなぁ。
「普通」が一番チートってことでひとつ。
感想でいただいたご指摘ですが、しまして~というのはあえてのその表現です。
ありがとうございました。