第8夜〜場違い高校生
会場、となったその場所に足を踏み入れたのは初めてだった。
大きなシャンデリア。顔が映るほどぴかぴかのフローリング。
白いテーブルクロスのかかった丸いテーブルの上には、たくさんの食材が乗っていた。
赤い・・・・赤い・・・・赤い・・・・・。
俺が食べられそうなものは・・・・クロワッサン。
念のために2つに割ってみたが、なんとか大丈夫そうだ。
「じゃあ、私は挨拶があるから、行くよ?」
「俺はこの辺にいるよ。踊れないしな。」
「僕もファウスト様と行きますが、よろしいですか?」
「気にしないでいいって。」
ヘムは俺を気遣いながらも、ぱたぱたと子犬のようにファウストの後を付いていった。
舞踏会は滞りなく進んでいるようだった。
ファウストのお堅い挨拶も終わって、早速ダンスタイム。
俺は、一時外の空気を吸いに、表へ出た。
「・・・・うっ・・・・ぐ・・・・・」
庭の端の方でうずくまっている男がいた。
「だ、大丈夫か!?」
男は嘔吐していた。
俺は、ふと男の格好に違和感を抱いた。
黒髪に、黒い瞳。こいつからは、恐怖感を微塵にも感じない。
「お前も・・・・人間・・・・・・・なのか?」
男はびくっと肩を震わせて、口元を押さえながら振り向いた。
「・・・・も?っちゅうことは・・・・あんたも?」
そして男はまた元の体勢に戻って、嘔吐し続けた。
大方、真っ赤な生肉でも口にしてしまったのだろう。
あれは・・・人間が口にするものではない。
「治まったか?」
「おおきに。――えぇっと・・・俺は、骸城 丁。」
言葉になまりがある。多分、関西出身なんだろう。
「俺は、篝。蒼李 篝。まあもっとも、名字は必要ないけどな。」
「ここって・・・・どこなんや?」
「それを・・・俺に説明しろと・・・・・。」
「だって君しか頼る奴おらんもん。」
「だよなぁ・・・でも、俺にもファウストとヘムくらいしか・・・」
「あれ?篝さん、どうしたんですか?こんなところで。」
「す、スコル?なんでここに・・・・」
あのローズフェアリーの管理人・スコルだ。
「なんでって・・・僕の家、一応子爵なので。」
「あ、ああ・・・・」
「それより、兄さん見かけませんでした?先にきてるはずなんだけど。」
「いや、見てないけど。」
もし見ても、初対面ならわかるまい。
そんな余計な言葉は飲み込んだ。
スコルはそのまま行ってしまった。
「えらいかっこいい兄ちゃんやな。」
「ここの人は大体美形だよ。」
俺はふと、あの言葉を思い出した。
『あのままあそこを彷徨っていれば、ギルダム公爵のところへ連れて行かれて・・・・・』
俺がこちらに来たばかりの頃にファウストに言われた言葉だ。
ふと、疑問が浮かぶ。
「・・・・どうやってここまで来たんだ?」
「大阪の町でぷらぷら歩いとったら、真っ赤な髪の兄ちゃんが足元から消えていくさかい、驚いてひっつかまえたら、このざまや。」
「赤い髪?」
「そうや。そういえば、耳飾もしてたような・・・・・」
なるほど、死神か。
俺の中で納得したが、当然丁は納得しないだろう。
とりあえず、俺と丁はパーティ会場へ戻ることにした。
「さぁて、ここで問題やぁ!」
ジャジャン。
まで1人で言い切って、俺に『問題』とやらを出したがっている丁。
でも正直、俺はそのテンションにはついていけない。
先ほどまで知りたがっていた、ここはどこ、については・・・
『まぁ、ええか。』
で、終了。とことん、適当。
「俺の正体はなんでしょーか!」
「人間。」
「ピンポーン・・・・って、なんでやねん!そないなこと、わかりきっとるやろ!」
ナイスノリツッコミ・・・・・・とはあえて言わなかった。
関西人のテンションは高いと聞いたが、慣れるまで時間がかかりそうだ。
俺は、一息ついてから口を開いた。
「じゃ、何についての正体?」
「チキューや。俺のチキューでの正体。」
「そんなの知るわけないだろ?俺、大阪行った事ないし。」
「んー、じゃあ、ヒント!俺は、18歳や。」
「あ、俺16。」
「おっ、俺のほうが兄さんやな。・・・・・・って、話をずらすな!」
自分でずらしたんだろうが。
俺は思った。丁と一緒にいれば、俺はつっこみキングになれるのではないかと。当然、なりたくもないが。
「あー、降参だー。答えは?」
「答えは・・・・ドゥルドゥルドゥルドゥル・・・・ジャン!」
「ジャン?」
「マホー使いや!」
「は?」
ま、マホー使い???
「内緒やで。」
「は?へ、いや、その、何?」
「見せたほうが早いな。」
丁が近くの小石を指差し、そのまま指を持ち上げると、石も宙に浮かんだ。
俺は混乱状態に陥っていた。
仮にも丁は現実世界・地球からやってきたお笑い系高校生だろ?
なのに・・・・魔法使いですと?
「どや?」
「いや、どやって言われても・・・・」
俄かには信じられません・・・・。
「篝、どこに行ってたんだい?私のスピーチも聞かずに・・・・・って、その子は?」
ファウストがヘムを引き連れて屋敷から来た。
きっと俺の居場所をスコルに聞いたのだろう。
「こいつは、人間の丁。」
「初めまして〜、丁です〜。」
そして浮かせている石を見て、目を丸くし、即座に丁の腕を掴んだ。
「おわっ!」
「君、ちょっと来なさい。」
「って、何?何!?」
「篝さんはパーティを楽しんでてください!」
楽しめるか、この状況で。
多分、ヘムの言葉の意味は、「ついてくるな」。
俺は屋敷内に戻り、クロワッサンを頬張った。




