第6夜 薔薇園の双狼
馬が2匹で引く馬車に乗り、歪んでガタガタと揺れる薄暗い森を抜けた。
何分走ったのかは正確にはわからなかったが、結構早く着いた気がした。
DBタウンの中心地、センター。
全体がどんよりとしている雰囲気だったが、流石ににぎわっていた。
ただ、一つの道を除いては。
ヘムにこっそり訊ねてみると、あの道の先には、風俗や博打の店くらいしか並んでおらず、夜まではほとんどここの一角は眠りにつくという。
その名も、ダークテキーラストリート。
一方、町の中心には、食料、衣服等の店が立ち並び、昼を中心としている。
昼と夜。町の場所がそっくりそのまま変わってしまう。
「それで?町へは、何をしに?」
「その、『死神』に会いたいんだ。」
「そうなのかい?なら、残念だが彼には会えないよ。」
「へ?どういうことだ?」
「奴は夜の住人なんですよ。ほとんどこっちには顔も見せません。」
屋敷を出る前にその話をしていたと言うのにこの人たちは・・・と、俺は小さくため息をついた。まあ、そもそも、人でもないんだが。
「なら夜まで、観光でもするかい?」
「観光?何でそんな場所があるんだ?」
「何でって、他の国から来た人たちを楽しませる為に決まっているじゃないか。」
「他の国!?他にも国があるのか!?」
「篝さん、面白い事を言いますね。」
ヘムは冗談を言ったんだと思っているようだが、俺はいたって本気だ。
てっきりこの世界には、この『DBタウン』しかないものだと思っていた。
「では、どこに行きましょうか。ローズフェアリー辺りですかね。」
「ろ、ろーずふぇありー?」
「ああ、私はあそこが好きだよ。行こうか。」
「だ、だからそれなに・・・って、おい!」
ファウストは機嫌が良さそうに、街道を進んでいった。
クリーム色の空が似合うだろう、と思ったが、この世界には黒と赤の空しか存在しない。美しいのに勿体無い。
向かう先は、ローズフェアリー。
当然、俺は場所も、どんなところなのかも知らず、ただついていっているだけだ。
「ここですよ。」
サァっと風が吹いた。
風に混じって、ほのかに花の香りがする。
かがずにはいられない、魅惑の香り。
禁断の園、そんな言葉が実に似合う。
深紅の薔薇、漆黒の薔薇・・・・やはり、ここにも赤と黒しかない。
だが、本当に美しい。
「・・・・・・。」
あまりの美しさに、俺は感動するだけで、言葉では表現できなかった。
「どうだい?」
「ファウストが好きな場所っていうのは、なんかしっくりくる。」
「そうだろう?」
「僕もそう思います。」
ヘムが苦笑しながら言う。
美しいものには、同じく美しいものが似合う。
「あっ、ファウスト様。お久しぶりです。」
路考茶色の明るく、かつ、控えめなショートの髪。
橙色の瞳は、女の子を思わせる。
でも、声質・髪型からして、男であることは間違いない。
「おや?その子は?」
「客人だよ、スコル。カガリだ。」
「よ、よろしく。」
「よろしくおねがいします。」
「そういえば、ハティさんは何なさってるんですか?」
「相変わらずです。ずっと、研究ばっかり。」
彼の名前はスコル・モア・シュガルツィット。
双子のハティとともに、このローズフェアリーの管理人をしているらしい。
ハティの髪は暗い鉄紺色で、瞳の色は神秘的な瑠璃色。
ほとんど人前には出ず、内部の研究は彼の担当だ。
ちなみに2人とも、本当の姿は、狼だ。
もっと恐ろしい言い方をすると、狼男。
「ファウスト様、では、また明日に。」
「そうだったね。それじゃあ。」
俺たちはローズフェアリーを後にした。
「なぁ、明日も来るのか?」
「明日、家でパーティをやるんだよ。言っていなかったかな?」
「き、聞いてない・・・・」
「篝さんはゆっくり食事なさってていいですから。」
「あ、ああ・・・・。」
パーティ?化け物パーティ?
怖いもの見たさか、何となく興味はある。
でも、取って喰われる可能性があるし、あまり動かない方が無難だな。




