第1夜 暗闇の公園
この作品にはボーイズラブ&性的な要素が含まれています。注意してください。
――日が沈んだら、絶対に足を踏み入れるな――
この鶫川市には、昔からこんな言い伝えがあった。
その場所は・・・・コウモリ公園。
見るからに妖しげな公園で、昼間であっても近づく者はほとんどない。
肝試しに、と言い伝えを破った者は2度と戻らず、
公園を壊そうとした工事関係者は全員事故死した。
『呪われた公園』
そう呼ばれることも多々あった。
そして俺、蒼李 篝はこんな言い伝えに不信感を抱きつつも、それを守っていた。
公園の存在は知っていた。でも、行ったこともないし、場所も知らない。
ちなみに俺は、愛犬・ケンタの散歩中だった。
「ったく、お前はわがまま犬だなぁ。一日くらい散歩しなくても大丈夫だって。」
「わんっ!」
ケンタ(オス)はぱたぱたと尻尾を振って楽しそうに小道を歩いていた。
すでに午後6時過ぎ。夕飯の匂いがもれている。
あたりはすっかり日が暮れて、街灯が輝いているくらいだった。
「ワンッ!ワンッ!」
「あ、おい!ケンタ!!」
ケンタがいきなり走り出す。俺は必死にそれを追いかけた。
だが、捕まえたのは何メートルも先で、しかもケンタは地べたに座り込んでいた。
「ここどこだよ、もう。・・・・ん?」
公園?
誰かの忘れ物だろうか、野球のボールが転がっている。
「忘れ物か?」
俺は取りに行こうとして、1度足を止めた。
(言い伝え・・・背く事になるのか?)
よく見てみれば、ここだけが他と比べて妙に暗い。
「・・・・怒られたら、ケンタのせいだからな?」
「わんっ!」
俺が足を進めた瞬間―――!
・・・・ズンッ・・・・
足元が沈んだ。驚いて飛び退こうとしたが、何かに捕まれたように動かない。
そして、そのまま
「うわっ、んだよ、これっ!」
ずるりとそのまま地面に飲み込まれ、俺は引きずり込まれた。
ただ、ケンタの鳴き声だけが耳に残っていた。
「ようこそ、闇の世界へ。」
耳元で低い声に囁かれた気がした。
俺は状況を把握しきれず、意識をシャットダウンする事にした。
***
眠りに落ちている間、俺は、昔聞いた事を思い返していた。
このコウモリ公園で消えた人間は少なくない。
誰一人として帰ってこなかったとされているが、実際には1人だけ、戻ってきたものがいたという。
名前も、それがいつだったのかも、何一つとして記録には残っていない。
書面では、の話だが。
その男が発見されたのは、男に行方不明のラッテルが張られた次の日の朝方。
まだ日が昇る以前に、1人のお年寄りが散歩をしていて、偶然公園の前を通りかかった。
すると、そこには男が公園の入り口に寄り掛かっていたそうだ。
だが、男は無事ではなかった。
ずっとぶつぶつと意味不明な言葉を口走り、彼の髪は真っ白になってしまっていたという。
男は、その後昇った太陽を見て、目玉を焦がして、失明してしまった。
そして精神病患者として病院に入院した4日後、自らの爪で喉元を引き裂き自殺した。
その男が発見された時、何を言っていたのかは見つけた老人は覚えていなかった。
ただ――この世ではありえないこと、だそうだ。
・・・・ピチャ・・・ピチャ・・・・ピチャ・・・・
俺は怪しげな水音で目を覚ました。
(ん・・・・あれ・・・・?)
俺の両腕、両足には鎖がついていて、身動き一つ取れなかった。
「なんだ・・・?この匂い・・・・」
鉄のような匂い・・・・でも、とても身近で・・・・
俺はそこでふと気付いた。
この匂いは・・・・血だ。
むせかえるような血の匂いが鼻をさす。
「子猫・・・子猫・・・・迷い猫・・・・」
どこからともなく声が聞こえ、俺は周りを見渡した。
そこには一つの窓。そしてその窓に腰掛けている1人の男。
窓から差し込んでいるのは、深紅の光。
その先に見える月は、白でも黄色でもなく、赤く輝いていた。
「誰・・・・?」
男は答えず、そのまま続けた。
「今夜のディナーは迷い猫・・・・」
(これは・・・歌・・・か?)
ピアノの音が聞こえるわけでも、ギターを弾いているわけでもなかったが、確かに歌だ。
「拒めば貴族の腹の中・・・・」
「のめば永遠に貴族の玩具・・・・」
何なんだこの歌、と俺は心の中で問うた。
「あの・・・ここはどこですか?」
「君にとっての地獄。」
「じ、地獄?」
「そう、ここでは君は食材だよ。」
「な、何言って・・・・」
「本当の事を言っているまでさ。それじゃあ、失礼するよ。迷い猫。」
(そうか、あの歌は俺の歌だったのか・・・・)
だとしたら、なんて悲しい運命を辿る予定なんだ、俺は。
と心の中で悪態をついていた。
そんな事をしていたらなんだか悲しくなってきて、俺は考えないようにした。
ケンタがちゃんと家に帰れたか。母さんが心配してないか。
とりあえず、この場所について深く考える事をやめた。
「あれ・・・・?」
なんだ?この服・・・・
18世紀の紳士の服。社交界のような、葬式のような。
その時、扉を開く音がした。
「おや、起きたようだね。」
息をのむほど美しい声は、静まり返ったこの部屋に、妙に響いていた。




