↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR

ハズレスキルコンテストに訪れた客たち

掲載日:2026/10/12

 その国では、一風変わったコンテストが開催されることになった。


 名付けて『ハズレスキルコンテスト』。


 戦闘にも使えず、大金も生み出さない、奇妙な能力を授かってしまった男たちが、ハズレなりにどう役立つかを競い合う催しだ。


 賞品は男爵の爵位と魔の森の隣の辺境の領地、そして第一王女との結婚権。

 選ばれなかった者たちへの残念賞は、その領地の永住権と家だった。


 この王女は、かつては国中から求婚者が殺到する絶世の美女だった。しかし、それゆえに有力な貴族たちが「誰が彼女を射止めるか」で激しく牽制し合い、内乱や外交問題にまで発展しかけた。

 誰もが互いの出方を見ながら腹の探り合いをし続けた結果、気づけば十年の歳月が流れた。


 現在の王女は、全盛期の輝きをすっかり失い、どこにでもいる「気難しい、十人並みの年増美女」になってしまった。


 かつて命をかけると宣言した男たちはみな、「嫁にするならもっと若くて愛らしい少女に限る」と、手のひらを返し、全員撤退してしまったのだ。


 そこで国王は、お荷物となった王女を片付け、同時に日常に便利なハズレスキル保持者を一カ所に集めるため、このコンテストを開いたのだった。


「私の残りの人生がかかっているのです。審査は私がやります」

 王女自らが審査員席に座り、あきらめ混じりの冷ややかな目でステージを見下ろした。


 しかし、ステージに現れる男たちの能力は、大金こそ生まないものの、十年間におよぶ宮廷の心理戦と、日々失われる若さと、年下美少女たちに話題や殿方の視線を奪われる焦燥感で疲れ果てた王女の心を、地味に、そして大きく揺さぶるものばかりだった。


 最初に王女が興味を持ったスキルは

『どんなに複雑に絡まった衣服の糸くずや、髪の毛の縺(もつ)れも、見つめるだけで一瞬で完璧に解きほぐす』という物だった。

(毎朝二時間のロングヘアーのセットがどれだけ楽になることか。年を重ねて髪のツヤやまとまりが落ちてきた私的には、かなり魅力的なハズレだわ……)


 次から次に出てくるくだらないスキルに飽きてあくびをしそうになった王女が背筋を正したスキルは「角質や粉瘤、耳垢や膿など、あらゆる老廃物を取り除き、毛穴を小さくする」という物だった。


 客席から「お願いです。僕のイチゴ鼻を助けてください!」と一人の男性が名乗り出た。


 彼をステージに上げ、男がスキルを発動する。すると、男性の鼻から詰まっていた角質と毛が、生き物のようににゅるにゅると押し出され、ハンカチで拭うと見事なまでに滑らかな肌色の鼻が現れた。

 客席からは「よっ、兄ちゃん色男になったぞ!」と大きな拍手と歓声が上がる。

 イチゴ男は照れながら満面の笑みで舞台を降り広場に戻った。


 王女も(優勝候補としてキープね)と、手元の資料に深くチェックを付けた。


 そして次に王女が思わず身を乗り出したスキルは『イボやホクロを綺麗に取り去るスキル』だった。

 しかし、男は気まずそうに付け足す。

「ただし、取り去れば普通に出血します。傷口を治すには、通常の回復魔法(ヒール)が必要です」


 観客席からは「なんだ、結局ただの雑な外科手術じゃないか。医療魔法の方がよっぽどマシだ」とヤジが飛んだ。


 しかし、王女の傍らにいたお抱えの『万物鑑定眼』を持つ執事は、驚愕し、王女に耳打ちした。

「王女殿下、これは異常です。通常、回復魔法というものは『その人間の元の肉体情報』を参照して傷を塞ぎます。つまり、ヒールをかければ本来ならイボやホクロも一緒に再生してしまうはずなのです。それが再生されないということは……これは回復魔法の裏をかいた、奇妙なバグのような能力です」


 王女は手元の資料を握りしめた。年齢とともに目立ってきた首の無数の小さな突起、そして踵の高い靴で酷使された足の裏の魚の目。それが完璧に、綺麗に消せるのだ。

 大金を生むわけではないが、女性としては喉から手が出るほど欲しい「バグ能力」だった。


 すると会場の女性客が手を挙げた。

「私、低級ヒールなら使えます。私のイボとホクロで実演していただけませんか?」

 それは面白そうだということになり、イボやホクロに悩む男女が我も我もと数人舞台に上がり、実演が行われた。男がホクロやイボを消し、すかさず少女が傷口をヒールで塞ぐ。それは抜群の連携だった。

 面白いようにイボやホクロがポロポロと取れた。


「鼻クソ」とからかわれ続けた鼻の下のホクロが消えたと可愛らしい低級ヒール少女は涙を流し、何度も鼻の下を触っては「あの憎らしかったホクロがないわ」と喜んだ。


 王女は「このイボ取りの男に決めてしまおうか」と本気で迷い始めた。

 しかし、ヒール少女がイボ取り男へ送る熱い視線に気づき、(割れ鍋にとじ蓋、最強バディに横槍を入れるのは野暮かしら)と思い直す。


 最後の男がステージに上がった。

 彼の能力はこうだ。

『目の前のお茶の味に完璧に調和する、世界で最も美味しい茶菓子をどこからともなく出現させるスキル』


 観客席からは失笑が漏れた。「ただのお菓子配りではないか」と。


 しかし、審査員席の王女はハッとした。彼女が授かった能力は、まさに『手元にある茶葉と湯を使って、素材のポテンシャルを最大限に引き出した茶を淹れることができるスキル』というものだった。


 王女という高貴な身分ゆえ、自らお茶を淹れるなど宮廷の恥として、一度も使わず封印してきた、完全なハズレスキル。


 王女は「私が茶を淹れます」と立ち上がり、ステージ上の男へと近づいた。そして、用意されていたティーセットを前に、初めて自らの能力を使い、静かにお茶を淹れた。


 その瞬間、二つのハズレスキルが調和した。

 王女の手によって、ただの湯と茶葉が、天上のものかと思われる芳醇な香りを放つ紅茶へと変わる。

 そして男が手をかざすと、その紅茶のわずかな渋み、甘み、温度に、一ミリの狂いもなく調和する、完璧な仕上がりの焼き菓子がテーブルの上に現れた。


 王女がお茶を口に含み、菓子をかじった。


 十年の宮廷闘争の疲れも、殿方に愛でられることもなく花盛りが過ぎた虚しさも、すべてがどうでもよくなるほどの、極上の「平穏」が心に染み渡っていく。内面から満たされる決定的な最後の欠片が、ここにあった。


 コンテストの客たちにも振る舞われ、奇跡のコラボレーションに多くの人が涙を流した。


「あなたが優勝です」王女は即座に宣言した。「これ以上ない、完璧なハズレスキルです。文句ありません」


 茶菓子男は感動して言いました。「私のスキルはお茶の引き立て役でしかない、主役になれない私の人生そのものみたいなスキルなのかとがっかりしていました。ですが……引き立て役でよかったと、心の底から思える日が来るなんて」


 こうして男は男爵となり、王女を妻に迎え、辺境の小さな領地へと赴いた。


 村での生活は、驚くほど平穏だった。

 王女が最高の茶を淹れ、男がそのお茶に合う最高の茶菓子を出す。二人が揃うだけで、そこはどんな王宮の晩餐会よりも贅沢な空間になった。


 王都の有力者たちは「あんなお茶汲みの年増王女と、お菓子配りの男爵の領地など、退屈極まりない場所だろう」と完全に無関心だったため、一切の策謀も届かなかった。


 しかし、噂を聞きつけた、イボや肌トラブルに悩む貴婦人や、婚期の男女が訪れる、隠れ家的な保養所として、村は密かに賑わっていった。


 やがて王女の目元から刺々(とげとげ)しさが消え、日々おだやかな笑顔を取り戻していった。


 王宮では、国王が「あのプライドの高く気難しい娘が、ハズレ能力者と驚くほど大人しく、のんびりと暮らしている」という報告を受け、深く感心していた。

「うむ、さすがはコンテストの優勝者だ。二人のハズレ能力が合わさることで、こじれてしまった気性を根底から解きほぐす。聖なる儀式へと昇華されたに違いない。やはり、彼らを結婚させて正解だった」


 国王の勘違いはさておき、二人の穏やかなお茶会には、いつしか意外な「常連客」が増えていた。

 彼らの領地が面する深い森には、人の理(ことわり)とは別の時間と空間を生きる、小さな妖精や精霊に、こびとたちが暮らしていたのだ。


 世界最高のお茶と、それに完璧に調和するお菓子の匂いに釣られ、彼らはひょっこりと姿を現す。

 そして、お礼にと、人の世ではお目にかかれないような、不思議で過剰な力を持った森の恵み(お土産)を置いていくのだった。


 男爵がその素材を使って新たなお菓子を作ると、森の客人たちは歓喜の声を上げ大満足で帰っていく。それがいつしか、この屋敷の密かな日課になっていた。


「セバス、申し訳ないのだけれど。このお菓子を少し見てくれないかしら」

 男爵夫人が声をかけたのは、白髪の老執事だった。

 彼はかつて王宮で、あらゆる物質の真実を見抜く本物のチートスキル『万物鑑定眼』を持ち、重宝されていた伝説の人物である。

 定年退職するところを、夫人が無理を言って、辺境の領地へと引き抜いたのだ。


 セバスは眼鏡の奥の目を光らせ、夫人が差し出した焼き菓子をじっと見つめた。

「……奥様。これは少々、悪戯が過ぎる森の恵みのようです。なんと『若返り』の効果がございますね。しかも、丸ごと一つ食べてしまえば、娘盛りを通り越して、存在そのものが消えてしまいかねないほどの過剰な魔力です」


「まあ……! 危うく、可愛い赤ん坊を通り越して、この世からおさらばするところだったの!?」


 男爵は背筋に冷や汗を流した。気楽に森の恵みを混ぜていたら、とんでもない劇薬(チートアイテム)を生み出していたらしい。


「セバス、もし屋敷全員で均等に切り分けたら、一人あたりどれくらい若返るのかしら?」


「左様でございますね、奥様。おそらく、ちょうど5〜10歳ほど、お肌のハリが戻る程度かと。王都の欲深き方々が知れば血眼で奪い合うでしょうが……幸いにも、魔力の有効期限はあと二時間で消え、ただの美味しいお菓子に戻ります。しかし二時間以内に召し上がれば、若返りの効果は『永続』いたします」


「それは好都合ね。あの方たちに、私たちの平穏を邪魔されるのは真っ平ごめんだわ。――さあ、急いでお茶の準備をしましょう。希望者をみんな集めて! それからセバス、あなたも食べるのよ。あなたにはお腹の子供の世話もしてもらうんだから」


「かしこまりました奥様」


 かくして男爵家のお茶会は、異界からの飛び入り参加と、その場に居合わせた者たちだけで様々な奇跡を分け合う、とびきり贅沢な時間になったのだが、それはまた別の話。

(完)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
美と愛とファンタジーに満ちたスローライフを知らずに生きていることが王都達へのざまぁなのかな。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。