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死に戻りに疲れた傾国王子、生存ルートを模索する  作者: 沓子


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初デート!



 気づけば街中にいた。転移だ。

「アレス、二人を置いてきていいのか」

「いいも何も置き去り一択。どっか魔獣がうようよしてる森に落としてきたい。あの二人はノーダメージだけど」

「アレスが異世界に置き去られるかもな。土産買っていこう。邸のみんなに、義兄様やガーシュも」

 式をせず浮いた分を小遣いとしてくれたギリムに感謝だ。平民として市井に下りたらだいたい十年は暮らせる金額らしい。王族の結婚式相当だしそれくらいはあるかと思う。

 気軽な街歩きなんて初めてでワクワクする。



「君は他人のことばかりだな」

 アレスターの呟きはツェーレンの耳には届かなかった。



「このハンカチ、花のシリーズなんだ。趣味がいいな」

 雑貨屋に並んだ絹のハンカチがツェーレンの目を引いた。女性が喜びそうだ。金糸や銀糸も使った刺繍が繊細で美しい。

 高価なのでガラスケースの展示だ。

「欲しい?」

「いや、みんなの土産にと思ったけど辞めとくよ。焼き菓子にしよう」

「………残るものを避けてる?」



 アレスターに見抜かれてしまう。だってツェーレンは生死に関わらず邸からいなくなるのだ。



「買って」

「なん、」

「いいから選んで買って。それぞれに似合うやつ」

 アレスターが珍しく強い口調だったので、従うことにした。

 魔法や異世界の技術、魔道具の力を借りて生活するフォックス邸(本家のみグレイシア邸と呼ぶらしい)には使用人が十人しかいない。ツェーレンは初日に全員を覚えていた。

「……じゃあ、カレンはこのチョコレートコスモス。彼女の目の色だ。ミーヤとマーヤは色違いのガーベラ。それから───」

 マルタには王国で標に使っていた芍薬を。



 いつの間にか真剣に楽しげに選び始めるツェーレンをアレスターが見つめる。

 僕が贈られたいとか言ってる場合じゃない。ツェーレンをこの世界に強く繋げなければ。あらゆる情、未練、そんなものを縁に天に、月に帰らないように強く。羽衣の代わりに柵を。

 巻き戻りなんかさせない。




 上質な絹のハンカチが結構いい値段だったので、男性の上級使用人には宝石をアクセントにしたカフスにした。馬番に上等な革手袋、庭師には水が染みないというブーツを。シェフはスカーフを着けているのでスカーフ留め。騎士には剣の飾り紐、門番には暖かなセーター、料理番にも防寒具がいいだろうか。冬の調理場は寒い筈だが、アレスターが何か施しているかも。

 持ち帰りたいというツェーレンの願いで全て収納魔法で收める。



「どうしようアレス、散財って楽しい」

「これを散財とは言わないよ。君の予算も付いて口座に入ってるから確認して」

 何か気に障っているのか、アレスターの口調が固いし断定的で圧を感じる。いつもと違うのもカッコいいが、怒らせていたらどうしよう。



 どの店も展示にガラスが豊富に使われていて見やすく購買欲をそそる。

 アレスターによれば透明で強度のあるガラスはグレイシアが特許を持っているという。

「イェルレヒトでは希望の品を伝えると応接室に持ってくるんだ。ガラス高いし使われてるのは一部だよ、宝物庫とか」

「僕とカズサの共同名義だから僕の分をツェリに譲ろう。国に普及させるといい」

「いやいやいいよ!! それよりあのガラス強いんだ?」

「強盗が入っても、壊された事はないかな。ケーキ屋に使われるような安価なクラスのはそこまでじゃないが」



 初代からの特許は嫡男が、それ以外は貢献者の権利となる。アイデアを異世界から山のように持ち込むカズサを中心に、兄弟であれこれ考える。

「最後に口座を確認したの、魔法師団に就職した時だったかな。ゼロを数えるのが面倒だった」

 そんなフォックス家が仮の妻ツェーレンに付けた予算とは。預金口座を見るのが怖い。ツェーレンの挙式費用込みの小遣いでもドキドキするのに。使う気はないが。



 ツェーレンは読書好きだが、本屋には行く必要がない。フォックス邸の図書室にはあらゆる書物がある上に新刊が自動的に入ってくるのだ。

 ディスプレイが図書室というより日本の本屋だ。新刊や注目の一冊を平棚に、そこを中心に分かりやすい配置がしてある。

 貸し出しはセルフレジ形式で、その借り方が目新しく楽しくて借りすぎるが困りはしない。

「今月のお勧め」などポップまであり月替わりで平台にある本は入れ替わり、本屋より本屋らしい。

 図書室は大のお気に入りだ。



 グレイシア一家にも何か贈ろう。お世話になってるしご飯は美味いし解呪の感謝もしたい。

 そう考えたが大陸一の資産家一族に何をあげたらいいのだろう。

 悩んで悩んで、思いついた。

「アレス、一度帰りたい。俺の部屋に」

「いいけどまた戻る?」

「うん。宝飾店に行きたい」



 街にとんぼ返りすると、アレスは休んでて、と宝飾店の応接室に放置された。

 ツェーレンが楽しい気分のままでいるので、不服ながら言う通りにする。店主はグレイシアの来店にビビり丁重に持て成そうとしたがアレスターは固辞した。

「代わりに美味しい焼き菓子の店と、ケーキの美味しい喫茶室を教えてくれる?」と。

 焼き菓子は自分が買おう。



 かなりの時間が経ち、ようやくツェーレンが応接室にやって来た。

「待たせて悪かったな。もうしばらく時間潰さないといけないから、茶でも飲もう」

「こっちにいい喫茶室があるよ」

 聞いたとは言わない。その方がクールだ。

 待てよ、もしかしてかなりクールにこのデートをこなせているのでは。自分の痕跡を残したがらないツェーレンに少し腹が立っていたのもあり、いつもの情けなさは出ていない。アレスター史上かつてないクール。



「アレス、怒ってるか。長い時間付き合わせてごめん」

「怒ってないない! 兄と従者は腹に据えかねてるけど、ツェリにそんな」

「良かった。嫌われたらどうしようかと」

 クールモード終了。彼が笑うなら、自分が情けないくらい構わないのだ。



 店の雰囲気はとても良く、お茶もケーキも美味しかった。今度ツェリに贈るアクセサリーをあの店で見繕おうと決めた。

 季節の果物のタルトと木苺のムースで悩むアレスターに「俺、林檎のパイにするから3つ頼んで全部半分にしよう!」とツェーレンが提案してくれた。

 これはもしや「あーん」があるのか!? と身構えたが、話が聞こえたらしく気を利かせた店が綺麗にカットして出して来た。

 少しガッカリしたが、三種のケーキを一皿にまとめデコレーションしたのをツェーレンが喜んだのでチップをはずんだ。

 アップルパイとフルーツタルト、苺ショートを全てホールで持ち帰りを頼む。

 インベントリは時間経過がないし、今日か明日のお茶請けにいい。けして苺ショートがカズサとガーシュの好物だからではないのだ。



 たくさん話をした。お互いの家族や自身のこと。

「ガーシュは初代に仕えていたんだ」

「え!? 長命種?」

「そんなとこ。皮肉屋で辛辣だけど有能だよ。悪戯好きでよく遊ばれるけど、なんだかんだ僕には甘いし優しい」

「いいなあ。俺の侍従は定期的に交代してた。変な気を起こさないように」

 並外れた美しさは、ツェーレンに幸福をもたらしはしなかったのだろう。

 認識阻害をかけているがそれでもちらちらと見られている。何しろ稀に見る美しさなので、完全には隠せない。

 今ここで伸び伸びしているのは、アレスターが彼を好きではないと考えているからだ、と先が思いやられた。


 


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