アレスターの兄、カズサ
アレスが挙動不審である。
嫁に来て半月。ちらちらと視線を寄越すのに、目が合うとさっと顔を背ける。
なんだろう。
「アレス、どうした」
「あ、いや、兄が来るんだ。予定大丈夫?」
「特に無いよ。アレスが今日休みなら兄君が来る前に買い物に行きたいな」
「そりは、で、ででで」
「友達デートしよう!」
この街に何があるのか見たい。すぐ去ることになっても、また遊びに来たい。
久しぶりの友達だからなー。
「お待たせツェリ。着替えてきてくれる?」
アレスターが急遽休みを取り、自らに鎮静魔法をかけたのを知るガーシュはジト目だ。
仕事にはローブを着けるからと寝巻きでも構わないのに、今はかなりキメている。
不承不承だが、ガーシュが選び髪をセットしてやった。
「……ホントに休みだった? ガーシュがアレスを見る目が冷たい」
「一応新婚だ。飛び飛びだが休みにしてあるよ。解呪もあるし出来る限り休む」
アレスターの鎮静魔法は強力だ。ツェーレンを前にしても余裕ある態度でいられる。
「やっぱ、アレスはカッコいいな。背も高いしすごくモテたんだろう? じろじろ見てごめん、見惚れてしまって。暫定旦那様だけど見せびらかしたい」
派手な美形ではなく、凛々しさを伴う知的で端正なつくりだった。切れ長な瞳はどこまでも深い漆黒。
「───いや別にモテたりは。褒めてくれてありがとう。じゃ、着替えてね。ガーシュ、ちょっと部屋に」
「カッコいいって、僕を。見惚れたって。僕に!! 見せつけたい?? 世界中に僕を!? これって告白? プロポーズ? 結婚待ったなし? 新婚旅行どこがいい?」
「プロポーズ違う。あと既婚で相手はお前
。鎮静かけてそれか。ツェリ様を理解する為に一遍死ねば」
「ツェリは僕だけの呼び名だってば! 一度死んでみるか、仮死状態ならイケるな。ほら、カズサが持ち帰った技術にあったろ。注射コワイからなんとか錠剤で出来るようにならないか。魔法の補助があれば」
「俺がなんだって?」
窓からひょっこり入ってきたのは次兄のカズサだ。
「げ! カズサ、来るの夜だろ!? 玄関から入れよ!」
「アレスこそ仕事は? なんかオシャレしてんね」
「……さては人がいない間にツェリで遊ぶつもりで」
「え、ツェリって初恋の君? ツェーレン殿下がそうだったの? ガーシュ?
」
「実はかくかくしかじかで」
「うわぁ、アレスらしい。早く見たい、部屋は隣?」
「あっ、ちょっ」
「カズサでーす、うわあすっげえ美人!」
唐突に部屋に訪れた美少年。どう見ても十代だ。金髪に金瞳の姿は、肖像画で見た初代グレイシア夫人に似ていた。
追いかけてきたアレスターは疲れている。
「初めまして。ツェーレン・イェルレヒト、じゃないグレイシアンです。歳下……義理の兄様とかです?」
「あーいや。肉体年齢は見たまま、実年齢は違うけど……その分の時間を過ごしてないからやっぱり体感ではこの見かけそのままなんだよね」
「??? えっと、アレス二十三だよな。すごーく若作りなお兄さん?」
「ちょいちょい異世界に渡って戻ると何年も経ってるんだよ。本当なら二十四だけど十六、七にしか見えないだろ。ウラシマ現象っていう」
「時々行方不明になるけど気にしないで。あと界渡りをするのはこの人だけだから」
「あっ、はあ」
しれっと言ってるがとんでもない一家だ。界渡りだって? お伽話じゃないのかとツェーレンは困惑する。
「長男は普通だから安心して。ただ…」
「た、ただ?」
カズサの溜めに思わず息を呑む。
「女の趣味がものすごく悪い」
(えーと。カズサさんに何か聞くんじゃなかったっけ。色々吹っ飛んでしまった)
「アレス……」
「ごめん、出掛けるのはまたに───」
「出掛けよう! 案内するから」
カズサが会話に割って入る。
「三人で? いいですね。よろしくお願いします、えーと、カズサ義兄様」
美形の無垢な笑みと兄呼びに勝てる者は、グレイシアにはいない。揃って面食いなのだ。
「可愛い。アレス、ツェーレンください」
「ダメに決まってるよね。妻なの! 僕の! 店でお菓子買うみたいに言わない!!」
「白い契約婚だよね。何も妻にしたい訳じゃないよ、学園通ったりご飯食べたり一緒に寝たり風呂で背中流し合いしたり」
「ツェーレン様、カズサ様は有望株で無駄に優秀です。何せコイツ実年齢の姿にもなれるのにやらないんですよ楽だから」
「流れるように弟の従者に暴露される秘密」
「どっちの味方だよ!!」
「ぷっ……」
堪え切れず吹き出したツェーレンに視線が集まる。
「仲良いね、楽しそう」
笑顔がかわいい。とても。
「ねえツェーレン、ツェーレンをください」
「アレスに振られてるから、別れたらそれもいいですね」
「なっ……」
ねえねえどんな気持ち? 自分の軽はずみのせいで兄にNTRの危機に陥って
ツェーレンの視界の外でプラカードをかざすガーシュに、魔法文字を空中に浮かべる。
『最悪ですが何か』
この家族と過ごすのはとても楽しそうだ。アレスやガーシュと離れがたいし何か仕事くれないかな。カズサは友達として置いてくれるかも知れない。
「あっ!───、あの、カズサ義兄様」
「なんだい、ツェリ」
「義兄弟ですが、友達にもなってもらえませんか。ガーシュも良ければ……」
成人した男がもじもじするのは通常見られたものではない。だがツェーレン十八才の場合……、
がわ゛い゛い゛。
「お望みであれば今の美貌を永遠に近くできますよ。その美をヒトの寿命で終わらせるのは惜しい。人外にはなりますが」
「あっ、人間のままでお願い」
「友達になろう! 指切りしようよ───、っと」
ふいに目の前からアレスターとツェーレンの姿がかき消えた。
それまでツェーレンをまじまじ見るばかりで存在感無しのアレスターが、予告なしに自分たちだけを転移させたようだ。
「揶揄いすぎたかな」
「まだまだ。これからです」
「二人とも可愛い」




