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死に戻りに疲れた傾国王子、生存ルートを模索する  作者: 沓子


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3/6

アレスターの初恋



「───ガーシュ、」

 ツェーレンの去った部屋。恨めしく睨んでくるアレスターに、ガーシュは馬鹿にしたような眼を向ける。

「顔や耳の形、全身が黄金律。まるで変わっちゃいないが?」

「僕の記憶取り出したのかよ……いつから知ってた」

「当時私は六十年ほど寝てて、起きたのはその出来事のあと。話でしか知らないし、釣書でははっきりしないから向こうまで出向いたよ」




『あれしゅ』

 舌足らずの甘い声で呼ばれるのを何度繰り返して夢に見た事だろう。ふわふわできらきらで、食べたらきっと甘い。食べちゃいたい。この子が欲しい。お嫁さんにしたい。

 この子以外はいらない。



 幼い頃、百葉が騒ぐのでアレスターは実家の裏庭の林へ向かった。そうしたらそこには天使が落ちていたのだ。

 歳は2歳か3歳、きらきらと光の粒子を纏ったような白い肌に淡い薔薇色の頬。ピンクの髪は綿菓子のようにふわふわしている。

 美形一家に生まれて耐性はあるつもりだったが、その子の綺麗さと可愛らしさは何か違って神々しかった。迷子だと涙ぐんでいて、アレスターは心臓が爆発するかと思い横目で見て直視しないようにした。

 日本の昔話を思い出す。天使でなければ子供の天女かも知れない。羽衣を隠さないと帰っちゃう。でも羽衣なんかない。ワンピース脱がせる訳にいかないしどうしよう。待てよ、脱がせたら帰れないよな───。



 我ながら恐ろしい考えが過ったその後の記憶はあまりない。花冠を編んで載せた気はする。どれだけ舞い上がっていたのだろうか。そうだ冠よりこれ! と慌てて魔術で指輪を作り出したら女の子が消えた。分かっているのはツェリという名前、この世のものとは思えない美貌の幼女。

 アレスター七歳、強烈な初恋である。ちなみに指輪にはこの地に縛り付ける効果を付けていた。末っ子の天使拉致未遂事件としてグレイシアに伝わるほのぼのエピソードである。

 これを心温まる話と片付ける一家をちょっとキメェなとガーシュは思う。

 拉致を普通の事と考えるくらい、グレイシアの愛する者への執着は異常である。仕えるのはいいが恋愛なんてするもんじゃない。



 アレスターは長い間探していた。ピンクの髪を持つ美しい娘がいると聞けば、隣の大陸まで飛んだ。 

 長男の嫁になるのがピンク髪の大変な美人と知り、まさか、と動揺で魔法塔の上部を崩壊させた。

 義姉になるマリアは美少女ではあるが別人だし性格がアレだった。安堵のあまり当人に正直にそう告げてしまい、逆に付き合いやすくなる。



 地の果てまで探す気でいた。天使かもしれないので天に行く方法を模索した。なんで所有印か追跡印を刻まなかったのか何度も悔やむ。彼女が他の誰かのものになる想像だけで、周囲を氷漬けにした。

 魔法省に入ったのは新しく魔法を作るため。過去の記憶から現在の人物を辿れないか。現在から過去に魔法を飛ばせないか。

 ガーシュにも協力を求めていたのだ。黙ってるなんて酷い。



「白い結婚、解呪のち離婚の魔法誓約付き証書。ねえねえ今どんな気持ち? 探し続けて想い続けた子とせっかく結婚できたのに自分で台無しにして、どんな気分??」

 ガーシュがこれ見よがしに証書をひらつかせるが、突っ伏したアレスターに彼を構う余裕はない。

「……………………」

「へんじがない。ただのしかばねのようだ」



 名前で思いつくべきだった。ツェーレンがキラキラすぎてまともに見られなかった。

 それって前と同じだよなああああ!!?

 


「認識阻害の布を目に巻いて五◯悟ごっこより他にする事があったろうに」

「ごっこ違う……阻害しないと直視できなくて……、だってツェリだなんて……、すっっっごい美人になってたな僕のお嫁さん。向こうから来るなんて運命だったんだ僕とツェリは真実の愛で赤い糸で連理の枝なんだね」

「うざ」

「自分が死ぬ事より侍女と騎士を守ってくれって。尊い身なのに、使用人の方を気にする王子いる? 天使かなあ? 天女? 女神? 神殿作る? むしろ宗教法人?」

「わあ」

「そうだ指輪作ろうこの邸から50メトル以上は離れられないように忘却魔法で証書を忘れさせて、あああガッチリ僕の誓約魔法かけちゃった。証書を異界送りにしたら無効にならない? それから何がいる? 鎖? 手錠? 首輪とか?? び、媚薬!? ツェリが誘惑してくれたら誓約に引っ掛からないかも? ガーシュ、何が必よ───っ痛い!!」

 スパーン! とどこからか取り出したハリセンを思い切り主人の頭に振り下ろす、表情を消した従者的な何か。

「仕事行け」




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