冠①
【主要登場人物】
リン(主人公、男)
【サブ登場人物】
フィロ(獣人、女)
ジモン(探鉱頭目)
ここに受け入れられてからの日々は安泰している。
もうすぐ2週間が経つ。
住民と仲良くなったことで、日々の仕事以外にも、頼まれ事を手伝ったりと、毎日それなりに忙しい。
特異体質については、あまり説明はしていない。
どこから話すべきか纏まっていないからだ。
結局3割程度、体質についてのみ。
それ以上は語っていない。
最初は質問攻めにあっていたが、色々と汲み取ってくれたのか、今は落ち着いている。
誰しも語ることのできない話はあるということだ。
無造作に触れてよい場合とそうでない場合がある。
とりわけ僕の過去はあまり語りたくない。
いまは、まだ。
そんなことを考えていると、馬の蹄の音がしてきた。
ここまで登ってきたのだろうか。
馬車を見たのは久しぶりだ。
この街は砂漠に囲まれているためか、文明が発達していない。
大きな都市と比較するとその差は歴然といえる。
馬車から降りてきたのは、裕福な貴族衣装を来た細身の男。
男は敷地内に躊躇うことなく入ってきて、そのままジモンさんと話をしていた。
定期徴収という単語が聞こえる。
揉めている様子も感じ取れたが、話が終わるとそそくさと馬車に乗り、山を降っていた。
「何だったんです?」
暫くしてから、答えてくれた。
「街の役人の一人だ。毎月決まった日に徴収にくる」
「さっき、何か揉めていたようでしたけど…」
「ああ、値上げだよ。商売上がったりだよ、くそったれ」
ジモンさんは、椅子に腰掛け、空を見上げる。
「これも全部あいつのせいだ。あいつがこの街の実権握ってから酷くなっちまった」
「その方は…?」
「…グンジ。グンジ・バスコット。俺の、腹違いの弟だ」
衝撃的だ。
さもすれば、ジモンさんが実権を握っていたこともあるかもしれない。
「まさか、ジモンさんも?」
「俺は代理で務めただけだから、ノーカウントだな」
「なんで辞められたんですか?」
「嵌められたんだ」
大きな溜め息を吐きながら、淡々と話が続く。
僕は静かに聞いていた。
10分ほど経った。
要約すると、まずジモンさんの母親が元々統治をしていたが、ご逝去されたことで、次はジモンさんか弟のグンジさんという話になったが、意見が割れて、一旦は代理ということで兄のジモンさんが統治。
代理というシステムがあるのは、ここは大きな街であっても、それ以上の都市ではない。
都市は世界に幾つか存在する。
その中でもかなり発展している都市は都市連合と呼ばれ、幾つかの街も合わせて統治していることが多い。
地理的な状況などにより、都市連合には統治されず、独自性を築く街もあり、その場合は最低4名の都市連合の長の承認を得なければ、正式性はないとのこと。
代理となって数ヶ月後、都市連合の長達数名が来訪する日が決定。
この街は昔、とある国の中心部だったこともあり、継承の儀には王冠を使用。
来訪前日に王冠が紛失。
当日までに見つからなかったことから、ジモンさんの代理抹消。
数日後発見した者がグンジさんだったということもあり、そのまま継承されたとのこと。
役人の貴族風な衣服や馬車、中心部の建物がしっかりしているのは、そういう理由だ。
街の入口も下町雰囲気だったから、気づきにくい。
この街は、昔栄えた国の名残りなのだ。
「王冠は盗まれた、盗んだ本人もグンジさんである可能性が高い、ということですね」
「あぁ、そうだ」
「なんで、それを告発しなかったんですか?都市連合の長達は数日滞在されたんでしょう?」
また大きく息を吐いていた。
「…ふぅ、そうだな、それもできただろう。だが可能性でしかない。証拠はない。それに、俺のミスだ、守れなかった。資格はない。あいつの継承権は元々あったからな。長達も痺れを切らしたんだろうさ」
「それって、何年前です?」
「10年だ。探鉱は、父の経営で顔を出していたから、中央で働くことを辞めたあとは、ここが俺の家になってるのさ」
ジモンさんはゆっくりと立ち上がった。
「年寄りの昔話に付き合ってもらって悪いな、忘れてくれ」
「いやいや、ジモンさんはまだお年寄りではないですよ」
「俺はもう50だ、ここで生涯を過ごすことになるだろうよ。都市連合の長達がまた来ても何も変わらないさ」
再び来訪するような言い方だ。
「長達って、また来るんですか?」
「ん?あぁそうだぞ。ここは街だからな。10年に一度見に来る。丁度、今年がその年だな。確か、来週だったか」
「何を見に来るんですか?」
「…王冠だ。あとは財政状態とかの確認やら色々だ。役人達がいつもよりざわついているのも、税収を上げるのもそれが理由だろうよ」
「もし…もしもですが、その際に王冠が無いなんてことがあったりすると、同じように抹消されるんですか?」
「………あまり変なことを考えるなよ」
「参考までに聞いているだけですよ」
「………あぁそうだろうな。そうだろうよ。王冠が無ければ抹消される率は高い。だが次は、奴の息子だろうよ。俺である可能性は低い」
「低いということは、可能性はあると同義ですよね?」
「………同義だな。奴の息子はまだ小さい。嫁はどこの馬の骨かもわからんらしいし、まず家に居ないらしいからな。継承権が俺に戻ってくる可能性はある。住民投票という線もあるがな」
「なるほど」
「もう一度言うが、変なこと考えるなよ。俺は別にここでの暮らしが悪いってわけではないんだからよ」
それについて返事をしたかどうかは覚えていない。
曖昧な返事だったかもしれない。
休憩が終わる合図とともに、現場へと戻った。
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