仕事③
外階段を登って、戸を数回ノックする。
静かに入室しようとしたが、古戸のせいかギイギイと音が鳴る。
部屋の中には、2名。
熊を連想するような大柄の男、眼鏡をかけた年配のご老人。
どちらからも、この辺り独特の匂いが染み付いている。
長く働いている、そんな雰囲気だ。
「適当に、かけてくれ」
「あ、はい!」
「君達が、うちに応募してきた者達であってるよな?」
不思議そうに僕達を見ていた。
「カリヤには、事前に連絡するよう伝えていたのだが、聞いてなかったかい?」
話が見えてこない。
「あぁ、カリヤというのは君達に仕事の紹介をした女性だよ。こちらに来る日程は連絡させるということで、話がついていたんだが、どうやら事前内容とは違うようだな…やれやれ」
……あのメギツネぇ!!
「すみません!先ほどあの人から承諾書をいただきまして、顔合わせとかの時間も聞いてなくて、とりあえず早めに挨拶に行ったほうがいいと思ったので、伺った次第なのですが、今日は帰ったほうが良さそう、ですかね…?」
「いやいいよ。よくあることだから」
大柄の男は溜め息混じりに言った。
「俺は、ここの責任者をやっているジモンだ。そこに座っている、動かない爺さんは、俺の親父のジレン。無口だが、ここを一番よく知っている」
名前を呼ばれたことで、ジレンさんは眼鏡をクイッと上げる。
そのまま2人分の作業服を持ってきた。
「君達はまず作業服に着替えてくれ。夕暮れには、まだ時間があるからな。他の仲間への挨拶と簡単な作業をしてもらう。…あぁ、安心していい、今日の分も給料は出る」
「ですが、僕達はここより、だいぶ離れたところに住んでいますので、出直した方がいいと思うのですが…」
「それには及ばない。近くに宿屋があっただろう。住み込みで働いてもらうから、通勤時間は考えなくていいぞ」
住込みなんて、聞いていない。
もちろん承諾書には書いていない。
女狐はいま笑っていることだろう。
会話を聞いていたフィロも割って入ってきた。
「うちにかえらないと、チビたち待ってる」
「なんだ、お前達、結婚して子供がいるのか?」
「違います違います、そういう意味ではないです」
慌てて説明をした。
お金がないこと。
小さな子と一緒に住んでいること。
長時間留守にすることはできないことなど。
「ならガキも一緒に連れてこい。家賃はいらねぇが、簡単な手伝いなんかはやってもらう」
毎日衣食住があるのはありがたい。
しかし、子供達がこの山を登れるかどうかは不安だ。
提案については持ち帰り考えることにして、一旦出直すことにした。
子供達は意外にも簡単に承諾をしてくれた。
問題は山を登れるかだったのだが、杞憂だった。
フィロの心境変化も相乗効果として働いたのか、子供達も活発になってきた。
あまり、休憩もせずに到着。
宿屋のテラスに座っていたジモンさんが歓迎してくれる。
「待っていたぞ」
子供達は持ってきた荷物を置きに行き、僕達は専用の作業服に着替え、探鉱現場へと向かった。
昨日の帰り間際に簡単な挨拶をしているので、今日はしない。
すぐに作業にとりかかる。
基本的作業はそう難しくない。
鉱脈を掘って、採掘した鉱石を運んで、削り、粗を取って、取引先へ渡す。
掘った場所に鉱石がないことはよくあることで、掘り手にはセンスも必要とされるため、ベテランが行う。
僕達若手の仕事は運搬。
「鉱石はだいたい大きめに掘っているから落としても大丈夫だ。しかし、だ。作業を一つ止めることで、遅れが発生する、それは良く無い」
慎重に、迅速に、迷惑をかけずにすることを心掛けるようにと言われたのである。
初心者には難しい。
とりわけフィロは女性だ。
早々に運搬のメインは僕の仕事となり、フィロは荷台から荷台へと移す仕事に変更。
「ふぅ、ふぅ…重いぃ…」
これを1ヶ月もしなければならない。
短期間と申請をしたはずなのに、ここの標準労働期間が1ヶ月と言われたときには、驚きを隠せなかった。
「ふぅぅー」
大きく息を吐く。
「フィロ〜、代わって〜」
「むり、私はそれ、とくいじゃない」
「はぁ〜」
何往復しただろうか。
これが毎日続くと思うと気が滅入る。
休憩の合図や仕事終わりの鐘の音が待ち遠しい。
初日は、宿に戻るとすぐに寝室に行った。
夕飯を皆で囲む力も無くだ。
子供達、ネム・ジュリ・イアン・ユウも寂しそうにしていた。
休憩時に出された水が、その日唯一の食事になった。
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