仕事①
【主要登場人物】
リン(主人公、男)
【サブ登場人物】
フィロ(獣人、女)
紹介所まではそう遠くない。
道行く人に数度尋ね、それほど時間を費やさずに目的地へと到着。
木造の大きな開き戸を抜け、中へと進む。
建物内は簡易的な椅子や机がちらほらとあるが、客はおらず、受付に女性が一人座っているだけだった。
「あのう、すみません」
女性はじっと僕のことを見たあと、フィロをチラリ見し、すぐに僕へと眼を戻した。
「ご用件をお伺いしてよろしいでしょうか?」
「仕事を探してまして、できれば簡単な作業から、お願いしたいです。僕と彼女の2人です」
「さようでございますか。それでは、こちらの用紙に記入をお願いいたします」
用紙には、名前や年齢のほか、仕事をする理由、特技など記入要項がたくさんあった。
女性の対応は、テキパキと迅速丁寧。
一流の受付嬢と言ってよいかもしれない。
ただ一点を除いては。
「用紙確認いたしましたとこ…」
「ちょっといいですか!?」
「…どうかいたしましたでしょうか?」
「僕は最初に、2人とも仕事を探しているとお伝えしたと思うのですが、なぜ彼女、フィロの用紙の方は確認されないんですか?」
「それについて、回答は必要でしょうか?」
暫しの沈黙が流れる。
フィロが僕にさっき言っていたことが、理解できた気がした。
この人は、この街は、ほとんどの人達が人種差別をしている。
道を尋ねたときも、怪訝そうな顔をしていた人を多く感じたのは、そういうことだ。
根本的な考え方が僕とは違う。
「回答は必要ありません。同じ仕事を紹介していただければ、けっこうです」
苛立ちを出さないよう、僕も丁寧に応えた。
受付嬢からの返答には時間がかかったが、大きなため息をしたあと、ようやく両方の用紙を回収した。
「今現在、あなた方に同じ仕事を紹介できる先は、1つのみでございます」
「それは…?」
「その前に、先方に確認をしないといけません」
フィロを再度、チラリとみて話を進める。
「おそらく、受け入れは可能と思われますが、一度先方様へ、ご連絡を入れさせていただき、後日お伝えするというかたちでよろしいでしょうか?」
「それで構いません。次はいつここに来たら良いですか?」
「そうですね……」
打ち合わせをしたところ、2日後の正午に出向くことになった。
問題がなければ、その日の午後から仕事という感じになるらしい。
受付嬢は最後まで、笑顔はなかった。
玄関を出たところで、フィロが僕に頭を下げてきた。
「ごめんなさい。やっぱり私めいわくかも。しごとなんてむいてない」
涙ぐむ彼女の額に手を置いた。
「大丈夫だって、僕がついている!もし仕事先で怒られたとしても、一緒にいるから!」
涙を拭いた手は、細く見えた。
「優しいね、リンは、ありがとう」
「うん、どういたしまして。それが僕の取り柄だからね」
日が沈みきる前には、子供達のところに戻れそうだ。
日が過ぎ、指定された日に赴くと、初日とは違って、建物内には受付嬢の他数人、僕達のような申込者がいた。
順番が来るまで席で待つ。
フィロはソワソワしていて忙しない。
僕はというと、あの日、紹介所を出てからのことを思い出していた。
フィロ達の家に戻ったまではいい。
次の日だ。
朝からフィロはいない。
聞いてみると、いつも朝に出かけているということだ。
戻ってくる時間は曖昧だが、帰ってきた時は食べ物などを分配してくれる、ということらしい。
確実に盗みだろう。
それを辞めさせるために、ここに来たというのに、次の日には、いつもの行動に出てしまっているということだ。
常習犯。
街の人達が、気づいてるかどうかは分からない。
気づかれていないにせよ、好感度を上げる、獣人への風当たりを和らげる必要性がある。
仕事以外にも、日々の行動の見直しが必要かもしれない。
これから、ここで、フィロ達が、安全に生きていくために。
勿論、盗みをした日は、叱りつけている。
あまり人に怒らない方ではあるが、今後の彼女のためだ。
ある程度の指導は必要。
フィロはというと、つい癖が抜けなかったなどと言っていたが、それではダメ。
癖を理由にしてはならない。
一緒に決めたことなのだから。
暫くは、仕事だけでなく、彼女の日常生活もしっかりと監視しないといけない。
再認識し、頷いていると、順番が来たようで、受付嬢から声をかけられる。
ウロウロしていたフィロも戻ってきたところで、僕達は指定された席へと着く。
「お待たせ致しました」
深々と頭を下げてくれた。
「先方様からの承諾をいただきました。つきましては、これからお伝えする現場に直接赴いていただけますでしょうか。先方様がお待ちしております。時間は厳守ということではないとのことです」
お互いに顔を見合わせ、喜びを顔に滲ませ、受付嬢にお礼を伝えた。
外に出ても、フィロは大いに喜び跳ねていた。
「時間厳守ではないけど、もう会いにいこうか。最初が肝心だから、こういうのはね」
「うんうん!いこういこう!」
喜んでいるようで、僕も嬉しい気持ちになる。
手に持つ雇用承諾書を眺めていると、現場は探鉱と記載されていた。
「探鉱??」
「??」
僕達はまた見合わせた。
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