表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/147

出会い③

どう説得しようかと考えていたとき、彼女の後ろでは子供達が何か貪っていた。

あれは先ほど屋台で売られていたパンに間違いない。

この短時間の間に、盗んだお金でパンを買ったのだろうか。

あやうく涎が出てしまいそうだ。


「お金もパンもあげないから!これは私たちのものなの!」


やはり、獣人の感覚は鋭い。

涎を飲み込んだだけなのに、瞬時に理解できるとは、さすがだ。


「いらないよ、僕にはこれがあるからね」


さっき買った果物を広げて見せる。

決して自慢はできないが、向こうの警戒心を和らげるには適している。

非常食みたいに見えるかもしれないが、これは僕の明日の食べ物。

今食べるわけにはいかない。


「君を追いかけたのは、理由があってね。盗みを辞めてもらいたんだよ」

「これをやめたら、生活なんてできない!これもとらないとみんなきゅうきゅうする、こまる!むり!」


なるほど、パンも盗んでいたとは。

店員の一瞬の隙を突く、それを可能にする運動神経はさすかば獣人。

格好良くいえば、称賛に値するという言葉が正しいのだけど、僕に難しい言葉は似合わないし、彼女も分かりにくいだろう。


褒め言葉は心の中に閉まっておくとして、彼女には再度説得を試みることにした。



自分の主張のみ、押し通すことは難しい。

会話の主導権を握るために順序立ては重要だ。


「ずっと、こんな生活をしているの?」

「そう。ここでは、この街のじゅうじんは、あまりかんげいしてくれない」


彼女の言うとおり、そういう街があることは知っている。

南にある都市は、かなり酷かったのを覚えている。

ここでは、そのような雰囲気は感じられないけれど、単純に少ないから希有に見られているだけ、ということかもしれない。


「まえの街は良かったの。でも、バレておいだされて、ここまでにげてきたけど、ここもかんげいされない。この街もでようとおもた、でもこの子たちにあったから、だめなの。私がついていないといけないの」


やはり獣人だけなら、あの砂嵐を一人で越えることはできるようだ。


「君…、名前は?」

「フィロ…、フィロ・ネリウス」

「フィロか、いい名前だ。僕はリン、よろしく」


そっと手を差し伸ばす。

まだ警戒心はあるものの、フィロも僕の手を握ってくれた。


「僕もね、仕事を探さないといけないんだ」


財布の中身をちらりと見せる。

我ながらなんとも恥ずかしい限りではある。

でも今は同じ境遇、一体感を感じてくれたほうが効果的だ。


「一緒に探そう。僕もついていくから安心してくれていい。なぁに、これだけ広い街なんだ、仕事ならすぐ見つかるさ!僕に任せなさい!」


怪しさを払拭するように、僕は自信満々に応えた。

少しは警戒心が溶けてくれたような気がした。


ふと空を見上げると、日が傾き始めている。

紹介所には早めに行ったほうが良さそうだ。

彼女の腕を掴み、告げた。


「今から!?」

「うん!まだ日が沈むには時間があるからね」


渋々了承してくれた。


獣人よりも足の遅い人間が、前を走る。

手を引きながらだと、異様さは増すだろう。

後ろの方で、「おねえちゃんいってらっしゃい」、と確かに聴こえた。




感想、評価、レビューお待ちしています。辛口でも構いません。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ