出会い③
どう説得しようかと考えていたとき、彼女の後ろでは子供達が何か貪っていた。
あれは先ほど屋台で売られていたパンに間違いない。
この短時間の間に、盗んだお金でパンを買ったのだろうか。
あやうく涎が出てしまいそうだ。
「お金もパンもあげないから!これは私たちのものなの!」
やはり、獣人の感覚は鋭い。
涎を飲み込んだだけなのに、瞬時に理解できるとは、さすがだ。
「いらないよ、僕にはこれがあるからね」
さっき買った果物を広げて見せる。
決して自慢はできないが、向こうの警戒心を和らげるには適している。
非常食みたいに見えるかもしれないが、これは僕の明日の食べ物。
今食べるわけにはいかない。
「君を追いかけたのは、理由があってね。盗みを辞めてもらいたんだよ」
「これをやめたら、生活なんてできない!これもとらないとみんなきゅうきゅうする、こまる!むり!」
なるほど、パンも盗んでいたとは。
店員の一瞬の隙を突く、それを可能にする運動神経はさすかば獣人。
格好良くいえば、称賛に値するという言葉が正しいのだけど、僕に難しい言葉は似合わないし、彼女も分かりにくいだろう。
褒め言葉は心の中に閉まっておくとして、彼女には再度説得を試みることにした。
自分の主張のみ、押し通すことは難しい。
会話の主導権を握るために順序立ては重要だ。
「ずっと、こんな生活をしているの?」
「そう。ここでは、この街のじゅうじんは、あまりかんげいしてくれない」
彼女の言うとおり、そういう街があることは知っている。
南にある都市は、かなり酷かったのを覚えている。
ここでは、そのような雰囲気は感じられないけれど、単純に少ないから希有に見られているだけ、ということかもしれない。
「まえの街は良かったの。でも、バレておいだされて、ここまでにげてきたけど、ここもかんげいされない。この街もでようとおもた、でもこの子たちにあったから、だめなの。私がついていないといけないの」
やはり獣人だけなら、あの砂嵐を一人で越えることはできるようだ。
「君…、名前は?」
「フィロ…、フィロ・ネリウス」
「フィロか、いい名前だ。僕はリン、よろしく」
そっと手を差し伸ばす。
まだ警戒心はあるものの、フィロも僕の手を握ってくれた。
「僕もね、仕事を探さないといけないんだ」
財布の中身をちらりと見せる。
我ながらなんとも恥ずかしい限りではある。
でも今は同じ境遇、一体感を感じてくれたほうが効果的だ。
「一緒に探そう。僕もついていくから安心してくれていい。なぁに、これだけ広い街なんだ、仕事ならすぐ見つかるさ!僕に任せなさい!」
怪しさを払拭するように、僕は自信満々に応えた。
少しは警戒心が溶けてくれたような気がした。
ふと空を見上げると、日が傾き始めている。
紹介所には早めに行ったほうが良さそうだ。
彼女の腕を掴み、告げた。
「今から!?」
「うん!まだ日が沈むには時間があるからね」
渋々了承してくれた。
獣人よりも足の遅い人間が、前を走る。
手を引きながらだと、異様さは増すだろう。
後ろの方で、「おねえちゃんいってらっしゃい」、と確かに聴こえた。
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