出会い①
人集りに近づくにつれ、声量も大きくなっていく。
観客は老若男女いるようで、中央付近は見えにくい。
ようやく覗いた隙間から、男達が腕相撲勝負をしているのが見て分かる。
男2人の真ん中には審判。
人と人との隙間に顔を入れているため、全体を見渡せはしないが、勝ち負けの賭事もしているようで、悔しさを露呈する声も聞こえたりする。
目の前の試合が終わったとき、勝負していた男の一人と眼が合ったのは気の所為だろうか。
試合はまだ続きそうだ。
お金さえあれば賭事で一儲けすることもできたのだ が、生憎余裕はない。
人混みから必死に抜け出そうとあたふたしていると、目線の先の影が動いた。
この街では初めて見る、獣人だ。
前の機械都市でも、獣人はいたが、数は少ない。
そもそもの生態系として絶対数が少ない。
8割ほどが一般的な人間という人種で、次いで獣人や妖人、ロボットなんかが生活している。
手足や身体の一部を機械で補っている人もいるけれど、それは普通の人間とカウントしていいだろう。
800年前までは人間種のみだった世界が、今は幾つかの種に分かれている。
生態系が破壊されたのは、とある事象が起因しているとよく言われているのだが、一旦置いておく。
今は目の前のことに集中する必要がある。
獣人が何やらコソコソとしているからだ。
目を向けると、2つ隣の男性に近づいたあと、次は隣の女性、そして老人と、後ろに回っては、すぐまた別の人の背後にいた。
凝らしてみてみると、一瞬ではあるが、無防備な鞄やポケットに手を忍ばせているのがわかる。
…スリだ。
幸い、僕のところには来ていない。
獣人の感覚は普通の人間より鋭いため、気付かれているのは承知の上だろう。
人間は獣人と比べて早く動けない。
基本的な、運動や反射神経は獣人の方が上だ。
今回は見られているから狙わないと解釈したい。
決して、持ち合わせが少ないことを、本能的に悟られたと思いたくない。
ある程度回収できたのか、彼女は人集りから抜けようと行動していた。
スムーズに動く、さすがは獣人。
僕も負けじと力を入れ、流れを掴み、なんとか抜け出すことに成功。
獣人の向かった方角は記憶している。
急ぎその跡を追うことにした。
残念ながら僕は至って普通の嗅覚だ。
匂いでは、獣人の跡を追うことはできない。
獣臭探知はできない。
でも僕には、他人にはない特技がある。
特異な体質ともいうべきか。
それは、人や物の熱量を感じ取ることができる、というものだ。
それは無機物に対しても有効で、有機物に関しては無機物以上に、その軌跡も感じ取れたりする。
とても便利だ。
一人旅をしていても、時間がかかる場合はあれど、目的地にはたどり着ける。
ただし、迷路みたいな場所では厄介。
熱量があらゆる方向に存在するため、しばしば迷ってしまうこともある。
今回は、問題なさそうだ。
比較的、普通の街並みであるし、彼女が向かった先は人気の少ない路地裏。
対象が絞れると分かりやすい。
左右に何度か曲がると、目的の場所に着いたようだ。
「やあ、こんにちは」
「ふぇ!?」
何故場所が分かったのかと言わんばかりに、こちらを凝視している。
他にも数人、驚いている。
獣人ではない、普通の子ばかりだ。
彼女を16.17の歳とすると、6〜12歳くらいの子供が、4人いた。
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