第3話
「おまえさんはどうしてこんなとこ来たんだい?」
「子供を、人が少ないところで育てたかったんです。少人数の教育なんて、街では高い金払わないと受けられません。それに村の土地を人口で割ったらひとりあたり学校の校庭くらい、いや、もっともっと広い土地があると思います」
「そうかいそうかい。でも奥さんは不便してやしないかい?」
「彼女も最初は不安だったろうけど、今は長閑で自然な暮らしを楽しんでると思います。何よりみんなが僕らの子供たちと僕らを有難がってくれる。庭付き戸建ての住宅になんて街では絶対住めないですしね」
「冬はさぶいだろう?」
「おかげで僕はスノーボード、子供たちはスキーを覚えました。そりや雪遊びも出来るし、雪かきだって僕は楽しめる。夏に遊びに来て涼しさに移住を決めた時は冬の寒さは忘れていましたけど。奥さんは寒いのは本当に嫌だと言ってますけどね」
「それでおまえさん、この先どうするんだい?」
「僕らこの村で楽しく4年も暮らして、僕はここで働かせて貰って、いつまでも僕らみたいにここに来たい人の席を埋めてちゃいけないと思うんです。それで僕、初めて来た時から気になってた物件買って飲食店やります」
「場所はどこなんだい?」
「あの国道交差点のログハウスです。カレー屋だった。30万で買えたんですよ。金かけないでやれば、なんとかなると思うんですよ」
「ああ、川の畔な。やめとけ。やるんなら子供が独立してから道楽でやれ。この村で飲食店なんて無理だに。おまえさん、奥さんと子供たちがかわいそうだに。黙ってここで勤めてりゃ良い」
「でもこの会社だって赤字じゃないですか。僕は自分と家族の将来を赤字な会社に委ねるのは不安なんです。それにこのままじゃ人口が減って村が無くなっちゃう。この村を気に入って家族を連れて来て、受け入れて貰ったんだから、僕はもっとこの村の良いところをみんなに知ってもらって、10人に、いや、100人にひとりくらいは僕らみたいに移住してくれる様な魅力的な事業をやりたいんです。子供たちもそんな僕の背中を見て育って、この村を背負って行く様になってくれたらと思うし、ここに残りたい子たちに魅力的な事業を提供して地域に恩返しをしたいんです」
「そりゃあ有り難い事だけど、全部おまえさんの考えなんだろう?奥さんは何て言っとるだ?」
「反対だって」
「そらそうだ。やめときないよ」
それから少しして、おばさんは亡くなった。僕には「川の畔」って言葉が耳にこびりついて、屋号を「畔」にしたかったけど事業自体に反対していた妻の意見を尊重する形で屋号を「カフェ ノースポート」に決めた。星が綺麗な高原、北極星をイメージしたものだったが、そこに僕の意思は介在していなかった。
僕の一世一代の大事業は、最初から破綻していた。