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老剣士の旅  作者: ポンド
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登録そして結成

 いつ頃からそうなのかはっきりとはしないが、冒険者は各地にある冒険者協会で登録をするのが一般的だ。冒険者はここで、旅の神“ドメスリプス”の啓示を受けた神と対話する者“トーカー”より洗礼を受け、数記神“マー・サナス”の加護を受けた『旅人の書』を授かり、正式な冒険者になるのだ。また、騎士になるまでも同じ様なもので、各地の騎士団の入団試験を受けた後、騎士の神“アート・クロス”の啓示を受けた巫女の洗礼を受け、数記神の加護を受けたネックレス『ナイト・タグ』を授かり、正式な騎士となる。

 それぞれ、正式に冒険者や騎士になると、冒険者は魔物を倒す事で、騎士は訓練や町と民を守る事でレベルが上がり、それに伴って修業や成長だけでは得られない、様々な加護を神から受ける事が出来た。その加護はステータスの上昇や、特技などの様々な形でその身に現れる。また、それぞれに数記神から授かる旅人の書とナイト・タグには様々な事が記されており、書の方には本人のステータスやパーティーを組んだ仲間の状態、その他にも冒険に役立つ様々な事柄が記され、騎士のタグの方には本人のレベルと所属団名と位、さらに自然治癒力増加や免疫活性の印が記されていた。

 その旅人の書やナイト・タグは、それぞれ冒険者や騎士を辞めると、即座に回収される。だが辞めたからといって、神からの加護が無くなる事はない。加護とは一種の報酬なのだ。しかしながら、高レベルの者になると加護の他に、そのレベルに見合った能力上昇がステータスに加わるので、わざわざ途中で辞める者など殆どいないのが現実だった。




――――――――――




 騎士を辞めた珍しい男――老剣士ゼルフは今、冒険者協会の2階で冒険者の登録を行っていた。


「――協会の方では、仕事の斡旋も行っております。1階の掲示板にはその仕事内容が書かれた貼紙がしてありますので、仕事を受ける時は自分のレベルに合った物を選び、一階の窓口へ持って来て下さい。その時に、仕事についての説明を致します。ここまでで、ご質問はありますか?」


 協会役員のシャルムはここまで一気に説明をした後、ゼルフに尋ねた。

 協会はこの2階が冒険者の新規登録窓口になっていて、窓口は6つあり大分広いが、今は3つしか埋まっておらず他にも数人いるだけで、ここが始まりの町である事を考えると今日はかなり空いていた。


「いや、何もないよ」


「では、旅人の書の方に参ります」


 そう言ってシャルムは窓口の机の下から、茶色の革張りの本とナイフを取り出した。


「こちらが旅人の書となります。この書の表紙に血を垂らす事で、ゼルフ様の旅人の書となります。では、ナイフです」


 シャルムからゼルフにナイフが渡された。

 ナイフは銀の装飾がなされていて、儀式用のナイフであることがわかる。


「指でいいのかい?」


「はい」


 その返事に、ゼルフは親指の腹へとナイフを当て、スッと滑らせる。そうして出て来た血を、一滴、旅人の書へと落とした。すると書は一瞬光を放ち、表紙にはゼルフ・ロンガフストの名が現れる。さらに親指の傷は、ナイフの効果なのか、いつの間にか消えていた。


「これでゼルフ様は、正式な冒険者となられました。おめでとうございます」


 ゼルフはナイフを返しながら律儀にありがとうと帰す。


「それでは最後に旅人の書の簡単な説明をさせていただきます。最初のページにはゼルフ様の……!」


 と説明をしながらゼルフの旅人の書を開くが、そこに記されたステータスに、シャルムの顔が驚愕の色に染まる。


――――――――――


   ゼルフ・ロンガフスト


職業:永遠の騎士・剣聖

レベル  1

HP:1607/1607

MP: 872/ 872

力:805

堅力:707

体力:758

知力:1026

素早さ:861


攻撃力:1105

防御力:1057


――――――――――


「これは……、すごい……」


 シャルムの視線は、そのゼルフのステータスから離れない。何か考えているようだが、口から漏れる言葉も呟き程度でゼルフの耳には届かなかった。

 そんなシャルムの様子に、ゼルフも何かあったのかと、自分のステータスを覗き込む。しかし、これといっておかしな場所はないように思う。


「すまない、シャルム」


「……はっ、はいっ!」


 ゼルフに声をかけられ、シャルムは驚いて顔を上げた。だが、顔はまだ戻りきっていない。


「何かおかしなところでも在ったかい?」


「…そんな事は、ありませんというか…、かなり高すぎるステータスで……」


 ゼルフはやっと納得がいった。数値化されたステータスを見たことが無かったために、気付けなかった。騎士がわかるのはレベルのみなのだ。


「ああ、この間まで騎士だったのでね。それでだろう。まぁ、職業はまた騎士のようだがね。驚かせてしまってすまない」


「い、いえ。こちらこそすみません。…しかしすごいですね。このステータスは」


「そうなのかい?」


「ええ。レベル1なら通常はどの値も2桁止まりです。それに見たこともない職業が2つも……」


 シャルムはまた、興味深げにゼルフのステータスに目を落とす。また、世界中探してもこんな高数値は……、と呟きながら考える様にしている。これは彼女の癖かもしれないな、とゼルフは思った。


「……シャルム、これは秘密にして貰えないか?」


 ゼルフのその言葉に、シャルムは驚いた顔をする。


「何故ですか?これは歴史に名を――」


「それは、よいのだがね」


 シャルムが言い終わる前にゼルフは言葉を重ねた。


「これが知れたら、必ず面倒な事になるだろうし、巻き込まれる。私はそれが煩わしいのさ。……もう歳だからね、ゆっくりと旅がしたいのだよ」


 ゼルフは笑顔でシャルムを見つめた。それにシャルムはめをつむり、ゆっくりと考えをまとめる。


「……協会側としては不本意ですが、わかりました。これは上へは報告をしないでおきましょう。しかし、一般の冒険者だけでは手に負えないような何か重要な案件が上がりましたら、私の方から直接に連絡を差し上げるかもしれません。それは請けて頂きたい。もちろん、正式な依頼ではないため、報酬などはないと思いますが……」


「フッ、君は大分キレ者のようだね。……わかった。今騒がれて旅にでられないよりはいいだろうし、それで手を打とう。ただし、さっきも言った通りゆっくりと、平和な旅がしたいからね。本当に最終手段にしてくれよ」


「私の方も職を失いかねない危険な橋を渡るのです。ご理解頂けますよう……」


「ああ。その時は知り合いの騎士にタダで頼むとでもしておけば大丈夫だろう。……君のような話のわかる人で助かったよ。契約成立。これから私達は共犯者かな?」


 シャルムとゼルフは固い握手を交わした。


「シャルム!そこのじいさんに説明終わった?」


 その時、ゼルフの後ろから若い女の声が聞こえた。それにゼルフは後ろを振り返る。

 そこにいたのは二人の綺麗な若い女だった。燃える様な紅い長髪のローブを着た魔法使い風の女性と、色素の薄い空色の髪をした神官風の服装をした女性だった。


「リーゼっ!すみません。ゼルフ様」


「いや、シャルム。構わないよ」


 すかさず頭を下げようとしたシャルムを、ゼルフは手を上げて制す。


「ダメだよ、リーゼ。失礼だよ」


 神官風の女性が、魔法使い風の女性を諌める。最初に声を出したのは、魔法使い風の女性だったようだ。


「ルーシエの言う通りよ、リーゼ」


 どうやらシャルムとは知り合いらしい。


「そこのじいさんがいいって言ってるからいいのよ。じいさん、私達とパーティーを組みなさい」


 リーゼは一人で話しを進めていく。その恐れを知らない強気な姿勢に、ゼルフは自然と笑いが漏れる。


「ハハッ、まぁ待ちなさい。リーゼと言ったかい?いきなりパーティーをと言われてもね。もう少し待ってくれ。それと私の名前はゼルフだ。確かにじいさんだがね、言われて気分のいいものではない」


 ゼルフは軽く威圧するように見つめた。それにリーゼは目線をそらし、わっわかったわ、と大人しくなる。隣のルーシエは、ゼルフの威圧感に肩を震わせ俯いてしまう。

 ゼルフは窓口の方へと向き直った。


「さて、シャルム。パーティーの説明を」


 シャルムは少し申し訳なさそうにしていたが、説明を始める。


「はい。パーティーとは、冒険者が旅をするときに組むことの出来る、5人以下の旅の仲間のことです。パーティーを組む事で、戦闘で得られる次のレベルまでの経験値というものが平等に分配されます。ちなみに経験値は便宜上そう呼んでいるだけで、書の方に記されてはおりません。また、レベルが上がるのには個人差があります。なので、レベルが上がらないからといって経験値が得られていない訳ではありませんので、覚えておいて下さい」


「ああ」


「あとパーティーを組む事で、ご自身の旅人の書の方にパーティーを組んだ方々の簡単なステータスが記されます。それはご自身のステータスが記されたページの後のページに記されます。パーティーを組む方法は、それぞれの旅人の書を重ね“パーティー”と唱えて下さい。解散またはパーティーを抜ける場合、同じようにパーティーメンバーの旅人の書を重ね“ブレイク”と唱えて下さい。…それと、協会の方では生存率が上がりますので、通常はパーティーを組まれる事を進めています」


「そうか、ありがとう」


「その他の旅人の書の機能は――」


「いや、あとは使いながら覚えるよ」


 ゼルフは、シャルムの話を遮り、もう一度ありがとうと礼を述べた。シャルムは、いえと礼をした後、ゼルフに机の上に置いてあった旅人の書を渡し、リーゼ達の方へ視線を向けた。それに、ゼルフも後ろを向く。


「リーゼと、ルーシエ…だったかな。待たせてしまってすまないね」


「いいえ!そんなっ……」


 ルーシエは今まで俯けていた頭を上げ、首をふる。ゼルフはそれを手を上げ制した。


「さて、先ほどリーゼが言っていたが、私とパーティーが組みたいと?」


「じい……、ゼルフもこれから冒険者として旅に出るんでしょ?いくら装備が良くてもどう見たってもう歳なんだし、すぐに殺されちゃうだろうから、若い私達が仲間になってあげるのよ」


 リーゼが胸を張って自信満々に言い切る。シャルムとゼルフはため息が出てしまった。


「……。あー、君達ならわざわざ私に声をかけなくとも、冒険者の集まる酒場などに行けばパーティーなどすぐに集まるだろう?なぁ、ルーシエ」


 ゼルフは、リーゼに聞くと話がちゃんと進まないと考えてルーシエに聞いた。


「確かに声はかけられるんですが…、どうもその……」


 ルーシエは言いにくそうにして、恥ずかしそうに顔を赤らめる。

 そこでリーゼが待っていられないと、口を挟んだ。


「男どもが私達の体目当てで声をかけて来るのよ。女の冒険者を探そうにも、もとから女は少ないし、二人で行こうにもどちらも後衛職。だからここで大丈夫そうな奴に声をかけようってね」


「何か私が枯れていると言われているようで悲しいね…」


「で、どうなのよ」


 リーゼは男としてのゼルフなどどうでもいい、と言うように自分の旅人の書を出して聞いてくる。ちなみにルーシエは、体目当てというところで真っ赤になって俯いてしまっていた。


「君は彼女達と知り合いなんだろう?」


 ゼルフは後ろのシャルムへと声をかける。後ろでリーゼが何か言っているが気にしない。


「はい。ルーシエは私の妹で、リーゼは妹の親友です」


「ほう、姉妹だったか…。彼女達は信用出来るのかい?」


「それは保証しますが…、よろしいのですか?ご迷惑では……」


「なに、仲間を探そうか迷っていたところだ。ちょうどいいさ」


 そう言ってゼルフは、リーゼ達に向いて旅人の書を出した。


「パーティーを組んでもいいが、私は実戦から少し離れていてね。感覚を取り戻すためにもう一週間ほどこの町にいるつもりだ。あと、頼まれ物があって旅の途中寄らなければいけない場所もあるんだが、それでもいいかな?」


「いいわ。私達強くなるのが目的だもの」


「あ、ありがとうございます!」


「それでは旅人の書を出してくれ」


 ゼルフが前に出した旅人の書の上に、リーゼとルーシエが自分達の旅人の書を出した。そして三人はタイミングを計るように目を合わせる。


『パーティー』


 一瞬、旅人の書が光を放った。

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