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パトリックと距離が近すぎる

「皇太子殿下、どのようなお話しでしょうか?」


 パトリックは、「話がある」と言ったわりにはずっと黙り込んでいる。


 よりにもよって、わたしの目をじっと見つめたまま。


 彼の髪の色と同じ赤色の瞳は、ほんとうに炎のように美しい。


 高貴な彼とふたりきりでいることにただでさえ居心地が悪い思い出いっぱいなのに、これだけ見つめられるといたたまれなくなってしまう。


 図書室の読書用の丸テーブルは小さい。わたしたちは、その小さな丸いテーブルをはさんで向かい合わせに座っている。その距離は、近すぎるなんてものではない。それこそ、パーソナルスペースを侵し侵されている。


 わたしのいたたまれなさは、そろそろ限界に達しようとしている。


(もうダメだわ。いますぐにでも席を立って図書室から出ていきたい)


 その衝動を抑えているのは、ひとえにアレックスのことを思ってのこと。


 もしもパトリックの気分を害したり不都合なことでもあれば、アレックスに恥をかかせてしまう。わたしが咎められたり罰を受けたりするのはかまわない。だけど、アレックスの顔に泥を塗ることだけは避けたい。


 アレックスを物理的にも精神的にも傷つけてはならない。


 その為には、わたしが彼を守る。全力で彼を守り抜く。


 というか、彼を守りたい。全力で彼を守り抜きたい。


 その気持ちがあるからこそ、いまのこの苦行のようなひとときを耐えることが出来ている。


「ナオ。唐突だが、おれといっしょに来ないか?」


 パトリックは、やっと口を開いた。


「はい?」


 だけど、彼の言った意味がよくわからなかった。


「あー、いや、その……。きみは、ほんとうによくしてくれた。食事のことだけではない。自分のことを顧みず、いろいろ案内してくれたり付き合ってくれた。その礼をしたい」

「はぁ……」


 間抜けだけど、それしか反応出来なかった。


「まとまった休みが取れないだろうか? いや、なんならわが国にずっといてくれてもいい。もちろん、働かなくていい。きみの衣食住は、保障する。もちろん、家族もいっしょでいい。家族が残るというのならそれでもいい。家族のこともちゃんと面倒をみるから」

「ちょちょちょ、こ、皇太子殿下、いったいどうされたというのです?」


 あまりにも突拍子すぎる。というか、どういうことなのかまったくわからない。


(いくらお礼といっても、ふつうは『欲しいものはあるか?』とかにならない? それを『いっしょに来い』と言うだけでなく、わたしや家族の生活の保障をするですって? そんなの、お礼をするのには非常識すぎるわ。いったいぜんたい、どういう展開なの? というか、パトリックの思考はどうなっているの?)


 困惑というよりか、謎すぎてわけがわからなくなっている。



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