わたしは、やはりわたし
「いずれにせよ、過去に死に戻ったわけよね。だったら、どうにかならないかしら?」
わからないことをあれこれ考えたり推測しても始まらない。
それよりも、いま何かできそうなことを考えた方がいい。
「とりあえず、このままだといまのわたしの将来は死あるのみ。不名誉かつ哀れな死を迎えることはわかっている。『役立たず』だとか『生きている価値はない』だとか言われていても、わたし自身は死ぬことを願っていたわけではない。病気とか事故ではなく、殺されてしまうことなど望んではいなかった。ということは、殺されないようにしなければならない。死ぬことを回避しなければならない。そうよね?」
当然である。自分自身に確認したり尋ねたりするまでもない。
「それならば、わたし自身の未来をかえなければならない。いますぐにでもかえていかなければならないのよ。わたしのすべてをかえなければ、生き残れない。また死んでしまう」
もう一度姿見の前に立った。
「理不尽に殺されたことは仕方がなかった、とは思わない。もしかしたら、神様がもう一度別の人生をやり直すチャンスを与えてくれたのかもしれない。そう考えれば納得がいくし、一度目の人生のすべてに諦めがついたわ。そうよ。そうよね。殺されて人生と命も含め、すべてを失ったのですもの。これ以上なにも失うものはない。なにもかもをなくしたのだから」
両拳を天井に突き上げた。
「あぁ、なにか吹っ切れたわ。なにもかもがどうでもよくなった気がする。どうせだから、いままでとは違うキャラでやりなおしてみるというのはどうかしら? それって面白いかもしれないわね」
急に気分がラクになった。頭と心の中にあるモヤモヤや鬱々がいっさいがっさい消え去ったかのような錯覚を抱いた。まるで霧や靄が晴れたように、なにもかもがクリアになった。
「こういうことを自暴自棄というの? それとも、頭と心がぶっ飛んでしまったのかしら?」
この際、どちらでもいいわ。とりあえず、やれるところまでやってみればいい。
そして、未来のわたしを救うの。
いいえ、違うわ。未来のわたしだけでない。ついでとはいってもなんだけど、未来のアレックスも救うのよ。
というか、彼があんなことにならなければわたしもあんなことにならなかったわけよね。それなら、まずは彼をどうにかした方がいいかもしれない。
「まずはわたし自身のキャラ変更、その上で彼をどうにかするのよ」
大決心をし、自分自身に宣言する。
そんな大決心をすることじたい、わたしがかわった第一歩。
姿見に映る生まれかわったあたらしいわたしは、一度目の人生のおチビで陰鬱な「役立たず」なわたしとは、どこか違うように見えなくもなかった。