若返っている? どうなっているの?
王宮にある使用人たちの寮での生活が長すぎたのかもしれない。
わたしの生家であるドナルドソン男爵家は、わたしが王宮付きの侍女になったばかりの頃にはすでに傾き始めていた。そのときにはまだ屋敷はあった。はやい話が、傾き始めて生計が苦しくなった為、侍女として勤め始めたのである。
働き始めた頃、王宮には屋敷から通っていた。
その数年後、ドナルドソン男爵家はダメになってしまった。ダメになり、まずは屋敷を手放して借金の返済の一部にあてた。
ドナルドソン男爵家は、もともと領地を持たない宮廷貴族。王都にある小さな屋敷と土地、それから地方にある小さな土地とログハウスは所持していた。土地家屋以外の所有物といえば、アンティークと呼ぶにはおこがましい古びた調度品や骨董品の数々。すべて売り払っても、借金返済のほんの一部にしかならなかった。
とにかく、いまわたしはその古びた屋敷の自分の部屋にいる。自分の部屋にいて、姿見で自分を見ている。
黒髪に黒い瞳。背が低くて痩せているだけでなく、どこもかしこも平坦で薄っぺらな体。さらには、のっぺりとしていてパッとしない顔。
パッとしない容姿。見たくもない容姿。
姿見で全身を見るどころか、あらゆる鏡で自分を見たくなかった。
鏡じたいを避けていた。
が、いまは違う。それこそ、穴が開くほど自分自身を見つめている。
「いったい、これはなんなの?」
自分が自分ではない。いえ、違う。自分だけど、自分の姿ではない。いえ、それも違う。
たしかに自分。だけど……。
「若くなっている? 若返っているということ?」
わたしだけではない。元国王アレックスも若返っていた。彼もまた若いときの姿だった。
アレックスは幽閉されてボロボロになってしまったけれど、幽閉される前までは美しく気高かった。光り輝いていた。
「ということは、彼もわたしも若返ったということ?」
なにかそれも違う気がする……。
昨日の様子では、アレックスはわたしが若返ったことに気がついていない感じがした。
「彼は、なんの疑問も違和感も抱くことなくこの姿のわたしを相手にしていた。ということは、彼はわたしとわかっていた。厳密には、いまのこのわたしの姿のわたしだとわかっていた」
いろいろ考えているうちに、しだいに落ち着いてきた。
部屋の中を見まわすと、若いときに使っていたものがたしかにここにある。
「ということは、若返ったというわけではなく、若いときのわたしに逆戻りしたということ? 時間が巻き戻ったかなにかしたということ?」
とりあえず、寝台の上に腰をおろした。
間違っているかもしれない。
だけど、いまはそうとしか考えられない。思いつかない。
というか、そう考えた方がラクなはず。
寝台に腰をかけた状態で、背中から寝台の上にダイブした。
マットは古くてかたく、毛布は毛羽立ちごわごわになっている。
これしか使ったことがなかったから、これが当たり前だと思っていた。が、王宮付きの侍女になり、王宮にある寝台のマットや布団に触れたとき、あまりの質の違いに心の底から驚いた。そして、感心したりうらやんだりした。
侍女になったとき、王宮で見聞きしたことや経験したことはなにもかもが驚きの連続だった。新鮮だった。
若かりし頃のことが、つぎからつぎへと思い出される。
どれもこれも葬り去った記憶ばかり。
いいえ。わざと忘れ、捨てたものばかり。
落ち着きを取り戻し、しばらく若かったときのことに思いを馳せた。
それから、いまのこの状況を推測してまとめた。