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踏み込まずの回廊

 悪い癖というわけではないけれど、忙しかったり気が急いているときにはついつい近道をしてしまう。目的地にすこしでも早く到着する為、最短ルートを使ってしまう。


 これは、いつも多忙すぎる故の緊急処置。宮殿内を熟知している結果の賜物。


 というような正当化はやめておく。


 ただの言い訳だから。


 それはともかく、最短ルートは何パターンかある。そのひとつが、通勤時にわたしの屋敷から宮殿の通用口にいたるまでに通過するバラ園。バラ園は、本来なら立ち入り禁止になっている。しかし、柵や垣根を飛び越えて無理矢理横切っている。他のパターンの中には、バラ園のように入ってはいけない場所や暗黙の了解的に避けた方がいいエリアに立ち入るというものがある。


 大広間に行く為に、いま足早に通過しているエリアもそのもっともたるものである。


 王族の居住域内にある通称「踏み込まずの回廊」は、暗黙の了解的に足を踏み入れてはならない廊下。というか、大昔に非業の死を遂げた王妃がさ迷っているということで、だれもが避けたがる区域である。


 その非業の死を遂げた王妃というのは、いったいだれなのか? 


 その名は、だれも知らない。名さえ知られていないのに、根拠や詳細のわからない根も葉もないうわさ話を心の底から信じているわけではない。そのことは、わたしだけではなくだれもがそうである。


 が、「『踏み込まずの回廊』で白い影を見た」とか「うめき声が漂っている」とか、定期的に噂が流れる。


 つい先日も「レディの艶っぽいうめき声」がきこえてくる」、との噂が流れたばかり。


 繰り返し言うけれど、個人的にはそれを信じているわけではない。


 が、ほんのわずかな時間でももったいないと思うわたしは、そこを通過する選択に強いられ、実際いま通過している。


 ドキドキびくびくしながら。


(いま、なにかきこえなかった? 気のせい? やはり、なにかよからぬモノでもいるわけ?)


 もうなにかきこえてくる。そういう気がする。


(違うわよね。ビクビクしているから、きこえてくるのよ)


 よくある気のせい。心が怯えているから、なにかが見えたりきこえたりする。


(きっと心理的なものよ)


 自分に言いきかせる。


 が、足が止まった。


 すぐ先にある部屋から明かりが漏れているのである。


 このエリアは、いまは使われていない。立ち入り禁止になっているわけではないけれど、用事がないのでめったに訪れる者はいない。たまにだれかがわたしのように近道に使ったり、定期的な清掃で訪れるくらい。


 すくなくとも王族でこのエリア内の部屋を使っている人はいない。


 だから、灯りが漏れている部屋も空き部屋になっているはず。


 が、あきらかにだれかがいる。扉が半分開いていて、そこから灯りが漏れている。


 声は、そこからきこえてくる。


 あきらかに人の声。よからぬモノとか怖いモノの声ではない。


 さらに言うと、その声も話し声ではない。喘ぎ声というか、うめき声というか、とにかくそんな感じの声である。







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