祖母が見たミトリ様 後半
祖母が遠い昔の何かを眺めているような声で、ひとり言のように呟く。
「すべてを見通せるミトリ様は、私らを碁盤の上の碁石のようにポンと正しいタイミングで、正しい場所へ置きなさる。
でもミトリ様が見ているものを見えない私らは、オロオロするばかり。
必死に考えても、自分がどこにいるのか、白い石なのか黒い石なのかさえわからない。
すべてが終わって初めて、なすべきことが行われたと気づくだけ。
私らはいつも、物事が済んだ後にしかわからないのだよ」。
祖母の声が遠くに聞こえる。
「悩みや苦しみを抱えた人にとって、わからないというのは、とても苦しいことなんだよ。
この世で起きるたいていのことは、時間に記されていて、
私らは、自分の命がこの世に誕生した瞬間から時間の道を歩いている。
時間の道は星の位置に従っているから、
天上にいるミトリ様は、先がわかるのだよ」
「未来は見えなきゃだめ?」
「無理して見なくてもいい。未来にとらわれると途端に今を不安に思うからね。
今を大事にする気持ちを失ってしまう。
でも辛い状況にいる人は、良い未来を見通せたら、それを信じて自分を奮い立たせることができる。
辛い人にとって、わからないまま、それでも行かなくてはいけないというのは苦しいのだよ」
「ミトリ様が読む未来は絶対なの? 変えられないの?」
「絶対じゃない。確かに星が定めた時間の道はあるけど、でもね、強い意志があれば道を変えられる。
こう考えたら、わかるかい。
おまえは今、舟で川を流れている。
天気もいいし、このまま流れていくのも悪くないと思っている。
でも、川の途中に綺麗な花が咲いていて、舟を降りてその花を摘みに行きたいと思う。
もし強い意志があれば花も摘めるんだよ」
「おばあちゃんは? 船に乗ったの?」
「流れている自分を好きじゃないと思って、意志を貫いたけど半々だね、
人を巻き込むと自分だけの後悔では済まないから。でも、本当にわからないんだよ。
物事は複雑で、めまぐるしく変わるから。さあもうおやすみ」
祖母の手が、メイの冷えた肩に暖かい布団をそっと引き上げた。
その温もりが心地よくて、メイはあくびをして眠りについた。