その鳥を殺してはいけなかったのに
「面接の家政婦が来ました」
秘書の言葉を聞いて、屋敷の当主、肥蛇蒼源の枕元にいた男が顔を上げた。
「父上、孔雀さんの負担を軽くするために、もう一人家政婦を雇うことにしました。
父上の世話をちゃんとする家政婦かどうか、僕がしっかり面接してきます」
蒼源は返事をしない。でも指がかすかに動いた。
部屋を出ると、秘書が経歴を読み上げた。
「出身はかつて炭鉱で栄えた山村ですが、現在は合併で無くなっています。
最終学歴は地元の高校で、成績は生徒数が少ないため判定不能。
家が古い旅館と雑貨商を営み、冠婚葬祭を手伝ううちに清掃や家事全般を身につけたようです。
個人経営の家政婦派出所に6ヶ月ほど前に登録。
住み込みも可能ですが、その場合は飼っている小鳥の持ち込みを希望しています。
実績が少ないなどの面もありますが、その分低料金で雇えます」
そして書斎のドアを開ける前に、最後の確認をした。
「孔雀さんの意見は…」
「必要ない。父上もどうせ、誰が世話してもわからない」
「わかりました」
男が書斎に入ると、しばらくして、痩せた少女が入ってきた。
白いブラウスに制服のような紺色のスカート。化粧はほとんどしていない。
(しかたもわからないのだろう)。
「三鳥メイといいます」。深々と頭を下げた。
「父の蒼源は体調がすぐれないので、私が面談する。私は息子の雀源だ」
「はい」
「仕事は父の世話と家事だ。経験は浅いようだな」
「はい」
「年は幾つだ」
「18です」
「奉公には遅い年だな。最初の三か月は試用期間だ。問題がなければ採用する」
「はい」
何か説明しようとするメイを、不要だというように手でさえぎり、秘書に向かって言った。
「後は任せる」
秘書は頭を下げると、少女を連れてドアの向こうへ消えた。
(家政婦を雇い、父上のお気に入りの孔雀をものにすれば、財産も任せてもらえるだろう)
一人になると、深く息を吐いた。
(なかなか思い通りにならないが、あと少しだ。父よ、私に逆らうな)。
思い通りにならない、の言葉で、凍った鉄格子の向こうで目を見開いていた、骨と皮に痩せた男を思い出した。
すぐに死ぬと思っていたが、鳥にパン屑を分けてやる気力があったとは。
私のやり方が手ぬるいと言いたかったのか?
その鳥を捕まえてしめ殺したら絶望した顔をして、あれは気分がせいせいした。
あんなに楽しいことはなかった。
気に入らない人間をリンチして罪を問われないなんて、最高じゃないか。
冷たい土の下で永遠に私に土下座するがいい。
満足そうに笑った。