家政婦の依頼が届く
「仕事なんか、こない」と思っていた頃、家政婦の依頼が来た。
「今どき住み込みねえ」と、白鷺さんも困ったように独り言をつぶやいていたが、
勤務先の住所を見て、「勉強になるから行ってみなさい」と表情が変わった。
面接の日、白いブラウスに紺色のスカートで身支度を整えた。
「こういう家は見た目で判断するの。挨拶はきちんと、靴は玄関で揃えてね」
そして、「駅で降りてからずっと気を抜いちゃダメよ。この地区は上級国民たちの特別な住宅街だから」と念を押された。
「道を歩いていても監視されていると思ってね。ゴミを落としただけでも出入りできなくなるから」
手書きの地図と紹介状を持って駅から坂を上ると、途中、個人の家に警備員さんが立っていて驚いた。
それにどの家も大くて立派で、一軒一軒がまるで王国のように君臨していた。
家の周囲は洗練されているけど、人を寄せ付けない意思が強く感じられる。
この人たちは、どんな隣人なら親しくするのだろう。
メリットがある人? 選んだ人? その選び方は本当に正しい判断だったの?
しばらく歩いて、目印の大きな門を見つけた。
白鷺さんの言葉を思い出す。
「入る時は裏口にまわって、勝手口の呼び鈴を押すのよ」
正面から見上げると、屋敷全体に大きな獅子が横たわっているような怖さを感じる。
理由はわからない。
何かが、ものすごい執念で相手を追い詰めようとしている。
「帰りたい………」
その時、何かが空からふわり、ふわりと舞い降りてきた。
地面に落ちたのを拾うと、白い鳥の羽だった。
「鳥の羽が目の前に落ちていたら、それはその道が間違っていないという印だよ」
祖母の声が聞こえた気がした。
羽は大丈夫だと言っている。
目を閉じて大きく深呼吸してから、呼び鈴を押した。
「はじめまして、面接に来た家政婦です」