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愛の船  作者: 悠木 泉
8/9

月と星

 真夏の荒れ狂う激しさも影を潜め、秋の海は本来の穏やかさを取り戻している。お店のメニューも秋らしいものに変えようと思っている。きのこ類を使ったものは、どうかと試作中だ。

 そんな時、思いがけず星斗さんが訪ねてきた。2年振りだが相変わらずイケメンで格好良い。時々、近況は報告しているので、店の名前のいきさつも伝えてある。

 「ポーラースターって良い名前ですね。その意味も良いし、星斗から星の名にしてもらって嬉しいです。何か親しみを感じます」「有り難うございます。私の意図をすべて汲んでいただいて」「美月さんがお元気でよかったです」「星斗さんのお陰です。心から感謝しています」

「少しでもお役にたてて良かった」「星斗さんはお身体大丈夫ですか?」「全然大丈夫です」相変わらず、お穏やかな表情で言う。「もし、よろしかったら、私の作るランチを召し上がって頂けませんか?今日のメインはロールキャベツなんですけど」

「それはうれしいな。大好きなんですよ。ロールキャベツ」

 私は好きな人に手料理を食べてもらうのが夢だった。特に腕を奮って作る。地野菜を使ったサラダ、ロールキャベツには、フライドポテト、ほうれん草としめじのバター炒めを付け合わせにする。つぶつぶコーンのスープ。最後に豆からひいたコーヒー。

 目を輝かせて口に運ぶ星斗さんは、子供のようだ。

「美味しいです❕️栄養のバランスも、考えられてるし元気が出ます」「喜んで頂きとても嬉しいです」愛している人に、料理を振る舞えて、喜んでもらえるなんてとても幸せ。世の中の大抵の女性が、経験している事だと思うが、私にはおそらく、最初で最後の事だろう。私も一緒にコーヒーを飲む。星斗さんは「ご馳走さま」と綺麗に完食してくれた。「実は、今日こちらに来たのは、近いうちに海外に行くことになったので、ご

挨拶したくて」「では、夢が叶って子どもたちの支援に行かれるんですか?」「はい。やっと叶えられそうです」

「本当に、よかった」自分の、事のように嬉しくなる。「では、ひとつだけお願いがあります。外国に行く時は命の危険がある所には行かないで下さいね。絶対に行っちゃいやですよ」星斗さんは小さく頷きながら私の目を見て「よく分かりました。美月さんを心配させるような事はしませんから」と、言ってくれた。「約束ですよ」そう言いながら泣きそうになる。二度と彼に会えないかも知れない事と、無事を願う事で。

 「どこに行っても、美しい月は見られますから、その度に美月さんを思い出します」

私はとても嬉しくてまた、泣きそうになるが、必死にこらえて「私も北半球でしか見えないけれど、北極星を探して

星斗さんを思います」彼は嬉しそうに微笑んで「二人とも空にまつわる名前で良かったですね」と言う。「本当に。私も嬉しいです」「また、連絡します。お元気で」「星斗さんもどうかお元気で」

 私はそう言うのが、精一杯だった。新しい夢に向かって旅立つ彼に、涙を見せてはいけないと泣きたいのを我慢する。そして、丘を下って行く星斗さんが、小さくなるまで見送った。

 せめて、30代半ばまで若返っていたら、星斗さんの好みもあるだろうが、女として愛されるかも知れない。抱きしめてもらえるかも知れない。実年齢は29才でも見かけが49才ではやはり難しい。私自身も若いとは言えない姿を愛している人に見せたくはない。

 そして、何より30半ばに戻ったら、星斗さんの身に何が起こるか分からない。そんな危ない目には合わせられない。合わせてはいけない。

 だから、哀しいけれどこれでよかった、これで十分幸せ。

 



 

 







 


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