表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愛の船  作者: 悠木 泉
7/9

ポーラースター

新しい生活を始めようと、新しい気持ちで、この海辺の町にやってきた。小高い丘の上に建つカフェは、南欧風の解放的なつくりで、安らげる 店だ。眼下には海が広がっている。しかも、この海は星斗さんと来た思い出の海。それだけでも心が癒される。

 妙子さんの勧めもあり、調理師の資格をとり、カフェの

メニューも少しずつ増やしている。妙子さんのお母さんがされていた時は、ドリンク類とケーキ、ドーナツぐらいしかなかったので、食事がとれるものを置こうと思う。

 パンケーキをメインにしようかと検討中だ。こうして色々なメニューを考えたり、料理を作るのも楽しい。お客さんは、一日に数人なのでゆったり過ごせる。周りには、植物園、図書館、もう少し行けばスーパーやコンビニもあるので、生活するには支障はない。私は店の近くの妙子さんのお母さんが住まれていたマンションにいる。

 店をオープンする前に、妙子さんから店の名前を新しくしたいから、私に付けてほしいと言われた。色々考えた結果、「ポーラースター」にする。これは、北極星のことで、昔から大海原を往き来する船乗りたちの指針になっていた星。生きて行く上で道に迷った時、正しい方向に導いてくれる願いを込めて名付けた。それと、もう一つの理由は、星斗さんがご自分の名前を言った時に「スターの星に北斗七星の斗」と言われたから。北極星は見つけやすい北斗七星から探す星。何にしても星にまつわる名前にしたかった。

 私が「ポーラースター」を任されてから、2年が経っている。その間、星斗さんとは時々メール交換している。私が一番気になるのは、体調の事。何の問題もないとのことで安心している。彼も私のことを気に掛けてくれていて、お互いの近況報告も兼ねて連絡は続けている。妙子さんも、月2回程お店に来て、新メニューの試食をしたり、私の作ったランチを美味しいと食べてくれる。店のお客さんたちが笑顔で、帰られるのを見るのも楽しい。毎日元気で充実していて、とても幸せだ。

 ある日のこと。店の常連さんから突然、結婚を申し込まれた。小さいインテリア会社を経営されていて、10年程前に、奥さんを亡くされたと言う。私にとっては55才の、その人は順当なのだろうし、可もなく不可もない、ひとの良さそうな人ではある。

 「今日も綺麗ですね」とか「その洋服よく似合っています」から始まり、一つ咳をすれば「風邪ではないか」と顔色を見る。動こうとする度手を差し出す。これらを私に対する優しさと思っているらしい。確かにそうかも知れないが、私には嘘っぽく見える。 優しさには、二通りあると思う。一つは、耳に聞こえ目に見える優しさで誰にでも分かる。もう一つの優しさは、耳にとらえられない、目に映らない。外に出ないからなかなか気付かない。でも、後で気付く、あるいは悟る優しさ。心の奥にある、その人も気付いていないかも知れない優しさ。だからこそ、上辺だけの優しさではないから、こちらの心に響き、暖かい気持ちになれる。

 この事は星斗さんを見ていて気がついた。まず、彼は私に特に優しい言葉は掛けないし動作もしない。けれど、私を若返らせる為にエネルギーを与えてくれたし、今も淡々としているが、私を気使ってくれる。苦しい時や困っている時に、手を差し延べてくれるのが本当の優しさだと思う。だからこそ、私は星斗さんを愛している。たとえ、報われなくても。

 私に好意を持ち、プロポーズした、55才の人は、やはり好きには成れないし、ときめきとは無縁の人だ。姿は、49才でも本当は29才なのだからなおさら。もし、今も70才の姿であっても同じようにお断りするだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ