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愛の船  作者: 悠木 泉
4/9

秘策

 翌日、昼食を下げた後星斗さんがたずねた。

「美月さんは阪神大震災のとき、どうでしたか?」

「ああ、阪神大震災ですか。確か家の外壁、内壁に長い亀裂が入って、2階に上がる階段に隙間が出来ましたね。」

「そうですか。恐くなかったですか?」

「恐かったですよ。でも、皆無事でしたから。」

「それは良かった。僕が生まれる前の事なので知りたくて。いやな事を思い出させてすみません」

「でも、どうしてそんな事を聞かれたんですか?」

「昨夜テレビでその時の映像を見たので、聞いてみました」本当は27才の私も阪神大震災の時はまだ生まれていない。でも、70才なら知っているはずだから、母から聞いた事を思い出して言った。

彼は更に尋ねてくる。

「2020年の東京オリンピックは知っていますが、1回目の時はどんな様子ですか?金メダルは取れたんですか?」

確か1回目は1964年と聞いた事はあるけれど、私の両親も生まれていないから話も聞いていない。仕方なく、「昔の事で良く覚えていないの。ご免なさいね」と誤魔化すしかなかった。その時の映画があったらしいが私は見ていない。いつも通り星斗さんは穏やかな笑顔を残して出て行った。


 やはり何か変だと思っているようだ。頭の切れる人だから色々尋ねて、反応を見たのだろう。もし、真実が分かったらどうしよう。不安が募る。ひと月ほど前に妙子さんから聞いた、細胞を若返らせる秘策の事を思い出していた。実現出来ないなら聞かなかったも同じ。秘策の件は忘れようと思いつつ、実現出来ればどれだけ幸せかとも思う。今の私は秘策を聞いた時とはちがう。それは、星斗さんを好きになったから。あの時より更に若返りたくなっている。無理と分かっていても。毎日彼に会うのだから、少しでも若くなりたい、綺麗になりたい。当然の思いだ。しかし、その為には、秘策を実践する為には、若くて健康な男性の協力が必要なのだ。それも私の愛しているひとの。妙子さんは愛を感じている男性が一番効果が出るという。愛しているひとなどいなかったから実践は不可能と思っていたし、もし、いたとしても協力してはくれないだろう。ビジュアル的に星斗さんは私の理想の人だけれど、彼の人となりを知れば知るほど惹かれて行く。私の回りには、定職に就かず引きこもっている人、定職に就きたくても就けない人、仕方なく望まない仕事をしている人等がいる。それを思えば望む職業に就きその仕事に誇りさえ持って日々頑張っている彼はとても素敵だし、ある意味恵まれていると思う。勿論、そこには彼のたゆまない努力があっての事だけれど。しかも、現状に満足せず更に高みを目指そうとする姿勢は、本当に素晴らしい。夢を叶えるにしても、目標を達成するにしても、勉強と努力、叶えようとする強い意思が必要だと思う。それを実現しようとしている星斗さんに強く惹かれてしまったのだ。

 

 妙子さんに教えられた、細胞を若返らせる秘策の詳しい内容は、愛している若く健康な男性と接すること。接すると言っても色々だが、単に話したり、お茶したり、食事したりするだけでも効果はあるとのこと。少しずつでも若くなるという。しかし、大きな問題点がある。私がどんどん若くなれば、男性はおじいさんになってしまい、身体を病みやがては死に至るかも知れない。男性の若さやエネルギーを私が自分のそれに替えて行くから。これが秘策の一番恐ろしい点なのだ。そんな危険まで犯して力を貸してくれる人がいるだろうか。恋人であっても難しいと思う。それより、まず、危険な事をさせるのに人に頼めるだろうか。ましてや、自分の愛する人なら尚更。やはり、土台無理で無茶な話だ。もう、なかったこと、聞かなかったことにするしかない。

そう思いながら、病室の大きな窓から無限に広がる青空を見ていた。5月のどこまでも澄んだ青空を。

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