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第54話 王女との対話1

「怪物討伐の戦果は耳に入っております」

 王女から放たれる霊気(オーラ)は魔力ではなく、きっと()()()()()()だった。

 望んで身につけることは難しい、選ばれた者にだけ与えられる“格式(クラス)”。


「冒険者カイル・ノエ、そして彼と契約せし竜の精」

 名を呼ばれて全身に緊張が走った。

「あなたたちのおかげで多くの命が救われたことでしょう。民を統べる王族の一員として、心より感謝いたします」

 王女はわずかにあごを引いて会釈をする。

 

「いえ……光栄です」

 気づけば頭が下がっていて、擦り切れた床の絨毯が目に入った。

 絡み合う枝葉紋様の上に膝をつくべきなのか思案する。

 山奥で育った田舎者は、礼儀作法なんて学んだことがない。

 

 迷っていると王女が俺たちを向かいのソファに促した。




□□□




 供された茶は甘くて舌に優しかった。

 居心地の悪さは少しずつ、けれど確実に拭われていって。

 今まで目にしてきた屋敷の荒廃が、まるで住人の()()に過ぎなかったように思えてくる。


 俺たちはソファーに座ると、勧められるままに茶を飲み菓子を食んだ。

 イアはすっかりくつろいだ様子で、食器を拙く使いケーキを口に運んでいる。

 

「可愛らしいですね」

 そんな竜精(ドランシー)を王女は微笑ましそうに見守っていた。

「えへへ~」

 イアも王女に好意を抱いて……というより、美味しいものを食べさせてくれるなら誰でも好きになるんじゃないか。




「そちらはディーネさん、でしたね」

 王女に視線を向けられると、俺の隣のディーネが緊張に強ばる。

 喉が小さく震えて、返事することもままならない様子で。

 

「はい。とても頼りになる、天才魔法使いです」

 彼女のかわりに、俺が胸を張って紹介する。


「ちょっと……」

 ディーネは驚いて、恥ずかしそうに俯いてしまうけど。

「本当のことだから」

 俺は心からそう思っている。

 

 王女はどう受け止めたのか、目元を緩めてくすりと笑う。

「英雄にはやはり、ふさわしいお相手(パートナー)がおられるのですね」

 宝石のようにちらちら瞬く瞳に、特別な意図は感じられない。


 ……。

 空間にぽっかり穴が開いたような沈黙の後。

「違いますっ!」

 ディーネがものすごい勢いで否定した。

 

 四肢を操り人形(マリオネット)みたいにじたばたさせて、俺との関係を説明する姿は面白い(し可愛い)けど。

 そこまで全力で否定されると何だかなぁ……泣いてもいいかな。

 

「す、すみません、私てっきり……勘違いしてしまって」

 ディーネの勢いに気圧されて、今度は王女のほうが背筋を強張らせていた。

「あれ……だってフィルはたしかに……」

 口の中でぶつぶつ何かつぶやいていたけれど。

 

 こほん、と一息して姿勢を正す。

 どんな状況でも気品あるたたずまいを忘れないところは実に王族らしい。

「失礼いたしましたディーネさん。高位の魔法を操る、優れた魔法使いだと聞いております。同行していただきうれしく思います」

 

「こ、こちらこそ……」

 ディーネも我に返って、体を小さくして挨拶を返す。

 ふつふつと真っ赤に染まる横顔を、やっぱりとてもきれいだと思う。




「そしてファーガスさん」

 ディーネの美しいところを数え上げようとしたところで、王女はファーガスに向いた。

「目の前にすると凄い迫力です。仲間を守る“盾”にふさわしいですね」

 

「光栄です、王女殿下」

 王女の誉れにもファーガスはいつもと変わらない。

 無骨だけれど、礼を失することもない。

 

 返事を受けた後も王女はファーガスを見つめていた。

 俺やディーネに向けるような臣下への視線とは違って。


 ……。

 何かを期待しているような目。

 それとも、子どもが親に向けるような()()だろうか。


「……」

「……」

 王女は目元を赤らめて長い髪を指先にくるくる絡めて。

 ファーガスは王女を前に言葉を慎んでいて。

 

 なんだろう、これ。

 互いに何も言わずただ見つめ合っている。


 王女の方はどうも、ファーガスに何か言って欲しいようで。

 ファーガスの方は全く何も言葉を持っていないようで。

 初対面のはずなのに既にすれ違っている。

 俺にはそう見えた。




「それでは王女、“依頼”について詳しく話していただきたい」

 ついにファーガスが口を開くと、アイリーン王女の瞳がしゅんとすぼまった。

 ほんの一瞬頬も膨らんだように見えたけど、瞬きよりも早く元に戻って。

 

「分かりました」

 諦めたように息をついて、王女は話し始めた。

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