表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/164

第48話 それから

 二頭立ての馬車はあまり座り心地よくなかったけど、イアは窓に身を乗り出して楽しそうに外を眺めていた。

 曇り空の下で鳥は低く飛んで、これから雨を降らせるかどうか、雲との間でせめぎ合っているみたいだった。


 隣に座るディーネはどことなく浮かない顔をして、やはり不安なのだろう。

 無理もないと思う。

 “話”を聞くとディーネは「絶対に裏がある」と言ったし、俺も同感だったけど。

 狙ったように訪れたきっかけは、運命のようにも思えたんだ。


 物事には“流れ”がある。

 まさにそのとおりじゃないか。




□□□




 “蛇の王(ミルディーン)”を仕留めたあと、目覚めるまでには七日を要した。

 命を懸けて仲間を守ったファーガスも倒れ、回復途中のディーネも状態は良くなく、救援部隊によって俺たちは街の療養所へと運び込まれた。

 その間に怪物討伐の話が街中に広まり、俺たちの下にはたくさんの見舞いや感謝の声が届いた。

 

「街の偉い人たちがいっぱい訪ねて来てね、ロンゴードを救った“英雄”だってみんな言ってた」

 そう言って、ディーネは皿に盛った果物を俺の口に運ぶ。

 綺麗な指に見とれつつ、俺はありがたく食べさせてもらった。


「当然だよ、イアたち凄いがんばったもん!」

 イアの口周りが菓子くずで汚れていた。

 目覚めたとき、療養所の部屋は各地から届いた贈り物(プレゼント)でいっぱいで。

 イアにもたくさんの届け物があった。

 

 共闘した者たちを通してか、イアが竜精(ドランシー)であることが知られていた。

 その事実は驚きをもって迎えられ、イアを目当てに訪ねて来る人も多かったらしい。

 幸いディーネが分別をきかせて、今は宿主が目覚めるのを待っているから、と丁寧にお引き取り願ってくれた。


「みんなイアのこと、凄い可愛い格好いいって言ってくれる!」

 療養所の職員や患者たちはイアを可愛がってくれて、ちやほやされてご機嫌そうだ。

 そんな竜精を横目に、ここは慎重にならなければと思う。


 大いなる“力”には相応の代償(リスク)が伴う。

 竜精の力は眷属討伐によって衆知された。

 "人類の脅威”に抗しうる力は当然、大きな関心を惹くだろう。


 目覚めてからは俺も見舞客に面会していたけど、様々な冒険者一団(パーティ)に加えて街の有力者や魔術師協会のお偉方なんかも交じっていた。

 俺たちの戦果を讃えるとともに、彼らはそろって竜精の素晴らしさを口にするもので。

 みんなイアに興味津々だった。




「……まあ、心配よね」

 ディーネは視線を落として胸に手を当てる。

 内には、彼女から分かたれた精霊エリィが眠っていた。

 

 生まれたばかりでまだ実体化が安定しない様子だけど。

 ディーネはエリィを我が子のように可愛がっていて、イアを心配する俺の気持ちがよく分かるみたいだ。

 

「あなたも気をつけないとね、カイル」

 ディーネは真剣な表情をして。

「俺が?」

 よく分からないでいると、呆れ顔で説明してくれた。


「当然でしょ。あなたは大蛇討伐の“英雄”なんだから。組合(ギルド)や冒険者たちはもちろん、領主や貴族とかから()()がかかるかもしれない。実際お使いの人が訪ねて来たし……騒がしくなりそう」

「そういうもんかな……」

「そうよ。当然善い人たちばかりじゃない……っていうか、みんな腹に()()抱えてるだろうから、慎重に行動しないと」

 

「うーん」

 何とも言えない気分だ。

 もちろん冒険者として名を上げて剣で身を立てるのは夢だったけど。


 仲間とともに“神”に挑み、そして倒した。

 短期間での激流のような展開に実感が追いつかない。


「面倒事は避けたいな。俺には──俺たちには目的があるから」

 イアの願いを叶える。

 この世界のどこかにある理想郷──“安らぎの地(ティルナノグ)”を見つけて竜たちを導く。

 その条件を呑んだからこそイアは俺と一緒にいてくれるのだから。


 けれど今のところ手がかりらしい手がかりは見つかっていない。

 ロンゴードには頭が痛くなるくらいに有象無象の情報が飛び交っていたけど、そのほとんどは中身のない噂話に過ぎなかった。

 結果的に眷属(トゥハナ)を見つけ討伐に成功したとはいえ、それはそれ。

 むしろ眷属が目覚めてしまった以上、探索を急ぐ必要がある。


 なんとなく、このままロンゴードにいてもこれ以上の手がかりは見つからない気がしていた。

「そろそろ動くころかな」

「目星はついてるの?」

 ディーネに聞かれて、いくつか考えていたことを話した。




 真っ先に浮かんだのは“北の遺跡”。

 ファーガスが仲間とともに向かい、そして恋人を失った場所。

 聞いた通りであればそこには別の眷属がいるかもしれないし、太古の遺物が残っている可能性もある。


 他には“王都”。

 領主たちを束ねる“王”が君臨する、大陸最大の都市。

 全土の富は王都に集まるというくらいだから、単純な情報量ではロンゴード以上だろう。

 けれど結局、一介の冒険者が得られる情報など頼りないものばかりな気がして。

 

 やっぱり“北”に向かうべきだろうか?

 ……それとも、気は進まないけど“西”に行ってみるか?


「ファーガスさんなら色々なところに行ってるだろうし、もっと話を聞いてみない?」

 ディーネの言葉にはっとする。

「確かに」

 

 どうして最初に考えつかなかったんだろう。

 ファーガスは俺よりはるかに経歴(キャリア)の長い冒険者。

 北の遺跡以外にも大陸各地を巡っているかもしれない。

 出会ってから今までが目まぐるしくてなかなか機会がなかったけど、冒険譚をぜひとも聞いてみたい。

 

 ファーガスは療養所の別棟で休んでいる。

 俺と同様──いや、それ以上に力を出し尽くしたはずなのに、起き上がるのは俺より早かったようで。

 改めてその頑強さに恐れ入る。




「私の話をしていたかな」

 ちょうどその時部屋の戸が軽くノックされて。

 扉の隙間から、巨体がぬっと現れた。

第四章開始です。

しばらくはゆっくり更新になります。

改稿が一段落したらペースが早まるかもしれません。

よろしくお願いします。


「面白かった」「続きが気になる」など思ってもらえたら、

下にある評価やいいねを入れていただけると嬉しいです。

ブックマークなどもよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ