第35話 異形の巫女
シャッとつき出された触手をかい潜る。
触手にかけられた魔力は禍々しいものの、動きは十分対処できる。
ファーガスとディーネの援護を受けると全く不安がない。
盾の威圧が敵の動きを鈍らせ、放たれる魔法が敵の動きを制限する。
二人のおかげで俺は自由に動き回れる。
「はっ!」
五人の巫女が次々と繰り出す触手を切り落とす。
感触は……気持ち悪い。
おまけに黒ずんだ血が噴きだして剣を染める。
フシュと噴きだす吐息とともに触手が切断面から再生する。
やはり眷属の巫女、もはや“人”には収まらないのだろう。
けれどこの程度ならイアに力をもらうまでもない。
ファーガスが盾を叩きつけるのを合図に前に飛んだ。
一番端の巫女から一息に全員の首を刎ねて──
「……あれ?」
シュゥゥっと音が聞こえて。
剣が通っていない。
巫女の首にわずかな線を入れただけで、刃が留められている。
「カイル!」
ディーネの声がなかったら、巫女の口から放たれた液体が体に降りかかっていた。
巫女の体を蹴り後ろに飛んで距離をとる。
「何だ──」
剣を見て驚く。
刃の表面についた血がふつふつと泡立って瘴気が上がっている。
「腐食……いや、“呪い”か?」
粘液のようなそれは容易には拭えそうにない。
「我らの神に仇なす者よ──」
巫女たちの背後に次々と円陣が現われて。
「“矢”が来る!」
ディーネが素早く術式を見抜いて警告する。
「──去ね!」
円陣から無数の魔法矢が射出された。
“狙い”はなく、前方の空間を隙間なく射抜くつもりだ。
「くそっ!」
なまくらにされた剣では矢を切り落とせない。
力任せに魔法の矢を捌くけど腕への負担が大きい。
おまけに呪いのせいか“炎”が上手く出せない。
「“第五階”《火球──制圧爆撃》!」
詠唱とともにディーネが多数の炎球を撃ち出す。
魔法矢にあたると爆発して粉々に破壊するけれど。
放たれる矢はあまりに多くて、火球の隙間をぬって体を掠める。
このままだといつか蜂の巣にされてしまう。
「私に向け──」
ファーガスが言い放ち、盾を地面に叩きつけた。
「“盾技”──《格好の的》」
目を疑う。
空中に射出された矢が、途中で軌道を変えてファーガスに向かう。
「ぬうぅぅ!」
巨大で分厚い盾に膨大な矢の雨が襲いかかった。
施された魔術強化によってか精霊の加護か、盾はその全てを受けてヒビすら入らない。
それでも耐え難いほどの衝撃に見舞われているはずだ。
けれど俺とディーネへの圧は弱まった。
今しかない。
「ディーネ、火をくれ!」
「──!」
ディーネが素早く詠唱してエンチャントの炎を放つ。
息はぴったりだ。
放たれた火球を剣で受ける。
内の炎が封じられているなら外から炎を被せるまで。
呪いが反応してそれを打ち消そうとするけど──
「遅い!」
炎が掻き消える前に巫女たちに肉薄する。
触手が伸び。
「──ガ!?」
斬る。
刃が首を捉え。
「おおおぉ!」
燃やす。
爛れた皮膚の再生を許さず──炎の剣で巫女たちの首を燃やし斬る!
──
黒い鮮血をあげて宙に舞う五つの頭を、向こうから昇った陽が照らした。
まるで絶命する巫女たちを祝福するみたいに。
□□□
「カイル、大丈夫!?」
後ろからディーネの声がして、無事のしるしに腕を上げた。
心配なのはファーガスの方……と思ったけど。
「二人とも素晴らしかった」
盾を下ろして見える表情はぴんぴんしている。
「はは……」
乾いた笑いがこぼれた。
今までいろんな“盾”を見てきたけど、こんなに頑丈な人はいなかった。
受けた矢の量、街の壁が崩れてもおかしくなかったと思うんだけど。
「カイル、くるくる回ったねぇ!」
イアが体から出てくる。
「ああ……めまいがする」
巫女五人の首を切り落とすのに体を相当に捻った。
“旋風斬り”とでも名づけようか。
繰り返すと腰が痛くなりそうだ。
「問題がないならば先に行こう。きっとそこに、眷属がいる」
ファーガスが盾を背負い参道の先に目を向ける
「そのことですけど……」
「ああ」
ファーガスが俺に向いて何か言いかけたとき──
ギ
──音がして。
「え」
目の端に映る倒れた巫女の体。
その腕がまだ動いていて。
正面を向いていた。
「ギ」
触手化した腕からどす黒く渦を巻く光線が放たれた。
狙ったのかはわからないけど、向かう先にはディーネがいて。
「──」
そのときの全員がそのときにできる最善最速の行動をとった。
俺は剣を振り、ファーガスは槍を突きだし、ディーネは体をひねりながら魔法を放った。
三人の行動が巫女の光線をわずかずつ削いだ。
──それでも、その全てを削りきることはできなくて。
「……あ」
光線がディーネの胸を貫いた。
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