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第33話 盾の精霊

 山も中腹を過ぎると徐々に霧が晴れて、森の様相も薄まって岩がちな平地が目立つようになる。

 太古から信仰を受けている山の地面に荒れた参道が伸びていた。


「変な場所だな」

 霧深い森よりもはるかに視界は開けているはずなのに、緩やかな上り坂の向こうを見通すことができない。

 結界でも張られているかのように曖昧でぼやけている。



 坂に入る手前の岩壁の陰で休息をとった。

 ディーネが“休息結界(セーフエリア)”を張る。

 内に広がる守護のオーラは前回よりもさらに強固になっていた。

 

「“禁足区域”には入るなって、言ってたよね」

 監視小屋のおっさんたちの言葉。

 冒険者への嫌悪だけに留まらない忠告にも聞こえる。

「……考えてみたらロンゴードで冒険者になってから、この山にはほとんど入らなかったかも」


「確かに、魔物が出没するにもかかわらず依頼(クエスト)は周辺のものにとどまっていたな」

 ファーガスが同意し思案するように目を閉じた。

「……何か知らないか?」

 問いかけているのはおそらく、内に潜む精霊。

 

 ややあって、ファーガスの背中から()()がのっそり這い出てきた。

 はじめは背後の岩壁が迫って来たのかと錯覚した。

 石のように見えたそれは、目を凝らすと黒光りしていて。

 

「鉄?」

 言うとファーガスは頷き、精霊も肯定するように震えた。

「クローガン……石と岩、そして鉄の精霊だ」



 

□□□



 

「ここには“霊脈(レイライン)”がある」

 ファーガスに似た低く重い声で精霊は言った。

「複数の“川”が混じり合って強い力場が生じている。そいつが感じたのもそれだ」

 クローガンがイアを見る。

 “岩の塊”が動くと、イアは怯えて俺の後ろに隠れた。


「優しい奴だ、大丈夫だよ」

「うう……」

 ファーガスに言われてイアはおそるおそる顔を出すけど、岩の姿が怖いのか俺の体を離そうとしない。

 

 こぶし大から頭ぐらいの大きさの岩が幾重にも積み重なって、どうにか人型と分かる形をとっている。

 イアのように()()()()ならないのは、本人にその気がないからだろうか。



「霊脈のことはわかるよな」

 胡坐をかいて座る姿はファーガスに瓜二つ。

 精霊は人に似る、ということだろうか?


「強い魔力が流れている場所、だったかな」

 俺は魔術関係には疎くて持っている知識も頼りない。

「魔力以前にある、()()()()()()()()()()()()だ」

 クローガンは言って、石の指を俺に向ける。


「その力がひとところに集って作られた“場”が霊脈だ。この山と湖にはそれがある」

 意識しているにせよそうでないにせよ、生物には力のある“場”を鋭敏に感じ取る本能がある。

 その本能が人びとを山から遠ざけさせるのだという。


「霊脈のある場所には何があるんだ?」

 尋ねると、クローガンはまた岩の体を()()()()鳴らす。

「“何か”がある。善なるもの、悪なるもの……性質は問わない。確かなのはそれがなんらかの“神性”を持つ、力あるものだということだ」

 

 “神性”。

 神の分け身である眷属(トゥハナ)ならば当然持っている力。

 それはつまり──

「お前さんが持っているものさ」

 再びイアを向いて、クローガンは言った。




□□□




 俺はファーガスたちにもイアのことを説明し、その流れで先日の迷宮(ダンジョン)での出来事も話した。

 ファーガスは終始静かに耳を傾け、話し終わると一言、「なるほど」と言った。

「隠していてすみません」

 平謝りするしかない。

 ファーガスは首を振って、その顔は隣の相棒に向けられた。


「お前は初めから分かっていたんだな」

 横目を向けられても、クローガンは()()と構えて動じる様子もない。

「いつものことだろう。お前が聞かないから俺も言わない」

「まったく」


 ともに大きな体格で()()()のように隣り合って座っている。

 やっぱりよく似てるなぁ。

 姿かたちも雰囲気も、おそらくは性格も。

 

 足もとではイアが俺の膝でうつらうつらしている。

 ……似ているだろうか、彼女と俺は。


「ならばここに、眷属がいるか」

 ファーガスの声にはっとする。

 “盾”の瞳が鈍く光っている。

「彼らの言葉の通りなら、これから目覚めるのだろう」

 クローガンが答えた。

 

 その一瞬二人の間に何かが通っていた。

 歴戦の冒険者と相棒の精霊が抱える、“何か”が。




□□□

 



 しばらく周辺を探索した後でまた岩壁に戻って、一晩休むことにした。

「吹きさらしだなぁ……」

 夜が近づくにつれ寒さが増していく。

 山の天気は不安定だし、適当な洞穴があると良いのだけど……。


「造ろう」

 クローガンが言って両腕を左右に伸ばした。

 え、と振り返ると──

 ()()()()()()()

 正確には、“岩を繋いで作った空間”が。


「はえ~」

「しゅっごい……」

 呆気にとられる俺とイアをしり目に、ファーガスとクローガンは石室を細かく整え、ディーネは石を並べて炉を作り火を熾す。

 つい最近まで一緒に活動していたからだろう、二人の呼吸はぴったりだ。


 てきぱきと野営準備を整える仲間たちの傍で、俺たち無能コンビはみんなの荷物を石室の中に持って入るのだった。



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