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第31話 探索調査

 (イアが)ひとしきり遊んで、また飛馬(ヒッパー)に乗った。

「たのしかった~!」

「まったく……」

 イアは服のまま水に全身浸かってずぶぬれになり、乾くまで時間がかかってしまった。


「私も水着、用意しておけばよかったな」

 心から水浴を楽しんだイアを見て、ぽつりとディーネがもらす。

 その一瞬、俺の脳内を駆け抜けた妄想── 

 

「カイル、早く行こう?」

「あ、ああ」

 イアに言われて変な声が出る。

 ディーネの方は不思議そうに俺を見ていて。

 ……とても綺麗だと思う。


 本人は認めないだろうけどケルマトは彼女にご執心のようだった。

 その気持ちはよく分かる。


 

 

□□□



 

 日が落ちるまでの間俺たちは湖の北側を中心に走った。

 まずは前回訪れた迷宮(ダンジョン)の近辺を重点的に調べたかった。


 飛馬で駆けまわって気になった場所でディーネが“探知(サーチ)”をし、何かひっかかれば向かってみる。

 平原と小高い丘の合間に小さな林が散在していて、いかにも魔物(モンスター)の巣がありそうだったけど、迷宮攻略の影響かその姿は見えない。

 

「うーん、におわないなぁ」

 イアは犬のように鼻をひくひくさせる。

 “マユ”に眠っているのが本当に眷属(トゥハナ)であるなら、同じ眷属たる竜から生まれたイアにはその気配が分かる、とのこと。

 けれど今のところ引っかかる様子はない。


「その子は鼻が利くのかな」

 ファーガスが面白そうにイアを眺めている。

「はい、魔物の気配をよくつかんでくれるので」

 精度には正直疑問があるけど。


 

 頼りないイアの鼻と対照的に、ディーネの“探知(サーチ)”には目を見張った。

 使っていたのは“第五階(サンキエム)”の中級魔法で、ただでさえ広かった探知範囲がさらに拡がり細かなモノの音や気配を微細につかむことができる。

 魔法の拡散しやすい開けた空間であっても問題なく、ディーネは正確に周囲の状況を把握して情報を伝えてくれた。

 

「本当に成長したな」

 そんなディーネにファーガスは感心を隠さない。

「以前と比べて力が抜けている。自信を持って魔法を行使できているのだろう」

 その視線はまるでのように優しい。


「嬉しそうですね」

 言うと、ファーガスはゆっくり大きくうなずく。

「才あるものがその才をいかんなく発揮する。喜ばしいことだ」

 さもそれらしく答えるけど……本当にそうなのだろうか?

 彼のディーネに対する態度にはどこか特別なものを感じる。



 ……なんとなく。

「ディーネの中にいる精霊のことご存じですか?」

 俺はそう口に出していた。

「ああ。正体も分からない()()()()()()()()が宿っていると、いつだったか聞いたことがあるよ」

 ファーガスは動じなかった。


 数秒視線を交錯させても黒い瞳は揺らがない。

 “鉄壁の盾”のように。

「気になるかな?」

「いえ……」

 “盾”に阻まれ言葉は俺に返ってくる。

 

「ディーネの才能や力に精霊が関係しているのかなと思って」

「当然の疑問だ。いずれ、明らかになることを願う」

 ファーガスはまたゆっくりとうなずいて。

「その時こそ彼女の才能が真に開花するのではないかと、私は思うよ」




□□□




 この日はめぼしい成果もなく、俺たちは近隣の村で宿をとった。

 泊まれたのは部屋というより家畜小屋みたいな場所だったけど、屋根があるだけましだ。

 この先野宿が続くかもしれないし屋内で体を休めておきたい。


 火を焚いて鍋を煮る。

 探索中に狩った小動物を捌いて肉を焼き、簡単なスープと合わせて夕食にした。

 食べるだけ食べるとイアはたちまち眠ってしまった。

 ……今日は本当に遊んで食って終わったな。

 


「なんか安心した。ちゃんと“第四階(カトリエム)”以上の魔法が使えて」

 細い木板でスープを混ぜながらディーネは言った。

「詠唱して普通に魔法が発現してるの、自分で驚いちゃった」


 ディーネは回復してから今日までの間、自主的に魔法の訓練を行っていた。

 冒険者組合(ギルド)が提供する訓練場があり、そこで彼女が魔法を唱えると周囲から驚きの声があがったという。

「人を珍獣みたいに……失礼しちゃう」

 文句を言いつつも表情はにこやかだ。


 今のところ自在に詠唱できるのは中級階梯である“第六階(シジエム)”まで。

 それ以上の魔法は術式の複雑さがけた違いに増して、まだてこずっているらしい。


「ディーネならすぐものにするさ」

 本気でそう思う。

 今でも呪術祭司(ドルード)相手に見事な魔法を放った、彼女の姿が目に焼きついている。

 俺はきっと、大陸でも指折りの魔法使いに出会ったのだ。


「頑張らないと。そうでなきゃ()()()()()()から……」

 自分に言いきかせるみたいにディーネはつぶやいた。

「追いつくって──」

「あ、ああ……カイルにね」

 

 ファーガスと違ってディーネは分かりやすい。

 隠しごとがすぐ顔に出る。

「仲間として恥ずかしくない魔法使いに早くならなきゃって」

「そんな」

 とてもうれしいけど、どうも“目標”は他にあるみたいだ。


「私も君の剣技をこの目で見てみたい」

 ファーガスは一口で肉を平らげてスープをかきこんでいた。

「強いですよ、カイルは。ファーガスさんでも負けちゃうかも」

「ほう」

 ディーネが言うと、ファーガスの目が一瞬光った。

 ……凄い迫力だった。



 

 夜が更けていく。

 湖には人気がなくなり、西に広がる森はまっ黒な闇に沈んでいた。


 

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