第19話 ダンジョン攻略・休息
第1階層の探索は問題なく終わり、相応に収穫も少なかった。
うねうねした道を下り、第2階層に入る。
変化といえば魔物の“たまり場”が増えている程度で、小鬼の外にも大蜘蛛や洞窟鼠などの魔物に遭遇した。
問題もなく進んでいって、潰したたまり場で休息した。
「《第二階》“休息結界”」
詠唱すると、透明な緑の光が周囲に展開される。
迷宮内での“休息”には大きく分けて二種類ある。
行動を止めるだけの“小休止”と、睡眠を含むやや長めの“休憩”。
どちらの場合でも、魔物が近づくのを避けるため結界を張る。
“結界石”を使うこともあるけれど、支援魔法“休息結界”の方がより効果は確実。
「ふぅ~」
イアが大きく伸びをしてカイルの傍に寝転んで、携帯食をはむはむ口に含む。
精霊は一般的に食事を必要としないけれど、人間の食べ物を好むものは多い。
……それにしても、子どもの世話をしてるみたい。
それとも、ペットにエサをやってるみたいな。
しばらくは食事をしたり道具の手入れをしたり静かに過ごす。
カイルは剣についた血と脂を拭って装備の金具を締め直し、取得物の整理をしていた。
迷宮攻略中は誰でも頭が沸くもので、どうしてこんなものを拾ったのかと後で不思議に思うこともしばしば。
鞄からは怪しい置物が次々と出てきて、貯めぐせでもあるの?
「優しい光だ」
私の結界を見て、カイルは言った。
「こんなに綺麗な結界を張れる魔法使いは、そうはいない」
直球で褒められると、体がもじもじしてしまう。
「おねえちゃんのおかげで、今日はとっても“すむーず”だね!」
「まったくな。ありがとう、ディーネ」
二人に言われると顔を上げていられなくて、とんがり帽子で顔を隠す。
こんな素直な感謝もらうの、久しぶり。
「……正直驚いてる」
ロッドを指でいじりながら私は言った。
「あなたみたいな人が無名のままでいたなんて」
私は照明の確保と周囲の警戒・探知に終始して、戦闘の全てはカイルが担った。
低階層の魔物相手なら私だって……なんて考えは早々に消え去った。
戦闘において私の出番なんてなかった。
「ずっと“西”で活動してたから。“西”の魔物は手強いし、冒険者たちも優れていたよ」
カイルの声には、遠い昔を思い出すような響きがあった。
「でも大陸は広い。きっとここにもすごい人たちがいるんだろうな……君みたいに」
「私は──」
そんなことない、なんて答えられない。
たしかに、“使える魔法”なら他の誰よりもうまくできると思っている。
今まで使ってきた支援魔法で、私より的確かつ広範囲に展開できる人を見たことはない。
戦闘魔法だって、理論上の最高攻撃値を安定して出せる。
そう、私は優秀なのだ。
……“低級”の中では、間違いなく。
カイルは私に信頼の視線を向けている。
本当に人が良いんだろう。
彼に、失望されたくない。
「ディーネは今、特定の団に入ってる?」
そう問われて、言葉に詰まる。
「もし空いているなら、一緒にやってかないかって……」
団を追い出されたときのことが脳裏を過る。
どうせまた捨てられるって、考えてしまう。
今のところお互い個人的なことには踏み込んでいない。
あくまで臨時の協力だし、カイルの求める情報だけを渡して、それで間に合っている。
見ず知らずの冒険者同士、必要以上には踏み込まないのが慣例。
けれど仲間としてやっていくなら、“それ以上”を知られることになるだろう。
私が“第四階”以上の魔法を使えないことも。
普通の精霊と契約できないことも。
「カイル、“ぷろぽーず”してるの?」
イアがにっこり笑顔で言った。
「意味分かってるかぁ?」
「ふわぁ~」
カイルがイアの頬を引っ張ると、すご~く伸びる。
魔法の触媒液くらい伸びる。
思わずくすっとして、沈んだ気分まで伸びきってぶっつり消えてしまった。
□□□
──また入ってきた。
まったく、懲りない連中。
時間を変え場所を変えても、いつでもどこでも奴らはやってくる。
“我が家”に土足で踏み込んで、可愛い子供たちをなぶり、命を奪い、宝物を奪っていく。
度し難し。
ここは“かのお方”より預かりし聖地。
お前らが触れていいものなど何一つない!
しかし……今回は何か違う。
いつもとは異なる匂いがする。
ああ、おいしそう。
膨大な魔力と、力強い波動。
そばには──“神”がおられる。
欲しい!
欲しい!
欲しい!
開こうか?
いつ開こうか?
開いてしまうか?
もう少し。
あと少し。
我慢、我慢。
「面白かった」「続きが気になる」など思ってもらえたら、
下にある評価やいいねを入れていただけると嬉しいです。
ブックマークなどもよろしくお願いします!




