第17話 ダンジョン攻略・探索
「迷宮」って何?
明確な定義は今でも定まっていない。
迷宮はあるとき現われる。
予兆があることも、ないこともある。
特定の魔物種の住処(巣)であることも、そうでないこともある。
“誰”が迷宮を造るの?
分からない。
確かなのは迷宮というかたちがあること。
創造者は大地の神だとも、地下に眠る邪悪な魔物だとも言われているけれど、誰もその姿を見たことはない。
おおかたの迷宮にはいくつか共通点がある。
1.魔物が徘徊していること。
2.宝物が置かれていること。
3.崩壊に繋がる何らかの鍵があること。
1と2が、冒険者たちがこぞって探索する理由。
魔物を倒してお宝を手に入れて、日銭を稼ぐのだ。
けれど迷宮“攻略”にとって重要なのは3。
ギルドに依頼され、冒険者に掲示される“仕事”の多くは迷宮の“制圧”。
そのためには鍵を見つけなければならない。
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「前回受けた仕事だと、王を討伐することだったな。そういうのが分かりやすくて一番いい」
「洞窟がいきなりくずれだして、イアたち危なかったんだよ!」
話しながら、湿気臭い土の道を歩いていく。
私は前後に光の球を作って道を照らしていた。
携帯灯よりもはるかに効率よく辺りを照らせる、初級魔法。
これができないなら魔法使いになるのはすっぱりあきらめろっていう、才能の指標となる魔法だ。
「魔力の光があると安心するよ」
「ぴかぴかだね!」
カイルとイアが実に楽しそうに言った。
本当に遠足みたい。
ちょっと疑問に思ったので。
「一応聞いておくけど、まったくの初心者ってわけじゃないんでしょ?」
「ああ……以前は仲間もいたんだけどね。いろいろあって一人になった」
少し答えにくそうに、カイルは首を振った。
……私と同じなのかな。
といっても、彼のおかげで私はいま一人じゃないけれど。
「イアと契約して自信がついたら調子に乗っちゃってね。一人でやってやるって意気込んだんだけど、結果はまあ、大変だった」
「……」
お馬鹿さんなのかな?
「一人になって改めて仲間の大切さを実感した。だから一緒に仕事をする冒険者を探したんだけど、やっぱり街に来たばかりの駆け出しは相手にしてもらえなくて」
そりゃそうでしょうね。
私だって、あんな状況でなかったらどうしてたか。
どうにか見つけたのが、魔法使いの私一人だったのだろう。
探索には治療師が欲しいところだけど、いろんな方面で引っ張りだこだから確保自体が難しい。
地上で情報交換した一団はかなり理想に近い編成だった。
……もちろん、いつまで仲が続くかは分からないけれど。
迷宮は石壁で土の露出した洞窟型。
もっとも原始的かつ初歩的な形式で、統計的に生息する魔物は弱くて、達成難度も低い。
大量に発生するのが難点で、かつては土地の領主の私兵が制圧にあたっていたようだけど、あんまりにも数多く現われるのでついにギルドに丸投げするようになったんだとか。
冒険者にとっては食い扶持が増えていいんだけどね。
一定の距離を歩くごとに私は探知魔法を使って周囲を警戒する。
「……背後は大丈夫ね。向こうに分かれ道……たぶん右のが魔物のたまり場につながってる。左側が先でまた分かれてるけど……貯蔵庫がありそう」
一流の偵察技能にはとても及ばないけれど、一定範囲内の細かな音や空気の流れを読み取れる、初級の中でも重要な魔法だ。
「おねえちゃんすごい!」
イアに言われるとうれしい。
もっとほめてくれていいのよ?
「カイルはすごいてきとーだったのに!」
「何言ってんだ。むしろお前と契約してからてきとーになったんだよ」
「なにをー!」
また目の前で戯れだす。
本当に仲良さそう。
「それじゃあ先にたまり場を潰すか」
ゆるい雰囲気が一変して、思わずどきっとする。
「俺の方も、ちゃんとできるってところ見せておかないと」
カイルは腰の剣に手を当てた。
微笑んでいるけれど、眼光は鋭い。
探知通りの分かれ道を右に進むと、やがて魔物の声が聞こえてくる。
魔物の多くは夜行性で、昼間は巣に籠っているものが多い。
「小鬼……結構多いかも」
“探知”で部屋の形状と大体の数を把握する。
どうやら夜の活動に向けて目覚めた直後みたい。
ゴブリンは最下級の魔物とはいえ、群れを成すと厄介だ。
村や町、下手をすれば一地域まるごと滅ぼす脅威になりうる。
頭の良い個体は武器や道具を使い、罠を仕掛ける。
駆け出し冒険者が命を落とす原因の一番に上る、“初級の壁”だ。
けれどそんな懸念をよそに、カイルは剣を抜いて一人たまり場に入っていく。
精霊を中に入れもしないで。
「ちょっと……!」
「いくつか光を飛ばしてくれ。あとは後方の警戒を頼む」
それだけ言って、カイルは前に跳んだ。
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