第16話 ダンジョン攻略・事前準備
翌日の早朝。
「くれぐれも気をつけてくださいね」
「大丈夫だって、もう……」
昨日一日のことを話すと、フィオネは不信な態度を隠さなかった。
元の一団に“裏切られた”ばっかりだし、疑り深くなるのも仕方ないけれど。
フィオネは傷心の私が、親切を装って近づいてきた男にころっと騙されたのだと思ってる。
「カイルは良い人よ。ちょっとお人よしすぎるくらい」
少なくとも器用に人をだませるようには見えない。
それにあの精霊──イアがあんなになついてる。
「きっと、うまくやれると思う」
「……身だしなみに気持ち気合いが入っていらっしゃるのは、そのせいですか?」
「な……!?」
思わずローブの裾を押さえる。
最近女性魔法使いの間で流行している、丈の短い魔法衣。
今日選んだのは特にお気に入りの一着。
普段通り、とは返せない。
確かにちょっとうきうきしてるかもしれない。
一緒にこなす初めての仕事だし、印象をよくしたいという気持ちもある。
でもそれはあくまで“冒険者”としてのことだから!
「とにかく、承諾した以上行かなくちゃ。信用に関わる」
とんがり帽子をかぶり、鞄と杖を持って部屋を出る。
「……想いが遂げられるとよいですね」
「むんっ!」
フィオネの生温かい視線を振り切って、私は待ち合わせ場所に向かった。
□□□
町はずれでカイルたちと合流し、獣の引く車で出発する。
「それじゃあ、行こうか」
御者を雇う余裕まではないのか、手綱はカイルが握った。
「しゅっぱーつ!」
イアが隣に座って元気な声を出す。
天気もいいし、なんだか行楽みたい。
迷宮に入るまでの手際は悪くなかった。
昼には目的地に到着して、依頼を出した集落の人々に会う。
「仕事を受注した冒険者です」
名乗って獣と車を預かってもらう。
迷宮は複数確認されており、私たち以外にも冒険者一団がやってきていた。
戦士に魔法使い、治療師に狩人……必要十分でバランスがとれている。
一瞬私に変な視線が向けられた気もするけど、素知らぬ顔でやり過ごす。
彼らや集落の人とも情報を共有し、攻略の計画を立てる。
「うちの“偵察”によると、迷宮は一般的な洞穴・小規模型だな」
「三層なら、二日ってところか」
隙あらば落ち着きなく歩きまわるイアの面倒をみる横で、一団の団長とカイルが話し合っていた。
迷宮はふらっと行ってさくっと攻略する、なんて簡単なものじゃない。
まず事前情報から迷宮の規模を推測して物資(食料や探索装備)を用意。
付近に拠点をつくり、攻略手順を立案・確認。
余力があるなら偵察を出して、より慎重に情報を集める。
「魔物は今のところ小ものばかりだが、数はやや多めってとこだ。偵察班が遭遇したのは小鬼、魔狼、魔虫あたりで、問題なくさばけてる」
情報を丁寧に共有してくれる、親切な人だ。
「“結界”も作用する。休息もできそうだ」
どんなに小さくても迷宮は三層程度の深さがあって、攻略には通常丸一日から三日程度を見る。
迷宮内で休むことになるから、休息用の結界を張れるかどうかはすごく重要なのだ。
「ありがとう、助かるよ」
礼を言うカイルにリーダーは首を振る。
彼らも冒険者の階級はカイルと同等で、初級者同士の仲間意識かもしれない。
冒険者は経験を積めば積むほど疑り深く、卑しくなって……それはいっか。
「いいさ。探索の“成果”をちょっといただければ」
「はは、了解」
うなずいて、カイルは相手と握手を交わした。
冒険者にとって死活問題なのが“取得物”、つまりお宝。
依頼が宝物の確保なら、当然状態を保ったまま持って帰る必要がある。
目的物以外の成果はたいていの場合攻略者に権利が帰するから、それを売って生活の足しにしたり、使えそうなものは再利用したりする。
他にも冒険者同士で融通し合ったり、物資や情報の代金にしたり……お宝は冒険者稼業を支える命綱なのだ。
□□□
準備が整って、いよいよ出発。
期日に余裕はあるけれど、達成が早ければ報酬にも色がつく。
「よーし、かんばるぞー!」
イアが大手を振って歩き出す。
「今回も張りきっていこう!」
二人して拳を突きあげて気合をいれると、首をぐいっとこちらに向けた。
二人ともきらきらした、期待に満ちた目で私を見てる。
「お、おー……」
仕方なくつきあって、へなへな腕を挙げる。
……やっぱりちょっと心配、かも。
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