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媒介

作者: 雨宮ヤスミ

 

 

 セオドア鳴子(なるこ)のよるナル!


 この番組は、「一瞬一瞬の必死な生を」、平成ライデン出版の提供でお送りいたします。


 はい、始まりました。「セオドア鳴子のよるナル!」、MCのセオドア鳴子です。


 この番組は、平成ライデン出版が誇る作家陣を毎回ゲストに迎え、あんな話やこんな話を聞いて、作家に親しんでもらおうというインターネットラジオ番組でございます。


 いやー、梅雨ですね。もう二度とね、雨が止まないんじゃないか、っていうぐらいに毎日毎日降っていますね。


 そして暑い! もうホントに。湿度がね、半端ないじゃないですか。


 あまりに暑いんでね、前に橘田先生がね、ゲストで来た時に教えてくれた牛乳かん! あれやってみようと思ったんですよ。


 で、冷蔵庫開けたら……、牛乳なかったですね。


 普段買ってないので。


 買います? 牛乳。傷みやすいんで、あんまり自炊をしない僕は置かないようにしてます。


 だってほら、「行けるかなー」で飲んだりして、お腹壊したら嫌じゃないですか。


 もうそれ3回くらいやってるんで。流石に学習しました……。


 という感じで、どういう感じだって話ですけども、今夜も一時間やって行きましょう!


 はい、今夜のゲストです。


 来月、平成ライデン出版のグレイトフルデッド文庫からは1年ぶりの新作『白昼夢の外で』が発売されます、ホラー作家の香月寝々(かづき・ねね)先生です!


「こんばんはー、香月です。今日はよろしくお願いしますー」


 寝々先生、お久しぶりです。出演は一年ぶりぐらいですか。


「そうですねー。もう呼ばれないのかな、って思っててー。わたしってすごくどんくさいから、ラジオには向いてないって思われてるのかな、って……」


 いやいやいや、そんなことないですよ!

 寝々先生の、いい意味でホラー作家とは思えないふわっとした感じ、好評ですから!


「そうなんですかー。よく言われるんですよ、ホラーっぽくないって。橘田先生とかからー」


 そうそう、橘田先生と仲がいいんですよね。


「はいー、わたしみたいなのと仲良くしてくれて、ホントに橘田先生には感謝してます」


 その辺りのお話も、後々ね、うかがっていけたらと思います。

 では、一旦お知らせの後、寝々先生には新作についてたっぷり語ってもらおうと思います。




 はい、ということで。


 今夜は新作小説『白昼夢の外で』が来月発売されます、ホラー作家の香月寝々先生に来ていただいています。ここからは先生に、新作についてたっぷり語っていただこうと思います。


 では寝々先生。


「はい」


 ずばり、『白昼夢の外で』どういったお話なんですかね?


「えっとですね、今回はちょっと、わたしとしては哲学的な方向性で、幽霊って何なのかな、というところを書こう、という感じです」


 幽霊とは何か、ですか。


「そうですね。結構、十把一絡げに『幽霊』とか『妖怪』って言っちゃってる面があると思うんですね。死んだ人なのか、恐怖とか信仰が形になったみたいな感じなのか……、正体とか分かんないんですけど」


 ははあ……、確かにあんまり区別つかないですね。


「この『白昼夢の外で』に出てきたのが、幽霊と認識していいのか、それとも妖怪とか神さまとかそういうものなのか、あるいはもっと知らない未知のものなのか、みたいな。読んだ後、そういうところにちょっと引っかかってもらえたら、嬉しいですね」


 なるほどなるほど。怖さは控え目、みたいな感じですかね?


「あー……、どうなんですかね? 書いてる時は『自分でこれ怖いのかな?』みたいな、怖いのか分かんなくなっちゃうところがあってー……。実際多分、ちゃんと、怖いんじゃないかな、って、思います。編集さんがオッケーくれたので」


 なかなかふわふわしてますけども……。


「あぁ……、すいません……」


 まあまあまあ、読んでのお楽しみということにしておきましょう。


「はい。ぜひ、書店や電子書籍で買ってくれるか、図書館とかで借りてください」


 いや、図書館とか言っていいんですか!?


「よ、読んでくれたらいいんで……」


 ブースの外で松葉杖でバツ出してる人がいますが……。


「あ、え、っと……、できるだけお店で買って読んでください」


 はい、という感じなんですが……。


 ところで寝々先生と言えば、聞いたことがあるんですけど。


「何ですか?」


 ご自身でも、実際にかなりの回数、怖い現象に出くわしているとか、いないとか。


「あー……」


 どうでしょう、その辺の話って聞いても大丈夫ですか?


「まあ、はい、差し障りのない範囲でなら……」


 差し障りというと?


「あの、わたしって、昔からそういうのを、見やすい体質というか……、なんですけど」


 はいはいはい。


「そういう体験を、自分の中で飲み下すために小説を書き始めたところがあって……。だから、体験したけどまだ書いてない話とかもあってー」


 え、じゃあ、今まで書かれてた小説って、結構実体験を下敷きに?


「してるものもあったり、してないものもあったりですねー」


 全部ではないんですよね。


「そうですね。でも、やっぱりわたしの小説の基本は、そういう体験の部分なので」


 はいはい。


「ここで話してしまうと、これから書くことがなくなってしまうかもしれないかな、って」


 ハハハハ、なるほど。ネタばらしになっちゃう、と。


「だから、ちょっと、何を話したらいいか、とか、迷っちゃうんですけど……」


 じゃあ、最近の話でお願いします。一応ほら、寝々先生今回は新刊の宣伝の意味合いもあって、出演してるわけじゃないですか。


「あ、そうですね」


 だから、執筆中に起きた話とか。ホラー映画とかでも、「撮影中にこんな怪奇現象が!」みたいな宣伝あるじゃないですか。


「そうなんですね。ホラー映画ってわたし見ないから……」


 たまにありますよ。ああ、もちろん本当にそういう体験があったらでいいんですけど。


 ……どうですかね?


 ……えーっと。



「■■■■」



 ……はい? 何て?


 ……寝々先生?


「あ、はい!」


 いや、ちょっと返事がなかったから……。どうされました?


「いえ、その、はい、執筆中ですね、ちょっと、その、あったんですけ、ど……」


 あったんですか、怖い体験が?


「え、ええ……。でも、ちょっと……」


 ちょっとどうかされたんですか?


「話して怖い話かが、あんまり分かんなくて……」


 えー、また怖いのか分かんなくなってるじゃないですか!


「うう、すいません……。何か、分かんなくなっちゃうんですよ……。語るとなると媒体も違うわけですし……」


 まあまあ、それでも今までね、ホラー作家として評価されてるわけですから。今度もきっと大丈夫ですよ。


「そ、そうなんですかねー……」


 ええ、そうですよ。だから、話してみてください。


「は、はい、では……」


 どうぞどうぞ。


「えーっと、最初はその、夢だったんです」


 夢……、寝て見る夢ですか?


「そうです。『白昼夢の外で』の初稿が編集さんから返ってきたぐらいからですかね、起きた時に『今の夢、前にも見たな』って思うことが増えたんです」


 はあ、なるほど。ちなみに、どんな夢だったんですか?


「それが最初の内は覚えてないんですよ。ただ、起きた時に『今の夢、前にも見たな。見たことのある夢だったな』っていう感覚があるだけで。

 はっきりし始めたのは、その感覚が二週間ほど続いた辺りからでした。

 夢の中で、わたしは部屋の中にいるんです。真っ白い部屋で、壁とか天井とかあんまり区別がつかないんですね。そこに小さいテーブルがあって、椅子が二脚あるんですけど、その内の片方にわたしは座っているんです」


 はいはい、何となく不気味な感じですね。


「それで、テーブルを挟んだ向かいの椅子に何かがいるんです」


 何か、ですか? 何かってなんなんです?


「それが分からないんですよ」


 分からない?


「テーブルを挟んだ向こうにいるのは、靄かモザイクがかかったような塊なんです。椅子の座面に座っているのか、乗っかっているのか……。目鼻どころか人間の形をしているかさえも定かではないんですよ」


 えー、何か気持ち悪いですねえ……。


「そうなんですよ。わたし、執筆中は頭が話を作るのに支配されているせいか、おかしな夢を見ることも多いんですけど、今回はそれだけじゃ済まなかったんです」


 えー、済まないってどういう?


「ずっと同じ夢を見ているという感覚を抱き始めて、もう一か月ほどたった頃でしょうか。

 夢の中のそれが、現実にも現れ始めたんです」


 現実に、ですか。


「ええ。わたし、執筆に使っている机の後ろにベッドを置いているんです。キーボードを叩いていて、ふと後ろに気配を感じて振り返ったら、あの靄がわだかまったみたいなのが、ベッドの上に乗っかってるんですよ」


 それは驚きますよね。


「驚くんですけど、あんまり怖いっていう感覚はなくて。当たり前のように感じるんですね。ああ、出てきたんだなあ、それはそうだなあ、って。夢の中のものが、現実になっているのに」


 それはそうだなあ、ってなるのが怖いですね。何か、夢の中で見た時点で、夢の中のものじゃないって分かってるみたいで……。


「そうなんですよ。多分、わたしは夢で初めて見た時から、そういう認識をどこかで抱いていたんです。アレに分からされていたのかもしれません」


 何か、認識が歪まされているみたいな、そんな感じですかね?


「ああ……、そうですね。セオドアさんの言う通りかも」


 いやー、ほんのり怖いような、不思議なお話でしたね……。


「あ、あの、えっと、まだ続きがあって……」


 ああ、そうなんですね。失礼しました。次のコーナーにちょっと入らないといけなかったんですけど……。


「え、あ、すいません! じゃあ、ここまでで!」


 いやいやいや、まだ先があるんだったら、聞かせてくださいよ。ちょっとディレクターに……、あ、大丈夫? 大丈夫だそうです!

 というわけで、今日は『ズル休み! おとなの深夜相談室』はお休みしまーす。


「え、あ、その、話していいんですか?」


 もちろんです! どうぞどうぞ、たっぷり行っちゃってください。


「すいません。じゃ、じゃあ……。えっと、どこまで話しましたっけ?」


 夢の中に出てきた女の子が、先生のベッドの上に出てきたところまでですね。


「ああ、はい。それで、現実にまで出てきたんですけど、何もないんですよ」


 何もないって、どういうことですか?


「夢でも、ずっとテーブル挟んで座ってるだけだったんですけど、現実に出てきても何もしないんですよ。ベッドの上にいるだけで……」


 三角座りしてる感じですね。


「そんな感じですね。ジッとしてるだけで……」


 ずっといるんですか?


「いえ、たまに振り返ると『あ、いるな』って感じで。わたしが寝ようとする時は、それが分かってるみたいにふわって消えるんです。それで、夢の中に出てくる」


 追いかけてくるとか、肩にかぶさってくるとか、そういうのもないんですか?


「そういうのは、今回はなかったですね」


 おっと「今回は」ですか……。そこ、なかなかゾッとしますねえ。


「まあ、そういうことも今まではあったんですけど、今回の子はただそこにジッとしているだけでしたね。でも、ちょっと何かを言ってる感じはするんですよ」


 何かを言っている?


「聞こうとするんですけど、いくら耳を澄ましても『ゴボゴボゴボ』みたいな音でよく聞こえないんです。くぐもってて意味が取れないというか。水の中でしゃべってるみたいな感じで、同じことを何度も何度も繰り返している風でした」


 えー、それもやだなあ。そういうのって、こっちでは意味が取れないけどすごい嫌な言葉なんじゃないか、って思っちゃいません? 「呪います、呪います、呪います」みたいな。


「そこまで直接的な感じではないんですけど……、何だかそういう呪文めいてはいましたね」


 ははあ、呪文……。

 何か特別なことはしなかったんですか? 寝る場所を変えるとか、お祓いとか。


「しなかったですね。無害とは思わなかったんですけど、その時はまだ何をしてくるわけでもなかったので」


 その時はまだ、ってことは後で何かされたんですか?


「されちゃったんですよ。本当にそれが大変で……」


 えー、どうしたんですか?


「その頃には『白昼夢の外で』ももうほぼ原稿が完成してて、最後の修正をしてたんですよ。てにをはのミスとか誤字とか、そういうのですね。原稿を直して、メールで送って、それでいつものようにベッドに入ったんです。

 わたし、朝4時に起きて夜は8時には寝てしまう生活をしているんですけどー……」


 何だかおばあちゃんみたいなリズムですね。


「それ、橘田先生にも言われるんですよ……」


 おじいちゃんやおばあちゃんって、朝早くて夜寝るのも早いイメージがありますもんね。


「えーっと、それでメールを送った夜の10時くらいに電話がかかってきて。それが担当さんでびっくりしてー」


 珍しいんですか?


「今の担当さんはわたしの生活リズムを知っているので、よほどのことがない限りは8時以降に連絡はしてこないんですよ。何かあってもメールで済ませてくれることが多いので、これはかなり大変なことが起きたんだなって思って……。

 だから、絶対電話を取りたくないな、って思ったんですけど」


 取りたくないんですか。


「だって大変な電話なの分かり切ってるじゃないですか。寝たふりしようかな、とも思ったんですけど、起きちゃったからしょうがないな、って」


 今、ブースの外にいる松葉杖の人がすごい顔したんですが……。


「あ、今日来てたんだった……。はい、あの人がわたしの担当さんです」


 やっぱり、あの松葉杖の人そうだったんですね。


「はい。それで、『どうしたんですか?』って電話に出たら、担当さんすごい剣幕で『香月先生、何なんですかこれ!?』って言うんですよ、聞いたこともないくらいに怒った声で。

 さっき送ったメールに添付した原稿に、何かとんでもない不備があったんだな、ってことはすぐに分かって」


 はいはいはい。


「『何か問題ありましたか?』って聞いたら『問題だらけですよ』って。

 『先生、何で修正箇所に全部、意味の分からない単語をあてはめてんですか』って。

 『修正にそんなに不満があったんですか』って、そんなわけないんですけど」


 意味の分からない単語、ってどういうことですか?


「慌ててパソコンを確認したんですけど、送った元の原稿は全部真っ当に修正してるんですよ。そもそも、そんな意味の分からない単語を入れるわけないじゃないですか。

 そう反論したら、『こうなってるんですけど!』って担当さんがパソコンの画面をキャプチャーしたのを送ってきたんです。

 そしたら、原稿の文章に変な単語があちこち挿入されてるんですよ」


 変な単語って、どんな単語ですか?



「■■■■」



 え? 何て?


「ちょっと言えないんです。一見して意味のある文字列ではなくって。後で調べてもそんな意味の単語は存在しないんです。そこもまた不気味で……」


 文字化けとかでもなく、ですか?


「文字化けって見たこともない漢字が出てきたりするじゃないですか。ひらがなだけだったんで、違うんじゃないかな、って思います。

 でもその時は、わたしもパソコンの不調かなって思って、もう一回送り直したんです。それでも、同じような現象が起きて……」


 ええー、それでどうしたんですか?


「担当さんも、わたしが故意にやったのではないって分かってくれて。

 わたしも眠かったし、担当さんももう帰りたそうだったので、翌朝送りますってことで、電話を切りました。

 それで次の日、起きてすぐ朝一番に送ったら、その日の10時くらいに連絡が来て『確認できました、OKです』って」


 直ってたんですね?


「朝に送り直した分は大丈夫だったみたいで。ああ、よかったなって思ったんですけど、そこでちょっと違和感があって」


 違和感ですか。


「はい。それでよく考えてみたら、前の日はあの夢を見てないんです」


 あの夢……、真っ白い部屋に女の子がいる夢ですかね?


「ええ、そうです」


 ずっと見続けてた夢が途絶えたんですね?


「そうなんです。急にいなくなったな、と思って。それ以降、一回もあの夢は見てないし、部屋に出てくることもなくなったんですけど」


 けど、ですか。


「はい。今度はわたしの担当編集さんが、あの夢を見るようになっちゃって。

 何日かしたら、『香月先生、こんな変な夢を毎日見るんですけど、対処法ないですか』って連絡が……」


 えー、感染(うつ)ったってことですか? 


「そうみたいなんです。何で行っちゃったんだろう、って考えたんですけど、どうもあの変な文字列、原稿に出てきてたひらがなの、あれを媒介にして行ったんじゃないかって」


 ああー、なるほど。じゃあ、おかしな単語が、女の子を呼び寄せるんだ。


「呼び寄せるっていうか、辿って出てくるんだと思います。文字を見たら、その子が出てくるようになるっていうか。わたしはメールを使って『送った』ので、離れちゃった」


 メールで離れるもんなんですか?


「類感呪術って言うんですけど、例えば、雨乞いの時に太鼓を鳴らすじゃないですか?」


 鳴らすんですか? 雨乞いって全然知らないんですけど。


「えーっと、じゃあもっと直接的なヤツだと、丑の刻参りとか。藁人形に五寸釘を打ち付ける、っていう……」


 何か、おどろおどろしい話に突然なりましたけど……。


「えっと、藁人形は呪いたい相手そのものではないじゃないですか。でも、そうすることで呪うことができる、と思ってる。望む効果を引き出すためにそれの真似をしてるんですよ。


 今回のメールを送るっていうのも、そういう感じに作用したのかな、って。文字というか言葉を送るわけじゃないですか、メールって」


 ああー、何か変な文字列が女の子の媒介ですもんね。


「あと、そもそも、わたしからは離れたかったんじゃないかな、ってちょっと思ってます」


 離れたい、ってどういう意味です?


「多分ね、あの子って何かの事情でわたしには手が出せなかったんだと思うんです」


 そんなことあるんですか!?


「波長とかかなあ、そういうのが合わないと難しいことがあるみたいですね。合っちゃうとわたし大抵酷い目に遭うんですけど、この子は完全に合わないタイプだった。


 だけど、担当さんは夢を見るようになってから二週間ぐらい経った頃かな、交通事故に遭っちゃって……」


 えー……!? あ、それで松葉杖ついてるんですね!


「そうなんですよ。横断歩道を渡ってる時に急に車が突っ込んできたらしくて……」


 信号無視ってことですか。


「はい。運転手の人は『確かに青だったのに、横断歩道に入った瞬間赤になった』って言ってたそうなんですけど」


 うわっ、無茶な言い訳だなあ……。


「でもそれ本当みたいで、担当さんが轢かれた横断歩道、ものすごくくっきりブレーキの跡が残ってるんですよ。慌ててブレーキ踏んだのは確かだと思います」


 その事故と、女の子の夢ってホントに関係あるんですか?


「担当さんが言うには、轢かれて倒れ込んだ時に、ブレーキ痕が目に入ったそうなんですけど、それが、わたしの原稿に挟み込まれていた、あの意味不明な文字列に見えたって……」


 はー、そんなことが……。


「事故に遭ってからは、担当さんもその夢は見なくなったそうで。だからまた、誰かのところに行ったのかなあ、って。そう思います」


 怖いというか、不思議というか……いや、貴重なお話ありがとうございました。


「いえいえ、こちらこそ。拙い語りで……」


 そんな怪異に見舞われながらも上梓されました一冊、『白昼夢の外で』は来月6日発売です。

 ぜひ、お手に取ってみてくださーい。


「あの、セオドアさん……」


 はい、何ですか?


「さっきから気になってたんですけど」


 はいはい。


「いつから、わたしの夢に出てきていた靄の塊のこと、女の子だと認識してました?」


 え?


「セオドアさん、靄について言う時、絶対に『女の子』って言ってるんですよ。

 わたし、靄は靄としか言ってないのに」


 えー!? 全然、それ意識してなかった……。


「次はセオドアさんのところに行くかもしれないですね」


 ちょ、やめてくださいよ……! やだなー、もう……。

 横断歩道渡る時、絶対気を付けよ……。


 (以下略)



 ◆ ◇ ◆



「セオドア鳴子のよるナル!」、放送休止のお知らせ


 いつもご聴取いただきありがとうございます。

 「セオドア鳴子のよるナル!」は、MC・セオドア鳴子の体調不良のため、7月の放送をお休みいたします。

 ご愛聴いただいている皆様に深くお詫びを申し上げるとともに、セオドア鳴子には食品の消費期限に注意するようきつく言い聞かせておくことを、ここに宣言いたします。

 8月以降の「セオドア鳴子のよるナル!」再開を、今しばらくお待ちくださいませ。


20××年 6月10日 「よるナル!」ディレクター Q






【重要なお知らせ】 


 6月23日放送の『セオドア鳴子のよるナル! 第266回 ゲスト・香月寝々(ホラー作家)』の放送アーカイブを削除いたしました。

 当該放送回を録音されている方は、安全のため決して聴取しないようお願いいたします。

 また、第266回の放送内容の一部ないし全部を動画サイトにアップロードする行為、および放送内容の書き起こしをSNSや掲示板に書き込む行為について、著作権の観点もさることながら、視聴者や読者の安全を考慮し、ここに固く禁じます。

 上記の行為により、どのような現象が起きたとしても、当社は一切の責任を負いかねます。


以上


20××年 6月24日 平成ライデン出版WEB事業部



〈媒介 了〉

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― 新着の感想 ―
いやぁ、こっちもまたじんわり寒くなる、い~い塩梅のホラー物語ぃ…。 ミーム汚染系の怪異とも取れるし、たまたま変なことが重なっただけの日常とも解釈できる。 虚構と現実の境が、無い…。 あの「◼️◼️…
[良い点] 言葉や文字をかいして取り憑くとは、文字を趣味にしてる我々からしたら怖いですね。
[良い点] 松葉杖気のせいかなってぐらいサラッと流されて、何時回収されるんだろうとか思いながら読んでたら オチがお知らせ形式で語られるって云う いやあ良かった 最後更に削除されて更なるオチがついて 面…
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