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赤いカーテンの向こう  作者: 西松清一郎
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2 事の顛末⑦

 ここまででも我々は十分楽しんでいたのだが、まだ『約束のもの』を見せてもらったわけではなかった。


 私は高揚を保ったまま、いそいそと青人のあとを追い、棚の端まで移動した。そして、棚の裏手を見た瞬間、頭に電気が走るような衝撃とともに、おおっ、と歓声をあげた。


 そこは四方を棚に囲まれたスペースで、それぞれの棚には(おびただ)しい数の薬瓶が置かれていた。

 大学の実験室にも劣らない。まして、高校の部室など目じゃない。

「下手に触るなよ。さっきも言ったように劇薬もあるから」青人が我々の方を見ながら言った。


 スペース中央の小ぶりなテーブルには、空のビーカーやスポイトなどの実験器具が備え置かれている。私はそれを囲む棚の一つに近づき、その一段一段を吟味するように見ていった。


 透明あるいは茶色の薬瓶それぞれに、薬品名が書かれた小さなラベルが丁寧に貼られている。塩酸や水酸化ナトリウム水溶液などの有名なものはほとんど揃っているようだった。その中で、化学部四年の私でさえ聞いたことのない薬品も多く見られた。


「世界中の薬品が揃ってるんだな」柳はすっかり魅了された様子でいた。

「まさか」それに対し、青人が冷静に答えた。「全ての薬品があるわけじゃない。そんなに揃えるなら、東京ドームを一年中貸し切らないといけない」


「もしかして、全部自分で調合したの?」私は青人の方を振り向いた。

「ほとんどはそうだな。古いのには莉緒と共同で作ったのも含まれてるけど」


 私は聞いたあと再び棚を向き、ずらりと並んだ化学物質の全貌が見えるよう、半歩後ろに下がった。

 すると、棚の端に一本だけ、鮮やかな青の液体が入った瓶があるのに気づいた。近づかなくとも、それが何かすぐにわかった。私は別の棚を物色していた柳の肩を叩き、その青い液体を指で示した。

「塩化銅水溶液もある」

「ほんとだ」

「お前を停学に追い込んだ液体に、言葉をかけるとしたら?」

「停学になってない。なりかけたんだ」


 二人で軽口を叩いていると、青人が「『象の歯磨き粉』でもやるか」と言ってきた。

 突然の提案に、我々の心は再び踊り出した。

「象の歯磨き粉」とは、過酸化水素水と洗剤などの混合物に、触媒(しょくばい)としてヨウ化カリウムを加える化学実験の俗称である。

 この反応により噴出する大量の太い泡が歯磨き粉のように見えることから、そのような呼称が定着した。また、反応の様子が小気味よいものでもあり、その実験動画が一時期ネット上で多数公開された。


「やっていいの?」我々は声を揃えて言った。

「ちゃんとゴーグルと手袋をつけてな」正一は棚と棚の間に立ち、穏やかな笑みを浮かべながら我々の様子を見守っていた。


 家主の了解を得たことで、我々は働きアリのようにそこらを動き回った。私と柳の間でいつの間にか、先に二つの薬剤を見つけ出すレースが始まった。勝負は引き分けに終わった。私が過酸化水素水の瓶を見つけるのと、柳がヨウ化カリウムの粉末が入った瓶を探し当てるのはほぼ同時であった。

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