表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
赤いカーテンの向こう  作者: 西松清一郎
4/21

2 事の顛末③

 私と柳は莉緒のあとについて、再び街路を歩き出した。莉緒は歩きながら、ポーチから出したスマートフォンで通話をしていた。

「そこのコンビニまで連れていく」と話しているところから、通話相手は青人であるとすぐにわかった。


 交差点の横断歩道を渡り、三人でコンビニの前まで来ると、莉緒が振り返った。

「ここで待ちましょう。すぐに青人が来ますから」

 私たちは言われた通り、店のガラス壁に沿って並んで立った。雨など降っていないのに、軒下で三人並んで雨宿りでもする格好となった。


 柳は少し離れた灰皿の前まで行って、一人煙草を吸い始めた。黙っていても、おそらくこの女性から話し出すことはないだろう。そう思った私は、記憶にある彼女についての数少ない情報を短時間でかき集めた。そして、自ら会話の口火をきった。

「莉緒さんも大学生なんですか」

「ええ、そうです」

「もう進路は決まりました?」

「ええ、まあ一応」

「やっぱり青人と同じように、製薬研究ですか」

「いえ、私はもうその方面からはとっくに引退してるんで」

「そうですか」


 思うように弾まない会話にもどかしさを感じたが、それを顔には出さないようにした。進学や就職に関して、同様の質問が莉緒の口から出ることはついになかった。もし、柳が傍にいたら「莉緒さんは、お前に興味ないんだよ」とはっきり言ってきそうだなと思い、少し笑いそうになった。

 莉緒のこのミステリアスな態度に、答えの出るはずのない思いを巡らせるうち、青人が徒歩で現れた。


「悠木、早かったな」

「ああ、一本早い電車で来たんだ」言いながら、青人の姿態にも目を奪われてしまった。

 堂々とした自信あふれる身のこなしは、高校時代と変わらなかった。グレーのⅤネックシャツに、色落ちしたジーンズ、そして足元には光沢のある茶色い革靴。シンプルさは我々と大差なかったが、青人が着ることでそれぞれが高価なインポートブランドに見えるのは不思議であった。青人の服装を我々がそのまま真似たとしたら、たちまちセール品の寄せ集めのようになってしまう。


「持って生まれたものが違うのかな」私は思わず、ため息まじりにそう漏らした。青人はそれを聞いて「ん?」と、訊き返したが、莉緒と柳が輪に加わったことで会話は別方向に流れた。

「マナミちゃんも来れば良かったのにね」莉緒が青人に言った。莉緒の口角は上がっていて、心なしか意地の悪い笑みにも見えた。青人はそれに対し「馬鹿言うな」と、うんざりしたように答えた。


「マナミって誰」当然のごとく、柳が質問をはさんだ。知らない女性の名が出たことで、私も柳と同じ気持ちで青人の返答を待った。

「青人の可愛い彼女。憎らしいほど可愛い、ね」莉緒が青人に軽く目配せをした。青人は若干顔を赤らめながら、それとはわからないほど小さくうなずいた。それを見た我々の喉に、多くの下世話な質問がこみ上げたが、それをさし挟む余地はなかった。


「じゃあ、あとで」莉緒は青人に言うと、我々に背を向け、もと来た方へ歩き去ってしまった。

「莉緒さんは来ないの」柳が目を丸くして誰にともなく尋ねると、「ああ、莉緒はこれから、ちょっとな」と青人は言葉を濁した。


 私はそれを聞きながら、莉緒の後ろ姿を目で追っていた。そのしなやかな身のこなしからは、ごくわずかの迷いもない確固たる意志がうかがえた。その機敏なふるまいは私に、針穴一つ分の寂しさを感じる暇さえ与えなかった。

 また、私と同じように彼女を見送る柳に対し、「莉緒さんが来れなくて、残念だったな」という台詞を思いついた。しかし、大して気の利いた冗談とも思えず、それを架空の味気ないガムとして、永久に飲み込んでおくことにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ