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赤いカーテンの向こう  作者: 西松清一郎
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3 再訪⑤

「N駅の隣の駅でいいんだよね」運転席の宇治の顔が西日で金色に光っている。

「はい、お願いします」


 時刻は夕刻。ダッシュボードのデジタル時計は一日の終わりに向け、無感情にカウントを刻み続けている。一方、窓から見える空の青は、夜の存在を無視するように透き通っていた。


「凶器は『鋭利な刃物』だったと報道に出てたよ」

 宇治に言われ私はスマートフォンを取り出した。検索サイトのトップページを下にスクロールすると、事件の続報の見出しがいくつか見られた。それらの一つを適当にタップし、記事を開いてみる。


 内容のほとんどは当然ながら、当事者の一人である私の知識を超えなかった。ただしその中に、『検死の結果、凶器は刃渡り20センチ以上の鋭利なものと判明』という文面が確かにあった。


「犯人は青人を一突きで殺したんでしょうか」私が呟くと、宇治は視線を逸らさずに「だろうね」と、一言だけ答えた。


 私の自宅の最寄り駅前で、宇治は車を停めてくれた。私が礼を言って外に出ようとすると、宇治は運転席の背もたれに体を預けた。

「国元莉緒はどこへ逃げたんだろうな」

 そのように言う宇治を見て、私も助手席に座り直した。しかし当然、現在の莉緒の居場所を伝えることは出来ず、宇治と同じ格好で遠くの山々を眺めることしか出来なかった。


「そうだ」宇治は久々に私の方を向いた。「高来くん、莉緒さんの写真って持ってないかな」

 言われて私は、ああ、と 慚愧(ざんき)の声を放った。スマートフォンを見ずとも、それを一枚も持っていないのは明白であった。


「すいません、持ってないです」私はその後に、「撮っておけば良かった」と言いたげな素振りも見せた。

「いいよいいよ」こういうとき、宇治はどこまでも優しげであった。「むしろ、これまでの君の話からして、そんな写真を持ってたとしたら奇跡だからね。後で正一さんに頼めば、最近のを一枚くらい送ってくれるだろう」


 私は駅前の駐車場で、走り去る宇治の車に小さく手を振った。ちょうど下り電車の到着と重なったらしく、駅から無愛想な乗客らが出てくるところだった。それぞれが待ち合わせた家族の車に乗り込み、家路につく。

 たった今、宇治兵衛がそこにいた、と言うと、みんなどんな顔をするだろうか。少し得意な気持ちを抱いたまま私も、徒歩で帰宅する人々の群れに加わった。

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