表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
赤いカーテンの向こう  作者: 西松清一郎
14/21

3 再訪③

 事件当日同様、我々は蓋の開いた床穴を下り、地下に来た。当時と違う点は当然、青人と柳が欠け、代わりに宇治がいることである。


「莉緒さんも大学生なんですよね」宇治は話題を気軽なものに変えた。

「そうです」疲れた様子ながらも正一が答える。「とは言っても、自慢できるほどのところではありません。名前を書けば受かるような三流私大ですよ。そして情けないことに、そんなところも満足に通えてないようで、あの子に関しては、卒業できるのかどうかさえ怪しいのです」

「はは」


 このように宇治と言葉を交わす中で、正一は少しずつ活力を取り戻していった。

「それで先ほどの着信の件ですが」話の流れの中で正一から切り出した。「事件があった日、そんなこと全く気にかけませんでした。死んだ青人を見て、パニックに陥っていましたので」

「ええ」宇治が相手を気遣うように声を出す。


「それで、後から警察の方から聞いてわかったんですが、結論を言うと、その着信が誰からかは、まだわからないそうです」

「携帯電話会社に問い合わせてもですか」と宇治。

「はい。そもそも、通常の携帯電話での通話ではなく、海外のボイスチャットアプリによる着信だったそうです。なので、青人に通話をかけたのが誰なのか、警察にもなかなか突き止められないらしいのです」

「ふうん」宇治はため息に似た声を漏らした。そして、退屈さを隠さずに言った。


「何にせよ、その通話相手が青人くんを襲ったとみていいでしょう。彼はまるで、何者かに呼び出されるように上へ上がっていったそうですから」

「そうかもしれませんが、私にはあの日何が起きたのか見当をつけることもできません」


 二人の会話が途切れ、静寂が降りた。あの日見た白いカーテンは開いていて、またあの棚に並ぶトロフィーの数々を目にすることになった。


 宇治はそれらに一瞥をくれると、棚の両脇にある壁との隙間の一つから、裏へと入っていった。私と正一もそれについて、裏手のスペースへと向かって、音を立てずに歩いた。


 そこには相変わらず、小さなテーブルが四方を棚に囲まれて置いてあった。その上には、あの日見た実験器具に加えて、掃除に使ったバケツと雑巾がそのまま放置されていた。もちろん周囲を見渡せば、棚に所狭しと並ぶ数百の薬瓶が目に飛び込んでくる。


「高来くんが教えてくれた通りだね」ここまでの部屋の様子を見て、宇治が言った。そして、トロフィーをちらと見たときの倍程度の時間、そこらを観察したのち、あの「青人の実験室」の方へと向かった。


 そこも、それまでいたスペースと同様、棚の一つの裏手にあたる。その棚の両脇にそれぞれ、そこへと続く隙間があり、私と正一はまた宇治に案内されるようにして進んだ。


 今回は赤いカーテンも開いていて、その先の様子を容易に観察できた。特筆に値するものは全くなさそうで、それが逆に驚きであった。地下最奥の壁に沿って、これまで見たのと同じくらいの大きさの棚が置かれている。そして当然のように、そこにも多くの薬瓶が雑然と収まっている。その手前には、先ほどまでいたスペースにあったのと同じような、簡易的な机が一台。


「青人の実験室です」正一は寂しそうだった。「もう本人はいないから、お見せしても構わんでしょう」

 宇治は了解を得ることも忘れて、ゆっくりと実験室を見て回った。私もそれをする衝動を抑えられず、正一に向かって軽く会釈してから、そこらを観察し始めた。


 やはり、特に注意を引くものはなかった。その名を知っている薬品、そうでない専門的な液体。机の上には、細かい英字でタイプされた論文、筆記用具、電気スタンド。今回の犯罪に関わるものを探せと言われてもそれは、どだい無理な話であった。


「青人くんは」宇治の視線はまだ周囲を這っている。「日頃、ここで薬学の研究をしていたんですね」

「そうです」と正一。

「彼はここへ、あまり人を立ち入らせなかった」さらに宇治が訊くと、正一が「そうです。私も含め、家の者がここに入ることは滅多にありませんでした」と答えた。


 その後も実験室の見学は続いたが、宇治が「こんな薬品聞いたこともない」と愉快げにこぼしたり、正一が青人に関する話を繰り返したりで、大きな進展はなかった。明らかに宇治が飽きたところで、三人は再び一階へ戻った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ