ちゃいむいろっ!
俺の時代が来た。
聞き逃した奴もいるかもしれないから、もう一回、言っとく。
俺の時代が。
「きたああああああああああああああいああーーーーーーー!」
「みっちー、朝からうっさい」
「黙れ!うっさいのはてめぇだ!こーじ一般人!」
「まったく……。朝から相変わらずテンション高すぎだから」
呆れ顔ではぁと溜め息をはくのは、クラスメート、兼、親友、兼、義兄弟のこーじ。ローテンションなシスコン野郎である。
「ダメだ!こーじでは話しにならん!これだから一般人はつかえねーんだよ!って、ことで、きょーすけー!」
叫び声をあげながら俺はもう一人のクラスメート、兼、親友、兼、義兄弟のもとへと飛んでいく。
「境介さん。好きです!私と付き合ってください!」
なんたる、絶妙なタイミングの悪さ。あれ、俺もしかして空気読めてなくね?
つーか、この女は俺のきょーすけーに朝っぱらから愛の告白していらっしゃるん?しかも、ここ教室ですやん。
「告白ありがとう。でも、ごめんね。佐藤さん。俺にはもう、心に決めた女の子がいるから」
「はい、ちょっとまったぁ!境介、てめぇ!心に決めた女の子が――とかいって、俺より先に彼女つくりやがったな!そうなんだろ!?そうなんだよな!この裏切り者!見損なったわ!」
「一番じゃなくていい!二番でもなんでもいいから!私を境介さんの側にいさせてください!」
ガン無視。俺の叫びは届かない。そうさ、いくら僕らが声だかに主張したところで常識に囚われた大人達は右の耳から左の耳へ受け流すだけなのさ。
「……ふっ。せんちめんたるじゃーにー」
「ごめん。それでも……」
あれ?ツッコミは?ボケ殺し?
きょーすけにも無視された。
「こーじー!きょーすけに無視されたああああ!」
心の友だと思っていた――否!俺だけが思い込んでいたのだろう!これはイタい!心がズタボロだ!もう人間なんか信用できない!傷心の俺はこーじに泣きついた。
「あー、もー、うるせえなー……。朝っぱらからテンション高いから」
「てめぇが低すぎんだよ!ダメだ!やっぱり、こーじでは話しにならん!これだから一般人はつかえねーんだよ!って、ことで、きょーすけー!」
叫び声をあげて再びきょーすけのもとへ。
「境介くん!私、境介くんのことが好きなの!だから、私と付き合って!」
まさかの二人目!?さっきとは別の女の子がきょーすけに告白真っ最中!
ばんなそかな!奴のモテ力は俺を凌駕しているだと!?それに、さっきも言ったけど、ここ教室ですよ!?
※
「で、今朝は何人だったんだ?」
俺のテンションがひとまず落ち着いて、きょーすけへの告白も一段落して、一時間目の授業中。こーじがきょーすけに尋ねる。
基本的に馬鹿ばっかりのこのクラスにおいて、授業はもしや雑談or睡眠or狩り。
例に漏れず俺達も三人固まってお喋り。
「20人ぐらいだったかな?」
一クラスの女子まるごと!?
「そのうちの7割がヤンデレだったよ」
よくよく見てみるときょーすけの学生服は薄汚れていて、当の本人も満身創痍といった感じに疲れた表情をしていた。
「『境介くんが他の女の子と一緒にいるところなんて見たくない!だから、境介くんを殺して私も死ぬの!』いや、なかなかに今日も狂ってたな」
「なんだよ。人事見たいにさ。女の子達を傷つけずに無力化すんの大変なんだからな」
「そんな面倒臭い女、フルボッコにしちまえばいいじゃん」
「……はあ。みっちーはそんな考えだからモテないんじゃないのか?」
呆れ顔で溜め息をつくこーじ。
ここで、いつもの俺ならば、んだごらこーじてめぇけんかうってんだないいぜかかってこいよつーかもうこっちからかかっていくわはあくいしばれ、ってなるところだが。
フフフ。今日の俺は一味違うぜ。
「ふふふのふ、ふふふのふのふ、ふふふのふ」
「あれ?みっちー?いつもならここでうがーってなるとこじゃないの?」
「なーに、きょーすけ。今の俺はいちいち、このシスコンにうがーってなるほど暇じゃないのさ」
「おお、今日のみっちーはなんか違うね!」
大袈裟に感心するきょーすけ。流石はきょーすけどっかのシスコンとはノリが違うぜ。
「……」
なんか、面白くなさそうな表情で俺を見詰めるこーじ。
「なんだ嫉妬か?うわ!野郎の嫉妬とかきもちわるっ!」
「意味わかんねーよ。それで、みっちー、そんなこと言うってことはなんかあったんだろ?」
「おー!おー!いくら、シスコンでも俺から滲み出るオーラみたいなかんじなオーラがわかるか!だよな!だよな!今の俺なんかきてるよね!オーラでてるよね!」
「だから意味わかんねーよ。なんかカッコイイ感じで言おうとしてるみたいだけどオーラって二回言ってからな」
「こまけぇよ!つーか、そんなことは今どうでもいいんだ!こーじ!それにきょーすけ!これを見よ!」
じゃんじゃじゃーん!と効果音も高らかに懐にしまってぬっくぬくにしておいたブツを取り出した。
※
道也くんへ
ずっと前からあなたのことだけを見てきました。
放課後、屋上で待ってます
※
「どうよ!」
「……やったじゃん?」
「おお!これラブレターだよね!?ついにみっちーにも春がくるんだね!」
ローテンシスコンとは対象的に俺の喜びを自分の幸せとばかりに喜んでくれるきょーすけはやっぱり話しがわかってる。
なんてたって喜びを身体で表現しすぎて俺に抱き着いてるし。悪い気はしないけど、勘違いされるし、まわりの女子が揃って殺意の波動に目覚めそうだからとりあえず離れようか?
「でもよ、みっちー。この手紙にはどこにも好きとか書いてないぜ?ここはコメディーの鉄則として実は愛の告白じゃなくて、そうだな『借金の連帯保証人になってください!』とか、どうよ?」
「バーカ!バーカ!そんなことあるわけねーだろ!バーカ!なにが『借金の連帯保証人になってください!』だ!バーカ!わざわざこんな手紙だしてまで『借金の連帯保証人になってください!』なんてこと言う女子高生がいるわきゃねーだろがい!絶対ない!ありえない!『借金の連帯保証人になってください!』なんて言われることは絶対ない!もし『借金の連帯保証人になってください!』なんて言われたら裸逆立ちで町内一周して、鼻でスパゲティー食べて、目でそら豆砕いてやるよ!」
※
そして放課後。
「借金の連帯保証人になってください!」
「前フリだったあああああぁぁぁぁぁーーーーーー!?」