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世界の敵の私だが  作者: P定食
8/11

メイドの長になりに行きました(1)


「預言者」


そう呼ばれる者が人種ごとに一人いるとされている。

その者は、未来の一部分を視ることができ、いち早く情報得ることができる者だが、どこにいるかわからないという、はっきりとしない存在だ。しかし、国に危機が訪れるとき、国に繁栄が訪れるときなどにだけ、姿を現す。




要塞国家、アルバリオス。

この国は、世界の国の中でも特に発展し、周りの国と大きくかけ離れた点があった。

それは、()()()()()()()()()()()()という点である。

預言者の常識を覆し、預言の力で他国を先導。強化、発展させ、自国と他国との差を歴然とさせることで、この世界を統治している。

即ち、この世界の頂点に君臨する存在であり、この世界の先行きを知る存在である。

その国が今、この情勢の崩壊の危機を感知していた……


王城内部、玉座の間への廊下を、一人金髪の耳の長い青年が走る。


「邪魔だ! 通せ!」


門の前の兵士を押し退け、玉座の間へと入る。


「どうした、預言者よ。何か視たのか?」

「王よ、数百年もの間変化の無かった冥界の魔物達が一斉に、煙のように消えてしまう未来が視えました! おそらく、新たな冥界の王が決まり、冥界の場所が変わったのでしょう」

「ほう……?」




冥界。

この世界の死者の魂が集まり、それを管理する危険な悪魔や魔物が存在しているとされる、地底の世界である。

一度だけ、冥界の魔物と思われる存在が地上に現れたことがあり、とある発展国が一つ壊滅したという被害が出たという資料がある。これだけならば、兵も武器も揃った今ならば、恐れる必要はないだろう。しかし、問題なのはその数であった。

国を壊滅させた魔物の数、それはたった一体とされている。

たった一体で国を壊滅させる化け物が、地下にはごまんといるのだから、恐れない者は居ないだろう。


その存在が一気に消えた。

この事実は余りにも危険過ぎることであり、もしも運が悪ければ、この世界が滅ぶ可能性があるからだ。


「預言者よ、早急に冥界の王、場所を突き止めよ!」

「はっ!」



◆ ◇ ◆



どうも、樫原と申します。

ただ今、虹色に輝く空間を落ちているところであります。

メイド長になるための大会に赴くそうですが、全く辿りつけません。

もっと一瞬で転移するもんだと思ってた。

というか、音すら無いのが寂し過ぎる。何か暇つぶしになりそうなもの無いかな。落ちるだけだもんな。


……

…………まだ?


「……」

「……! ………」


声! 声っぽいのが聞こえる! やっと出口か!

おお! 下向くの怖かったから下向いて無かったけど、もう目の前に地面が! って! 近すぎやしない?


私は綺麗に頭からダイブした。地面に。


「うっ、うわぁぁぁぁ! 唐突に現れた人間が顔から地面にダイブしたぁぁぁ!」

「どうした! って、なんじゃこりゃぁぁぁ!」

「むっ! のわぁぁぁ!?」


何かめっちゃ集まってない? すごい個性豊かな悲鳴が聞こえるんですけど。

とりあえず抜くか……

ん? 思ったよりも、深く……!


埋まった頭を引き抜くため、四肢に力を込める。


ぬぬぬっ!


「な、何だ!?」

「じ、地震だ! それも大きい!」

「おい待て、落ち着け!」


はあああああぁぁぁぁ!


ミシミシと地面にヒビが入り、少しずつ割れ始める。


「どぉりぁぁぁぁぁ!」


ふう、やっと抜けた……


「地震が、収まった?」

「もしや、この人間が?」

「そんな訳ないだろ」


というか、どこ? ここ。


周りは青白い炎が舞ってて、まるで西洋の地獄みたいな感じの洞窟?

近くには湖と小島、広い廊下、

それに……


目が三つある二足歩行のでかい

腕に金属製っぽい籠手をはめた黒いクマ(でかい)

二足歩行のムキムキのヤギ(超でかい)


……

…………異世界ふれあいパーク?


「おい貴様! なぜ突然現れ」

「ムキムキヤギさんが喋ったぁぁぁぁ!?」

「他者が喋ってるときに言葉を遮るな! 誰がムキムキヤギさんだ!」


嘘! ヤギが、ヤギが喋っ!? 喋った!


「おい、長を決める大会に遅れるぞ? さっさとこいつを始末していこうぜ?」

「クマさんも喋ったぁぁぁぁ!」


凄い! 流石異世界ふれあいパーク! 動物とおしゃべりもできるんだ!

ああ、一時期猫を飼おうとして、いろんな迷信を信じちゃったせいで飼わなかったけど、ふれあいパークならいいよね!

レッツ、もふもふ!


「うわぁぁぁぁ! 何だ! こいつ! やめろ! 俺の毛に顔を埋めるな!」

「……思ってたよりもザラザラしてるし、ちょっと獣臭い」


ちょっと期待はずれ。


「わぷっ」


クマさんに首のあたりを掴まれ、ワンちゃんから離されてしまう。


「俺がやる」

「えっ! なになに! じゃれあいもあるの!?」


その言葉を言った瞬間、ものすごい勢いで投げ飛ばされるが、空中で一回転して着地する。


「テメェ、じゃれあいだぁ? 誇り高き冥土の戦士にじゃれあいだと? なめ腐りやがって」


メイドの戦士! やっぱりここが例の会場! こんなクマさん達もメイド長に憧れてるんだ! じゃあ、ライバルか!


「いいよ? かかってくるならみんなで来な。まとめて相手したげるよ」

ライバルは先に潰しておいてもバレないよね!

「ああ、そうかい……じゃあ遠慮なく! 行くぞ!」

「「応!」」


アニマルズ達は魔法っぽいので武器を作り出し、樫原に向けて構える。


槍、籠手、双剣か……


ワンちゃんが槍を構え、

変則的な動きをして突きを放つ。

樫原は正面からそれを受け止め、

刃のついていない所に腕を伸ばし、

そのまま槍ごと地面に叩きつける。


「甘い!」


大きな音と同時に地面がグラグラと揺れ始め、

体制が崩れた瞬間に、クマさんの渾身のブローが入り、

樫原は向かいにあった小島に吹き飛ばされた。

そこに槍と双剣の追撃。

流石の樫原でも、防戦にならざるをえなくなる。


ナイスコンビネーション、アニマルズ! だけどこれじゃぁ私は……


「倒せんよ!」


回し蹴りでヤギと犬を弾き飛ばし、クマの元へと跳躍する。


「おらあぁぁぁ!」

クマのダブルスレッジハンマー!

樫原はヒラリと身を躱した!

そしてトドメの!

「アッパーカットオオオォォォォォォ!」

「「姐さぁぁぁぁん!」」


姐さん?


「うおおぉぉぉ! 許さん! 許さんぞ! よくも姐さんを!」

「クソッ! 今は時間がない! 次会ったら絶対ぶちのめしてやるからな! おい! ずらかるぞ!」


クマさんって雌だったの……? ってそれより!


「今から会場に行くんだよね?」

「だから何だ! 今は急いでるんだ!」

「私もついて行っていい?」

「……は!? お前も、冥土の長を目指してたのか?」


おお! やっぱここが会場のある所なのか!


「そう! 私もメイドの長を目指してここに来たの!」

「じゃあ、遅れないようについてこい! 俺たちのせいで受けられないってのは可哀想だろ!」


待って、ついさっきの私の考えが悪人過ぎて辛くなる。めっちゃいい奴じゃん。


樫原はクマを軽々と持ち上げ、犬達についていく。

炎を頼りに道を進み、崖を跳び、壁を走り、ついに会場と思われる門の前へとたどり着いた。

外からでも感じ取れる熱気、歓声と拍手、まるで中世ヨーロッパのコロシアムのよう。


「ここでお別れだな。次に会うときは敵同士か、はたまた味方か、もしそうなら心強いったらありゃしねぇな」

「人間の長なんて初めてだからな! ちょっとは期待しちまうが、まぁ、種族の差ってのは埋められねぇもんだ。一応、応援はするぜ」


みんな優しい! けど、一つだけ勘違いしてるな……


「安心して。私は元から……」


こう、なんとなーく本来の姿を影に映す感じに……



「人じゃないから」



きっと彼らからは、影が本来の私の姿に見えていると思う。そうだったらいいな。


「じゃあ、大会で待ってるね!」


樫原は、門の中へと走っていった。

震える魔物達を置いて。


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