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世界の敵の私だが  作者: P定食
7/11

師匠と戦いました

バトルは本当に苦手なのです。すみません。


「お願いします!」


その言葉と同時に、景色が変化し、空間が歪み、元の真っ白な世界に戻る。


「好きな物を使うがよい」


頭上から刃先を潰した鉄製の訓練用の片手剣、槍、弓、杖、爪、短刀、鞭、斧、両手剣、刀の主にこの世界に普及している武器が落ちてくる。


「じゃあ、全部使わせて貰いますね!」


武神は少し驚きつつも、拳を構え、戦いの準備を始める。

剣を構え、呼吸を整え、両者共に攻撃の機会を伺う。

先に動いたのは樫原だった。

鋒を地面に付くスレスレのところから滑らせ、武神の片腕目掛けて切り上げる。が、武神はそれを指二本で止め、難なくへし折られた。


「嘘!?」


思わず声を上げるが、即座に後退する。


「……今のを避けるか」


ついさっきまでいたところには武神の拳があり、もしも1秒、いや、一瞬でも遅れて仕舞えば、あの手に掴まれてしまったのだろう。


なら次は……!


理力で短刀を手繰り寄せ、真っ直ぐ武神へと突っ込む。

寸前で速度を上げ、武神の頭上へと飛び上がる。


「甘いわ!」


しかし、足首を掴まれ、

地面に叩きつけられてしまう。

すると、叩きつけられた樫原は、光となって消えていった。


ここまでは予想通り!

「ぬっ!?」


背後から脊髄目掛けて短刀を突き刺す。

が、これも防がれてしまう。


「分身とは……良い案だが、一体では簡単に対処出来てしまうわ。もう十体程追加出来れば儂も危なかったわい」

「簡単に言う!」


ほんの数十秒の出来事だが、完全に理解した。

師匠を倒す事は絶対にできない。

それは向こうも分かってるはず。

未だに一歩も動いてない師匠の姿を見るに、あの人を動かすことが出来ればこの試験は合格ということだろう。


なら、飛び道具で攻める!

「今度は弓か?」


弓を握り、意識を集中させる。

魔力の弦が現れ、矢が現れる。

仁王立ちする武神に向け、

弦を引く。


狙う場所は……足首!


魔力を込めれば込める程、

速度も威力も格段に上がる。

音速を優に超えた矢は一寸違わず足首に吸い込まれていくが、


「ほれ、返してやろう」


また指二本で止められ、それを投げ返してきた。

速度はそのまま、いや、少し速くなっているかもしれない。

捉えている暇もなく、すぐさま、今の場所から飛び退く。

剣も効かない、弓も、奇襲も、何をしてもダメ。

既に身体強化もしているけど、反応速度が速くなっている程度で、強さの差には意味が無い。


「どうした? もう終わりか?」


あと残りの武器は、槍、杖、爪、鞭、斧、両手剣、刀。

その中の両手剣はまずない。止められてへし折られるのがオチだろう。

次に鞭。脚に絡めて持ち上げるとしても、持ち上げれるビジョンが浮かばない。

杖といっても、私が使える魔法なんて一つも……いや、無いわけでは無い。

残ってるのは槍、爪、斧、刀の四種類。


どうしよもないなら、今できることをする!


両手剣を持ち、そのまま投げつける。

もちろん、危なげもなく防がれた。

それは予想通りの展開であり、両手剣は囮である。

背後から忍びより、爪の一撃をお見舞いする。


「同じことを!」


武神の拳をモロに喰らい,

吹き飛ばされ、光となって消える。


「分身か! ならば本命は……上!」


気づかれた!


そのまま斧を振り下ろす。

あと少しのところで当たりそうだった斧も、

やはり止められてしまった。


まぁ、これでやられるとは思っていないけど、防がれるかぁ……

「この短時間に分身の数を増やすのは良い成長だが、やはり策が単調すぎる。もっと頭を使えい」


私の分身を壁にして、もっと上から槍を投擲。

そのまま槍は私ごと突き抜ける。

武神の視線は空へ向く。


チャンスは一度きり。


全筋肉を脚に集中させ、

一撃で仕留める。

音速、いや、光の速さを超え、武神へと迫る。


「ほう! 面白い!」

その腕、取った!


はずだった。

刀を持った腕が無い。

師匠は手刀を作っている。


「主との戦いは誠に楽しかった。だが、主は儂を動かせんかった。故に試験は……」

「試験は合格ってね!」

これで私の策が終わり? そんなはずがないでしょう!


腕を斬られた身体も、

光となって消える。

そう。ここまでが私の読み。これが私の勝ち。

五人の分身に気をとられた師匠の負け。

その間、この技をひたすら準備していた。


「理の雷よ!」


真っ白なはずの世界が、青白く点滅する。

音の無かった世界に、轟音が響き渡る。


これだけでもきっと師匠を押せない。だから!

「今!」


残っていた鞭を師匠に絡めさせ、ほんの一瞬でも隙を作る。


「ちぃっ!」

「喰らえええぇぇぇぇぇ!」


雷鳴と共に、炸裂音が響き、

武神の足元には、焦げ付いてはいるが、確実に擦った跡があり……


「師匠! これは!」

「うむ……文句無しの合格じゃ。しっかし、こうも早く分身を増やしてしまうとはな。いやはや、長生きはしてみるもんだ」

「やったあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ! 師匠に勝ったぁぁぁぁ!」

「勝ってはおらんよ」

突っ込まれたけど気にしない。実際勝ったし。





戦いが終わり、森の中へと変化した世界の丸太の上で疲れを癒しながら、武神と会話をする。


「主、この先どうするのだ?」

「この先?」

えっと……あれ? 筋トレしかしてないから、やる事がないかも……あっ!

「メイド! メイドの長になりたい!」

「ほう! めいどの長とな! 良い良い! 向上心がある奴は大好きだ!」


メイド長……! どこに向上心があるかわからないけど、ずっとなってみたかったんだよね! こう、貴族の使用人達をまとめ上げてさ? ズババッと仕事をこなしてさ!

くぅ〜! カッコいい!


「でも、メイド長ってどうやってなるんだろう」

「簡単なことよ。ちょうどもうすぐ、長を決める行事がある。それに参加して、一位となればもう、めいどの長よ」

そんな簡単になれるんだ! 試験とかはそれかな?

「それなら、良いものをやるわい」


師匠は金色の輪っかを取り出した。

覗き込むと、内側が虹色に光っていて、とりあえずレアなアイテムだとは思う。


「これは次元の扉といってな。地点と地点を一度だけ繋げる使い捨ての道具。これでその会場に行くがよい」


これで簡単に行けるんだ!


「ちょっとクシャナちゃんに挨拶とかしにいってから戻ってきます!」




真っ白な空間を出て、いつもの宮殿へと戻る。

クシャナが眠っているであろう部屋に向かい、扉を開ける。


「ヘーイ! クシャナちゃん! 貴女のレヴィが戻って来たよぉ!」

「相変わらず元気ですね。こちらでは貴女が出て行ってからものの数分しか経っていないというのに」

あっ、そんなこと言ってた気がする。

まぁいいや。


「私これからメイド長になるために遠出します! なので、ちょっとだけ知識を授けて下さい!」

何も知らないまま世界に降りるとか怖いし、例えば追い剥ぎとか……? 殴ればいいのでは?

「知識、ですか」

「そう、知識ですよ」

「何か、行ってはいけない場所とか、あまり関わってはいけない国とかですかね?」


そう! そういうやつ!

「そうですね……あっ! いいですか? 絶対に冥界には行っちゃダメですよ! あそこの敵はゲーム内でも隠しダンジョンの中で一番強いんです。いくら貴女が強くて、武神様に修行を受けたとしても、危険なところです。推奨レベル80以上、マルチ必須クソダンジョンですので」


何それ怖! それにいつのまにか武神様に修行を受けたこと知ってるし。

絶対に行かんとこ。


「後は……魔王城建設予定地ですかね。あそこに今行っちゃうと、世界軸が変わっちゃうので」

それは、まぁ、どうとでもなるでしょう。


「ありがとう! じゃあ、行ってくるね!」

「待ってください! 忘れてました! レヴィは今から人間界に行くんですよね」

「うん、多分ね」

きっとそうだろう。

「なら、これを持っていってあげて下さい」


クシャナからダチョウの卵サイズの卵を手渡される。


卵?


「なにこれ、お弁当?」

「違います! これは摩天楼の管理者の方に必ず渡しているものです! この卵は貴女の両腕が生まれる予定のもので、しっかりと愛情込めて育てれば、とっても頼りになる相棒が生まれるのです。ランダムですけど」


相棒! それも二人!

ランダムかぁ……どんなのが生まれるのかな? デカイ鳥系かな? それとも、狼?

「では、渡すものも渡したので……いってらっしゃい。レヴィ」

「いってきます!」





「別れは告げたか?」

「はい!」


卵を両腕に抱え、リングの前に立つ。


「それで行くのか? それではちと動き難かろう。どれ、師匠からの餞別というやつだ」


樫原は小さなバッグを手に入れた!


「これは?」

「便利道具だ。見た目に反して容量は別空間だからな。安心して使えい。そして追加で!」


樫原の身体が輝き出し、光は衣服を作りだす。

なにこれ! 側から見たら魔法少女の変身シーンじゃん!



変身の結果。

上半身の光はワイシャツ、その下にサラシ、下半身は黒いミニスカートと黒のロングソックスに黒のブーツ。

そして何より、純白の長ラン。背中にはでかでかと「天上天下唯我独尊」と書かれている。

頭には同じく純白の学生帽。ご丁寧に角を通す穴もある。


いや……これは……


1980年代の暴走族にしか見えないでしょ!

ちょっと時代遅れ過ぎやしない!?


「どうせ主は拳で行くのだろう? ならば、それに沿った服装というものがよいであろう?」

師匠古い! センスがとても古い! カッコいいけど!

「後は……そうさな、必殺技を授けるとでもしよう」


最初からそっちが欲しかった。


「それは、とても簡単な技なのだが、使う際にある言葉を叫ばねばならぬのだ」

「その言葉は……!」

「ちょいと耳を貸せい」


……

…………

絶対使わない。

絶対強いけど絶対使わない。


「もう行っていい?」

「うむ! 行ってこい! そして、周りの奴らを蹴散らし、見事、めいどの長となるが良い!」


輪っかを潜り、別地点へと転移する。




樫原が居なくなった部屋で一人、疑問を口にする。

「……? メイドの長? どこか遠くへ行く必要なんてない筈ですが……」


まさかこれが、この先の運命を決めていたとは、その時の樫原には知る由もなかったのであった。


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